世界一エコな学校で学んだのは「大人になるのを待たない」こと。動画取材に講演に…環境活動に邁進する22歳【環境活動家・露木しいな】

露木しいな

撮影:伊藤圭

「コロナ禍で口紅の需要が低下するなか、オーガニックリップを作り続けていたところ、コスメ業界の方から『成功率は3%だよ』と言われました。私としては、『成功率が3%あるならばやる』という気持ちでしたね」

そう語るのは、環境活動家・露木しいな(22)だ。現在、慶應義塾大学環境情報学部を休学し、環境問題に関する講演活動、SNS発信やオーガニックコスメブランドの立ち上げに携わっている。

コロナ禍を経て、マスク着用が個人の判断となる初めての夏を迎えた、2023年6月21日。露木が手掛けるコスメブランド「SHIINA organic(シイナ オーガニック)」のクラウドファンディングが最終日を迎えた。

彼女は緊張した面持ちで、クラウドファンディングのページを何度もリロードし続ける。最後の1秒まで支援を求め続けた結果、目標金額の1100万円・支援者数1500人を超え、幕を閉じた。

講演活動、リップ開発に加えて、環境問題に関する動画投稿も欠かさない。

「環境活動家」がいなくなる世界を目指し、フルコミットで活動を続ける彼女だが、意外なことにほんの数年前までは「正直、環境への興味はゼロ」だったという。

なぜ露木はZ世代を牽引する環境活動家になったのか。

未来のリーダーを育てるグリーンスクール

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撮影:甲斐昌浩

露木は2019年、“世界一エコな学校”として知られるインドネシアのインターナショナルスクール「グリーンスクール バリ(以下、グリーンスクール)」を卒業している。

環境問題に対する目覚めは、まさにグリーンスクールへの入学がきっかけだった。

「最初は、ただ英語を学びたくて留学を考えていました。そんな様子を見て、母が紹介してくれたのが、グリーンスクールだったんです。 当初は単純に、校舎の見た目に惹かれて入学を決めました」

グリーンスクールは、インドネシアのバリ島のジャングルの中に位置する。校舎は竹でできており、まるでヴィラを思わせるような美しい造形。露木が心惹かれたことにも思わず納得してしまう。

露木しいな

撮影:伊藤圭

そんな学び舎では、「サステナビリティ」と「未来のリーダーの育成」をテーマにした教育が行われている。露木がグリーンスクールで学んだことは大きく2つあるという。

「1つ目はどのような環境問題・社会問題が世界で起きているかということ、2つ目は問題に対してアクションをすることを教えてもらいました。

問題が起きていることを知っても、実際に行動に移せる人は少ないもの。グリーンスクールでは、問題を知るだけでなく、解決のために社会全体や自分の周りでできることを考えて、実行します。知識を得ることと、行動することが必ずセットになっているんです

Bye-Bye-Plastic-Bags

提供:露木しいな

学び舎をともにした同級生からも、多大な影響を受けた。

同級生であるバリ島出身のメラティ・ワイゼンとその妹イザベルは、そのうちの一人だ。

彼女たちはプラスチックごみによる環境汚染問題に着目した。店舗にかけあったり、署名活動を行ったりした結果、2019年にバリ島でレジ袋などの使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法律を作り、わずか10代にして国を動かした。

「その話を初めて聞いたときに、『大人になるまで待たなくても、社会は変えられるんだ!』と思いました。それは、今まで自分が見てきたような、1年間で何億円稼いでいますっていう人の話よりも、圧倒的に心に刺さったんです。

自分という枠を超えた活動の仕方って、めっちゃかっこいいなって」

卒園遠足は32キロを徒歩移動

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露木の通った「トトロ幼稚舎」。お鍋をまな板にして調理中。

提供:露木しいな

露木は、横浜の中華街生まれの都会っ子。グリーンスクール入学以前は、環境問題には全く興味がなかったというが、入学を勧めた自然好きな母親の影響もあって、週末にキャンプを楽しむなど、小さい頃から自然との距離は近かったという。

露木が通った横浜市の「トトロ幼稚舎」もその一つ。幼児の創造性と自主性を尊重した教育方針で、野外教育に力を入れている。昼食づくりでは園児が自ら飯盒炊爨をしたり、包丁で調理をしたりするほか、野山に解き放たれて駆け回って遊ぶこともしょっちゅうだ。

なかでも印象的だった出来事は、卒園遠足。わずか6歳ほどの園児が、神奈川の箱根湯本から静岡県の三島までの約32キロを徒歩で移動する。卒園前の寒さの厳しい時期に開催されるという、過酷な環境だった。

「友達が遠足中にお弁当を地面に落としてしまって、『どこまで食べられるだろう?』と考えて、土がついていない上の方をすくって食べたり、みんなから少しずつ食料を分け与えてもらったりする場面もありました。こういう経験って、普通の生活では培えないと思うんですよね。今まで生きてきた中で、一番大変だったのは幼稚園(笑)。この経験があったからこそ、『世界のどんなところに行っても大丈夫だ』と思えるようになりました」

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山村留学「暮らしの学校だいだらぼっち」で、米を収穫する露木。

提供:露木しいな

小学3年生の時にはNPO団体が夏休みに主催する長野県泰阜村でのキャンプに参加。そこで親元を離れて泰阜村で生活をする「山村留学」という制度があることを知り、翌年の小学校4年生から2年間留学した。

幼い我が子が離れて暮らすことを母親は心配しなかったのだろうか。

「山村留学に行きたいという話をしたら、逆に母が『私も参加したい!』となるくらい、大賛同。背中を押してくれました」

留学先では無農薬の畑や田んぼを耕し、地元の猟師とともに山でイノシシを獲って捌くなど、自給自足に近い生活を約2年続けた。どんな環境にも飛び込んでいける露木の「生きる力」は、幼少期に自然の中で養われたようだ。

「大学に行っている場合じゃない」休学し講演活動へ

露木しいな

撮影:伊藤圭

「一瞬、海外の大学に留学することも考えたのですが、今まで学んできたことを日本の人に届けたいと思い、帰国して進学しました」

グリーンスクールからの帰国後は、日本の環境問題の現状を知りたいという思いもあり、慶應義塾大学環境情報学部に進学。授業は楽しかったが、若い世代へ環境問題を伝える講演活動をするために1年で休学を決めた。

露木を行動に駆り立てたのは、ニューヨークのユニオンスクエアにある「climate clock(クライメイト・クロック)」というアート作品だった

「climate clock」は、気候変動などの環境問題によって、地球が限界を迎えるまでのカウントダウンを示している。露木がその時計を見た時、あと7年の猶予しかなかった。「大学に行っている場合ではない」と感じたという。

グリーンスクールでの「何かを知ったら、行動を起こす」という学びも露木の背中を押し、休学をして、環境問題について伝えていく講演活動をするとを決めた。

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ショート動画の取材の傍ら、全国を飛び回って講演を行う露木。

提供:露木しいな

デジタルネイティブな露木の世代にとって、SNSで情報発信する手段もあったはずだ。だが彼女が選んだのは、地道な講演活動だった。

「環境問題に興味がある人に対しては、SNSのアルゴリズムでどんどん情報が届くようになっています。

それだったら、私が情報を届けるべきは、まだ環境問題・社会問題に興味があるかないかを判断するほど状況を知らない人だと思ったんです」

そこで、ターゲットとして選んだのが、小・中・高校、大学生など若者だ。「まだ環境問題・社会問題に興味があるかないかを判断するほど、状況を知らない」世代である。

「学生に環境問題を伝えることは、今後の未来が一番変わっていく行動だと思います。教育はすぐに効果が現れないので軽視されがちですが、世の中を変えていくにはとても効果的だと思います」

全国の教員がつながるコミュニティーの代表者の紹介で始まったという講演は、口コミで評判が伝わり220校、のべ3万2000人に届いた。

休み時間や放課後ではなく、できる限り授業の時間で実施するのが、露木のこだわりだ。

必ず参加しなければならない授業ならば、ある種強制力を持って、環境問題へ興味関心がまだない人にも話を届けることができるからだという。

自身の実体験を交えて話す講演には、「こんなことが起きているなんて知らなかった」という感想が多く届く。さらに、地球が抱える現状を知った学生の中には、行動を起こしてくれる人もいるそうだ。

例えば、逗子の小学校5年生は、給食で牛乳を飲むときに使うプラスチックストローの代わりに、学校の裏庭に生えている笹の茎でエコなマイストローを作り配布した。神奈川県にある女子中学生は、学校に掛け合い自作のclimate clockを置いて環境問題の提起をし続けているという。

露木を中心にして、環境問題へのアクションの輪が波紋のように広がっている。

7年かけて作り上げたオーガニックリップ

オーガニックリップ

妹の肌荒れから誕生したオーガニックリップ「SHIINA organic」。

撮影:伊藤圭

露木は最近、講演活動の数をセーブして、オーガニックコスメブランド「SHIINA organic」の活動に集中してきた。リップを製作し始めた理由は、グリーンスクール時代まで遡る。

露木がグリーンスクールに通い出したとき、2歳年下の妹の肌が化粧品によって荒れてしまう出来事が起きた。好きなことを自由に研究できる環境だったこともあり、3年の歳月をかけて、妹のために、1本のオーガニックリップを生み出した。

時を同じくして、露木はスクールトリップの一環で、インドネシア、マレーシア、ブルネイに領されるボルネオ島を訪れた。

ボルネオ島は、2005年までは面積の約70%が緑に覆われていた自然豊かな熱帯林を持つ土地だった。しかし、2015年には約50%にまで緑が減少している。この森林減少の原因の一つが、パーム油を得るためのプランテーション拡大によるものだ。

自然由来のパーム油は、一見環境に配慮されたもののように聞こえる。

だが、パーム油の原料であるアブラヤシを植えるためには、元々生えていた天然の熱帯林を燃やして、土壌の水を抜く必要がある。

パーム油の生産工程では、オラウータンやボルネオゾウなどの住処が奪われたり、伐採によって二酸化炭素が排出され、地球温暖化が悪化したりするなど、多くの環境問題につながっているという。

グリーンスクール バリでの口紅作りの様子。

グリーンスクール バリでの口紅作りの様子。

提供:露木しいな

このような学びを深めていくうちに、自分が製作をしているコスメにもパーム油が多く含まれていることに気づく。露木の中でコスメづくりと環境問題がつながった瞬間だった。

ものづくりをしていく過程で、ものを作ることに関わる環境問題・社会問題をたくさん知っていって、『これってまずくない?』と思いました

1本目のオーガニックリップが完成してからすぐ、さっそく露木は、有機農法で作られた植物原料を使い、リサイクルしやすいパッケージを使用するなど、環境配慮を徹底した“本当のオーガニックリップ”を完成させることを決意する。

「環境に配慮されていて、肌にも優しいオーガニックコスメが日本にあれば、自分もそれを使って、周りにもオススメしたいと思っていました。しかしどんなに探しても、本物のオーガニックコスメはなくて……。だから自分が作って、商品化することを決めたんです」

利島村のオーガニックツバキオイル

東京都・利島村のオーガニックツバキオイルを使用している。

提供:露木しいな

商品化までの道のりも、平坦ではなかった。製作に必要な資金は、クラウドファンディングで賛同者を募り、51日間をかけて調達した。また、安心して使えるコスメを作るにあたって、厳しい基準であるCOSMOSオーガニック認証を取得するべく、素材の選定から制作までを共にする工場選定にもこだわった。

そんな最中の2020年、コロナが世の中を襲う。口紅の需要は低下し、ただでさえ大変なブランド立ち上げにさらなる逆風が吹いた。コスメ業界の関係者をはじめ、周囲の人からは、心配の声が上がっていたという。

しかし蓋を開けてみれば、露木の取り組みに賛同する人は、のべ1506人となった。達成率113%、約1140万円とクラウドファンディングでの資金調達に成功したのは、冒頭のとおりだ。大きなことを成し遂げた直後にも、露木の目線は前を向いていた。

「達成した時は、もちろん嬉しい気持ちがありました。でも、全然過去の栄光に執着がないタイプなので、『よし!次は発送!』とすぐに次の行動に心が移りましたね」

妹のための1本の口紅が完成してから4年後。7年の時を経て、露木のオーガニックリップは、この夏多くの人の唇を彩っている。

私がワクワクしていれば、輪は広がる

露木しいな

撮影:伊藤圭

講演、SNS発信、コスメブランド立ち上げと華やかな活躍を見せ、弱冠22歳という年齢で日本を代表する環境活動家の一人となった露木だが、「いつも自分を疑っている」という。

「環境活動家として道を切り拓いていかねばならないという自負がありますが、何が正解か分からないこともあります。

だからこそ、『私がやっていることは本当に正しい?』『コスメを作ることは環境を良くすることにつながっている?』といつも自分に問う姿勢を持ち続けることを大切にしています

露木の周りにはいつも多くのフォロワーがいる。彼女の活動は、なぜ人を惹きつけるのだろうか。

「最終的なゴールは環境を良くしていくこと。そこまでの手段を選ぶ時は、自分がワクワクしながら取り組めるかということを軸に考えます

私が楽しく取り組んでいなかったら、他の人はついてきてくれない。私がグリーンスクールを見つけた時にワクワクを感じたように、他の誰かにも自分の活動を通じて、興味を持ってくれたら嬉しいです」

世の中から環境活動家がいなくなるまで、露木は“楽しみながら”活動を続ける。

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