新人社員をどう育成したらいいのか……。悩んでいる先輩・上司世代は少なくない。
撮影:今村拓馬
「新入社員の成長のために指導をしていますが、それがハラスメントと捉えられてしまうかもしれないと思うと、何も言えなくなってしまいます」
これは、近年増加している先輩・上司世代の悩みです。
「かつてのマネジメントでは、どうも上手くいかない」という声はよく聞きます。マネジメント変革が重要課題となってきているなか、どんなことを意識して新入社員に関わるのが良いでしょうか。
今回は新入社員と関わる上で、必要な心得について考えます。
「個性を重視」してほしい新入社員世代
新入社員に「上司に期待すること」について3つまで回答知てもらった。1位は「相手の意見や考え方に耳を傾けること」だった。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2023」
まず、リクルートマネジメントソリューションズが実施した「新入社員意識調査2023」のデータを紹介します。この調査は2023年の新入社員509人が回答したものです。
調査によると「上司に期待することは何か」を聞いた質問では、「相手の意見や考え方に耳を傾けること」(49.5%)が、2022年年調査に引き続き1位の選択率です。「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」は、10年前から16.3ポイント増加し、過去最高の49.1%となりました。
一方、「言うべきことは言い、厳しく指導すること」は、10年前と比較し20.6ポイント減少し、 17.5%で過去最低となりました。
新入社員世代は、上司に個性を尊重するコミュニケーションを求める一方、厳しい指導は苦手とする傾向が年々高まっています。
指導か?ハラスメントか?
この結果に対し、先輩・上司の方々からはこのような声が挙がってくることが多いです。
「新入社員は成長を望んでいるのでしょうか?良かれと思って指導しても、それが逆効果になっている気がします」(製造業のマネジャー職)
「“パワハラ”と捉えられない話し方が年々難しく感じています。本人の成長を考えて指導をしていますが、それがハラスメントと捉えられてしまうかもしれないと思うと何も言えなくなってしまいます」 (建設業のマネジャー職)
新入社員自体の特徴や、求められる育成スタイルが変わってきており、どうしたらいいのかよく分からないという不安や恐怖感を、先輩・上司は持っているようです。
では、新入社員世代はどのような本音を持っているのでしょうか。
実際にヒアリングをしてみると次のような声が聞こえてきます。
「マイナスな点ばかり指摘されると、自分の全てを否定されているような感覚になってしまい、身動きが取れなくなってしまうんです。でも成長はしたいので、自分がより良くなる点は知りたいです」(人材業大企業の新入社員)
「お客様に迷惑をかけたくはないので、指導は受けたいです。ですが怒られるのは慣れておらず、正直とても怖いです」(金融業中堅企業の新入社員)
新入社員世代は、マイナスな点ばかりの指摘や圧の強い指導については苦手意識を持っているものの、成長を望んでいないわけではなく、適切な指導は求めている傾向にあります。
リクルートマネジメントソリューションズが実施した別の調査(新入社員1840人が回答)でも、新入社員に「仕事をするうえで重視すること」を聞いた質問のトップは、「成長」(28.8%)という結果も出ています。
仕事をする上で重視することを聞いた質問では、「成長」「貢献」「やりがい」がトップ3だった。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2023」
上司にも悩み「当時の指導はストレスだった」
ただ先輩・上司世代もこれまでと同じ指導方法ではいけないと感じてもいます。
「私はちょうど10年前の入社年次ですが、その頃受けた指導にストレスを感じていたものの言い出せませんでした」(サービス業のマネジャー職)
「これからはお互いを理解し合う、より本質的なコミュニケーションが必要になるのでしょうね」(人材業の管理職)
価値観が異なる人同士が、相互に理解し合い、信頼関係を深めていくコミュニケーションはそう簡単にできるものではないかもしれません。
ですが、新入社員の意欲や可能性を信じて少しずつ向き合ってみることに、今の時代に求められているコミュニケーションのカギがあるのではないかと思っています。
コミュニケーションの心得は“共通目的”
実際の1on1ではどんなやり方が有効だろうか? トーク例を使って考えてみたい。
撮影:今村拓馬
ここからは実際に、新入社員世代とのコミュニケーションで何が大切なのかを考えていきます。
新人と接する際に大事なこと、ズバリそれは“味方”であることを示しつつ、常にお互いの“共通の目的”をイメージしながら話を進めることです。
具体的な例として「今月の目標が未達成だったある営業職の新入社員との1on1の事例」を2段階に分け、それぞれに求められるコミュニケーションを考えてみたいと思います。
まず第1段階では、1on1の共通の目的を置き、互いの参加スタンスを揃えます。先輩・上司から提案する形でも新入社員からアイディアを出してもらう形でも構いません。
【1:冒頭で場の目的を揃える】
トーク例:「この時間では、今月の振り返りと来月に向けての話をしていこうと思うんだけど、どうかな?」
トーク例:「この時間はあなたのための時間だよ。話してみたいことはあるかな?」
1on1の冒頭では「私も新入社員のときは、上司にいろいろ相談したり話すことで気づくことがあったので、この場でも気兼ねなく話してもらえると嬉しい」などのトークも添え、新入社員が話しやすくする工夫も有効です。
ミーティングの目的が定まった後は、今月の振り返りをもとにして来月に向けてのプランを考えていきます。
その際にも、上意下達にならずフラットな立ち位置で、お互いにとっての共通の目的や目標をつくっていくための場づくりを心がけます。
新入社員の本音を引き出す質問
撮影:今村拓馬
第2段階では目標を設定します。「ここがダメだったから、次からこうした方がいい」とすぐに課題点を指摘したくなる気持ちもわかります。
しかし新入社員の本音をもとに、来月はどうしていくか目的や目標を、一方的に伝えるのではなく協働で定めていくことが重要です。
【2:新入社員の状況に沿って、目的・目標を一緒に考え伴走する】
トーク例:「今月は未達成で惜しかったね。あなたが頑張っている姿を見てきたから、来月に向けて一緒に策を考えていければと思っているよ。まずは、今月を振り返って、感じていることや、考えていることを教えてほしいな。まとまってなくても良いからさ」
ここでスムーズに本音が出てくれば良いですが、時間をかけても本音が出てこないことも想定できます。
その理由として、そもそも言語化ができていなかったり、自分の考えがどう受け取られるか不安で自己開示を躊躇したりする可能性もあります。「どうせ何も考えていない」と諦めてしまわず、次のようなトークをしていくことをお勧めします。
トーク例:「ゆっくり一緒に振り返ってみようか。例えば、A社との大切な打ち合わせがあったよね。その時、あなたはA社と真剣に向き合っていたように見えたのだけど、その辺りで印象に残った出来事や発言はあるかな?」
→事実をもとにした答えやすい問いかけから始めたり、問いを次のミーティングまでの宿題にして、考える時間を与えたりします。
トーク例:「A社の案件に関して、どのようなフィードバックがあれば助けになるかな?」
→フィードバックの要望を聞き、まずは上司・先輩から話を始め、その後に本人に感想を聞きます。
トーク例:「私は◯◯の特徴や強みを持つあなたに、◯◯を期待しているよ。違和感あるかな?来月は、それをもとにどのようなアプローチをしていくか一緒に考えてみない?」
→事実をもとにしてフィードバックをし、期待を具体的に伝えます。それをもとに、目的や目標を共に作っていきます。
ここまで見てきたように、新入社員と接する上で大事なのは納得感です。
主体的に行動できる特徴を持つ新入社員であれば、お互いの“共通目的”をすり合わせながらコミュニケーションをすることで、スムーズに本音を開示してくれるようになります。
そこまで信頼関係を築けると、厳しい指導も素直に受け止められる可能性が高まるでしょう。
次に新入社員と接する機会から、共通の目的を意識しながらコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。
武石美有紀:リクルートマネジメントソリューションズ 研究員。2014年大学在学中に個人事業開始。 2016年リクルートキャリア(現リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。