マネックスグループは9月4日に事業戦略説明会を開催した。
撮影:小林優多郎
「いびつな状況が発生しうるのでは」
9月4日に都内で開催されたマネックスグループの事業戦略説明会で、同社の代表執行役会長の松本大氏は、国内の証券業界の状況を問われて、こう答えた。
松本氏が話した「いびつな状況」というのは、8月31日に楽天証券とSBI証券が発表した国内株式の取引手数料無料化を受けてのものだ。
マネックス経営陣が語った「無料化に追従しない」理由
マネックス証券の掲げる「アセマネモデル」の概要。
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マネックスグループ傘下のネット証券「マネックス証券」は2020年から顧客の資産形成・資産運用を支援の対価として報酬を得る「アセマネモデル」を推進している。内製化などで多様なサービスやツールを提供しつつ、その対価として手数料や使用料を得るというものだ。
マネックスグループ取締役でマネックス証券の社長も務める清明祐子氏。
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同じネット証券である楽天証券とSBI証券が国内株式の取引手数料無料化を発表したことで、マネックスも追従するのか注目が集まった。
だが、松本氏も同グループCEOの清明祐子氏もその可能性を否定し「アセマネモデル」を継続することを表明している。
松本氏はその理由について、「ゼロ手数料化」の動きが先にあったアメリカと日本の差について触れた。
「アメリカには『Payment For Order Flow(PFOF)』という顧客向け手数料をゼロにしても収益を得る源がある。日本の場合はそれがない。
決定的に違う構造の中で、日本株(の取引手数料)をゼロにするというのは当たり前に考えて、ちょっと無理があるのではないか。
どう考えてもハラキリ、赤字になる部分がある。そうすると、どこか他の部分で稼がなきゃ、ということになる」(松本氏)
清明氏は資産形成をする上で「日本株のみ手数料無料」という点に疑問を投げかける。
「例えば、手数料がないからといって、何回も上手じゃない取引をして資産が減ってしまっては意味がない。
資産を増やすにあたって、日本株だけではなくポートフォリオをよくしていくには、グローバル分散の米国株や時間分散の投資信託の積立、新NISAなどもうまく使う必要がある」(清明氏)
2024年から始まる新NISAとイオン銀行との提携
マネックス・アセットマネジメントの展開する「おまかせ資産運用サービス」の概要。
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マネックス証券が直近で重要視しているのは、主に2024年から始まる新NISAと、2022年12月に発表したイオン銀行との業務提携による事業だ。
新NISAについては、グループ傘下のマネックス・アセットマネジメントが持つ「おまかせ資産運用サービス」が対応予定のほか、同社の萬代克樹社長が「2023年後半から2024年後半ぐらい」のリリースを予告したインデックスタイプの新商品も新NISA対応を目指していくとしている。
イオン銀行との提携の概要。
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イオン銀行との提携も2024年1月からサービス提供を予定しているが、イオン銀行の新NISA向けサービスについては同行とマネックス証券が共同で提供することになる。
なお、イオン銀行の銀行口座数は809万だが、そのうち30万の投資信託口座がマネックス証券へ移管される予定だ(各口座数は2022年9月末時点のもの)。
マネックス証券の取締役執行役員で経営企画部長も務める松岡純也氏。
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マネックス証券の取締執行役員を務める松岡純也氏は説明会で「イオンモールなど140を超えるリアルの場所で、マネックス証券の金融商品仲介口座などのご案内をいただける」とネット証券としての狙いを説明。
また、松岡氏は「(顧客の)男女比もマネックス証券が(男)7対(女)3なのに対し、イメージで言うとイオン銀行さんはその逆となり、我々がアプローチできなかったお客様にサービスを届けられる」と期待感も話した。
「コインチェックの次」を探すマネックス
マネックスが「既存の金融事業以外」に取り組んでいることも紹介された。
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説明会のプレゼンテーションの最後は、松本氏が務め新規事業についての展望や思いを語った。
今回松本氏が触れたのはグループ傘下の全ゲノム情報を扱う「GENEX(ジーネックス)」だ。
松本氏は「全ゲノム情報を解析することで、(病気の)予防にも治療にも使える」と、日本のような医療インフラが発達していない国では特に有用であると説明した。
「今やっていることを磨いていくことは当たり前」とした上で新規事業の開発について話す松本氏。
撮影:小林優多郎
新規事業を進めていく考え方として松本氏は「マネックスの延長線上にないことでも世界で必要とされていること」と話し、世の中を観察して帰納法(バックキャスト)的にニーズを探して定めていると話した。
また典型的な事業例として2018年にマネックスグループに入った暗号資産取引所の「Coincheck(コインチェック)」について触れ、「当時、Web3という言葉もなかったが、(今後)重要になってくる」と分析していたことを明かした。
コインチェックについては具体的な新サービスなどの展開については発表されなかったが、パートナー企業へ支援や、金融業界でいうBaaS(Bank as a Service)のような、コインチェックが持つ機能を外部の企業に提供する事業を展開していく方針だ。