ペルーの首都リマにある「恥の壁」。
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- 高いところでは10フィート(約3メートル)近くある「恥の壁」は、ペルーの首都リマで富裕層と貧困層の居住地区を隔てている。
- 4年に及ぶ法廷闘争を経て、その一部が撤去された。
- 「民主主義において、許容できない壁だ」と判事の1人は3月、フランスメディア『ル・モンド』に語っていた。
ペルーの首都リマの高いところでは10フィート(約3メートル)近くある「恥の壁」は、40年以上にわたって富裕層と貧困層の居住地区を隔ててきた。
長い法廷闘争を経て、その一部が今年に入って撤去された。
「自由な通行に影響を及ぼすだけでなく、近隣住民の尊厳を傷つけ、2つの社会集団を分断するものだ。存在すべきではない」とグスタボ・グティエレス(Gustavo Gutierrez)判事はロイターに語った。
富裕層と貧困層の居住地区を隔てる「恥の壁」を写真とともに見ていこう。
上部には有刺鉄線が取り付けられている「恥の壁」は1980年代、治安上の懸念から作られた
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1980年代に建設が始まったこの壁は、当時ペルーで活動していた左翼ゲリラ「センデロ・ルミノソ(輝く道)」に対する懸念から作られたものだ。1990年代にはこの組織はほぼ解体されていたが、壁はその後も拡大し続けた。
「1週間で彼らは実質的に全ての壁を築き上げました。わたしたちにはどうにもできませんでした」と地元住民のラケル・ヤナクさんは2019年、Atlanticに語っていた。
そして今、壁の一部が撤去された
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4年に及ぶ法廷闘争の結果、2023年に入ってから壁の一部 —— 3マイル(約4.8キロメートル)ほどの壁の一区画 —— が撤去された。
この壁はリマの富裕層が住むラ・モリーナ(La Molina)地区と貧困層が多いビジャ・マリア・デル・トリウンフォ(Villa Maria del Triunfo)地区を隔ててきた。
「民主主義において、許容できない壁だ」とグティエレス判事は3月、『ル・モンド』に語っていた。グティエレス判事はペルーの憲法裁判所の判事で、この憲法裁判所が壁の取り壊しに賛成する判決を下した。
壁を挟んで一方は富裕層の住宅街、もう一方はスラム街…
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恥の壁は富裕層が住むサンティアゴ・デ・スルコ(Santiago de Surco)地区と貧困層が多いサン・ファン・デ・ミラフローレス(San Juan de Miraflores)地区も隔てている。
サンティアゴ・デ・スルコでは不動産価格が500万ドル(約7億3000万円)に達する一方で、サン・ファン・デ・ミラフローレスでは基本的な社会サービスにも困るほどだ。
壁は「不平等」を物理的に象徴するだけでなく、より賃金の高い仕事へのアクセスを妨げている
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かつては貧民街から裕福なカスアリーナス(Casuarinas)地区まで15分ほどで行けたものが、今では歩いて2時間かかるようになったとある地元住民は2017年、ドイツメディア『ドイチェ・ヴェレ』に語った。
その建設以来、「恥の壁」はより賃金の高い仕事を求めて富裕層の住む地域へ越境しようとする貧しい地域に住む人々にとって、大きな障害となっている。
世界銀行が4月に公表した分析によると、ペルーでは2022年、人口の3分の1弱 —— 30.1% —— が貧困ライン以下の生活をしていた。2022年、ペルーの1人当たりGDPは1万5048ドルで世界95位だった。
世界銀行のデータによると、ペルーは世界で最も所得格差の大きい国の1つでもある。
壁の一部は撤去されたものの、双方の溝を埋めようとする試みはすでに抵抗に遭っている
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富裕層が住むラ・モリーナ地区の区長フランシスコ・ダムラー(Francisco Dumler)氏は、同地区は壁を撤去せよとの裁判所の判決に従うとロイターに語った。
ただ、「ビジャ・マリア・デル・トリウンフォからラ・モリーナへ直接越境できるような道や車両が通行できる道路を建設する可能性はゼロであることをはっきりさせておかなければならない」とダムラー氏は付け加えた。
富裕層と貧困層を隔てる壁は、ペルーの「恥の壁」だけではない
壁を挟んだコミュニティー間のあからさまな格差は、受賞歴のある展覧会『Unequal Scenes』で2022年に紹介されたこともある。
ドローンを使った撮影で、世界で最も目に見えて階層化された世界中のいくつかの都市を俯瞰的に捉えたものだった。
この展覧会ではリマの他にもインドのムンバイやメキシコのメキシコシティ、アメリカのサンフランシスコ、ケニアのナイロビなどの写真も展示された。