提供:東京ビエンナーレ
「教科書に出てくる人がアーティストで、美術館にあるものがいい作品で……と、プロの人と趣味でやっている人の差がすごく際立ってきている感じがします。
美術館の中でおこなっている“他人事としてのアート”という認識が、まだまだ日本の中では強い。なかなか日常には落ちてきにくいのが現実です」
と語るのは、東京藝術大学副学長・現代アーティストの中村政人さん。
「東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023(以下、東京ビエンナーレ2023)」で、総合ディレクターを務める。
東京ビエンナーレの初開催は、2年前のコロナ禍ということもあり、初めてその名を聞く人も多いだろう。
また、ビエンナーレと聞くと、思わず「なんだか難しそう……」と尻込みしてしまう人もいるかもしれない。
そんな敷居が高いとされがちなアートが「自分の心の中にある創造性に火をつける」きっかけとなればいいと話す中村さんに、“自分ごと”にできるアートの楽しみ方や、国際的な芸術祭として東京ビエンナーレが目指す方向性について語ってもらった。
誰もが参加自由なビエンナーレ
《超分別ゴミ箱》(1995年)、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
提供:東京ビエンナーレ
最大の特徴は、一鑑賞者としてではなく、担い手として誰もが参加できることにある。
そのため、会期は、7月〜9月頃までのプロセス公開期間となる夏会期と、9月23日〜11月5日まで成果発表期間の秋会期の2つに分けられており、現在は、都内各地で準備が進んでいる段階だ。
第2回となる、今回のテーマは「リンケージ つながりをつくる」。
リンケージとは、公式サイトでは、こう定義されている。
「人間関係だけではなく、場所、時間、人、微生物、植物、できごと、モノ、情報などあらゆる存在が複雑に関係しながら、刻々と変容していく世界に生きているからこそ見いだされていく『関係性=つながり』」
各地域で行われるそれぞれのプログラムは「リンケージ」と呼ばれ、今回は計30のリンケージを楽しむことができる。
夏会期では、参加者はアートを作ったり、アートの素材を提供したり、ワークショップなどのプレイベントに参加したりと、さまざまな関わり方を通じて、アートや街との「つながり」をより深められる期間だ。
会場は、千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア。見慣れた街がアートによってまた違った景色となるのが面白い。
「Slow Art Collective Tokyo」制作風景(2022年、「東京ビエンナーレ2023 はじまり展」、東京サンケイビル)
提供:東京ビエンナーレ
「日々忙しいワーカーにも参加してほしい」と中村さんが語るのが、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアで行われる「Slow Art Collective Tokyo」だ。竹やロープを使って、参加者によって編み進められていく。
「作家の絵に自分が手を加えるなんてのはありえないと思うんですけど、お昼休みにご飯食べた後に覗いてもらって、おしゃべりしながら、『え、こんなことやっていいの?』といった感じで、遊んでもらえたらなって思います」
100年分の服を見て、着て、考える
西尾美也 + 403architecture [dajiba]《Pubrobe》(2016年)「あいちトリエンナーレ2016」展示風景、愛知県美術館
撮影:Yoshihiro Kikuyama、提供:東京ビエンナーレ
さらに、今回キーワードとなるのが、関東大震災から“100年”という数字だ。一部作家は、それぞれ関東大震災にちなんだリンケージを展開しており、時空を超えて当時に思いを馳せる……といった鑑賞の仕方もできそうだ。
「パブローブ:100年分の服」もその一つ。関東大震災後の復興期に建てられた神田の看板建築・海老原商店を会場に、参加者から集められた100年分の服が集う。集められた服の中には、国民服のような歴史的価値の高いアイテムもあったという。
また、実際に100年分の服を身に纏い、当時を追体験できる貸出も実施する。
着想のきっかけは2年間のケニア滞在で目の当たりにした、服が貸し借りされるカルチャーからだと、アーティストの西尾美也さんは話す。同様にここ日本でも、江戸時代には下着を貸し借りする文化があったという。
「例えば、古着自体に抵抗がある人も多いですが、それは後天的なものだと思うんですよね。ケニアに生まれて、貸し借りのある環境で育っていたら、多分そうは言ってられない。
価値観を転換させるというのは相当難しいですが、実際に袖を通してみたり、体に服を当ててみたりするだけでも、体験をシェアしていく場を持てたらと思っています(西尾さん)」
目指すのは「自律分散型のビエンナーレ」
マイケル・ホンブロウ《Why is the River Laughing?》(2023年)、バンコク・デザイン・ウィーク2023
撮影:Yugo Hattori、提供:東京ビエンナーレ
第2回目となる今回は、コロナ禍での開催となった第1回で来日が叶わなかった、海外アーティストの作品も楽しむことができる。
「川はどうして わらっているの」は、ニュージーランド出身、バンコク在住のアーティストによるリンケージだ。今は道路や高速道路となった神田川・日本橋川・隅田川の支流を、参加者と川の水の入ったタイヤを転がしながら練り歩く。
中村さんは、
「日本にいたら思いつかないユニークな視点で東京の町をリサーチする感覚を、我々はアートが触媒になることで、体験できるわけです。アートによって、新しい自分に気づき、自分ごととして心を開きながら、一歩前に踏み出すことができるといいなと思います」
と、海外アーティストの来日によって、新たなリンケージが期待できると語る。
中村さんの目指すビエンナーレのありかたは、「自律分散型」のビエンナーレだ。
実際、運営からの製作支援の他に、それぞれのリンケージが資金を集めるケースもあるといい、チームとしての最低限のバックアップはしつつも、アーティストが独自の展開の仕方を見せられるといいと語る。
「いわゆるビエンナーレというのは、各国のパビリオンがあり、大きなお金が動く国主導のイメージが強く、ある種オリンピックのような、国対抗の芸術祭になっています。
東京ビエンナーレは、上から大きな傘をかけるような国際芸術祭ではなく、それぞれが自立して、一見バラバラに見えてもゆるく繋がっている、そんなものを目指しています」
東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023
会期:夏会期 2023年7〜9月まで随時開催(プロセス公開)
※各取り組みについて、公募企画や経過報告会などさまざまな形でご参加いただける時期(一部展示も実施)
秋会期 2023年9月23日(土)〜11月5日(日)(成果展示)
※上記の活動を経て生まれた作品の展示や、イベント、パフォーマンスなどをご体験いただける時期
会場:東京都心北東エリア(千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア) 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等(屋内外問わず)
主催:⼀般社団法⼈東京ビエンナーレ
参加費:無料