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8月以降、中国不動産業界の低迷とトップ企業のデフォルト危機が世界に不安を与えている。月末にかけて渦中の2社が2023年1~6月期決算を発表したほか、債務整理の協議が多少進展し、不動産業界を支援する政策が出るなど、事態が小刻みに動いている。危機は回避できるのだろうか? 現状を整理する。
一時は「処理水」ニュースに押し流されるも……
日本が夏休みムードなのとは対照的に、8月の中国は日本でも関心が高いジャンルのニュースが目白押しだった。
まず訪日団体旅行の解禁、そして不動産市場の下落と業界トップ企業「碧桂園」のデフォルト危機。24日に日本が処理水を海洋放出すると、それまでのニュースが吹き飛ぶ勢いで「反日」が沸騰した。中国経済の停滞を背景に、処理水放出絡みの猛烈な日本叩きは「国民の不満を逸らすため」との指摘があるし、筆者もそう思っている。
ただ、処理水放出から1週間すると中国では早くもニュースが下火になり、不動産関連のニュースが再び世の中をにぎわしている。不動産市況の動向こそ、国民が心の底から気にしているトピックだということがよく分かる。
8月下旬は中国の不動産大手が相次いで2023年1~6月期決算を発表した。業界危機の引き金を引いた恒大集団と、デフォルト危機に揺れる碧桂園2社の状況は以下のようになっている。
恒大集団:次の山場は9月下旬
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恒大集団が8月7日に発表した1~6月期の売上高は前年同期比44%増の1281億元(約2兆6000億円、1元=20.31円)だった。純損益は330億元(約6700億円)の赤字で、前年同期の664億元(約1兆3000億円)から半減した。
売上高増加は、住宅の建築が進み、引き渡しが増えたことが主な理由と見られる。
7月17日には財務調査のため発表を延期していた2021年および2022年の決算も公表された。開発用不動産の評価減などによって、2021年および2022年の同社の純損失はそれぞれ4760億元(約9兆6000億円)、1059億元(約2兆1000億円)と2年連続で赤字を計上した。
2023年6月末時点の同社の負債総額は2兆3882億元(約48兆円)で、債務超過額は6442億元(約13兆円)。2021年9月に恒大の債務危機が表面化したとき、負債総額は約2兆元(約40兆円)と推定されたが、公表された決算からさらに多かったことが分かる。
事業継続のための債務再編に向けた動きも進んではいる。
恒大は8月17日に米国で連邦破産法15条の適用を申請した。適用されると訴訟や差し押さえを回避して米国内の資産を保護できる。
同月28日には香港市場で1年5カ月ぶりに取引を再開した。期日までに決算を公表できなかったため、同社は2022年3月に株式が売買停止となっており、今年9月下旬にも上場が廃止される可能性があったが、上述のように2021年以降の決算を順次発表したことで取引再開にこぎつけた(ただし28日の終値は取引停止前から79%安となり、時価総額はピーク時の85分の1に落ち込んだ)。子会社のEVメーカーと不動産管理会社の株式も7月以降取引が再開し、債務再編の最低条件はクリアした。
8月28日には同社の有利子負債の4分の1を占める外貨建て債務の再編について、債権者と協議を実施する予定だったが、恒大の提案内容を債権者が検討する時間を確保するため9月25~26日に延期された。8月は恒大関連のニュースが目白押しだったが、次の山は9月下旬になる。
碧桂園:9月4日デフォルトをぎりぎりで回避
筆者作成
中国不動産最大手の碧桂園も8月30日に2023年1〜6月期連結決算を発表した。売上高は前年同期比39%増の2263億元(約4兆6000億円)。最終損益は489億元(約9900億円)の赤字で、過去最大の赤字を計上した。負債総額は1兆3642億元(約27兆7000億円)だった。
売上高は2020年1〜6月期に近い水準だが、恒大と同様に保有する開発用不動産の評価損を計上したことや、収益の悪化により赤字に転落した。大手不動産の中では経営が比較的健全だとみなされてきた同社だが、決算では業績悪化が続けばデフォルトの恐れがあると言及した。
実際、同社は社債の償還や利払いで追い詰められている。目下の焦点は9月4日に実質的な償還期限を迎える元本39億元(約790億円)の人民元建て社債に関する債権者との協議だった。碧桂園は償還を3年延長して分割返済を行う案を提示しており、報道によると1日夜の投票で延長が認められた。直近かつ最大の危機はひとまずしのいだことになる。
碧桂園は、8月6日に期限を迎えた2250万ドル(約33億円、1ドル=145円換算)相当の社債の利払いも履行せず、30日間の猶予期間に入っている。9月5日までに実施できるかが目下の焦点だ。
8月30日には、新株発行により2億7000万香港ドル(約50億円、1香港ドル=18.65円換算)を調達すると発表した。調達した資金はそのまま融資の返済に充当する。
バブル崩壊の中小都市、立て直しの難題
碧桂園は次々にやってくる支払い期限を、ぎりぎりのところでしのいでいるが、返済を先送りして時間稼ぎをしているのが実情だ。そしてデフォルトリスクが高まっている不動産企業の収益改善のためには「工事が止まるかもしれない物件を怖くて買えない」消費者に安心材料を与え、不動産市場への信頼を取り戻さなければならない。
中国政府は企業の個別救済には慎重だが、2022年後半以降、市場の下支えを目的とする支援措置を打ち出している。ただ、マインドの悪化を転換するには至らず、7月下旬に不動産市場が重大な局面にあることを認め、より積極的に介入する方針を表明した。
9月1日には北京市と上海市が住宅ローン規制の緩和を発表した。不動産市況が低迷する中でも両都市の市場に落ち込みは見られないが、中小規模都市で政策を緩和するだけでは焼け石に水であり、大都市での規制緩和に踏み切った。
もっとも、3級以下の都市は2018年以降の過剰開発によって実需を上回る供給が続いており、バブルの色合いが濃い。碧桂園は2021年の販売実績の7割弱を3、4級都市が占めており、これら中小都市の市場回復が立て直しの鍵を握るが、危機前の販売がバブルに支えられたものであっただけに、容易な挑戦ではないだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。