都内で開かれた「dip 年齢入力任意化 35万件突破 &本部長就任発表会」に登壇したディップの冨田英揮社長と、俳優の真矢ミキさん。
撮影:土屋咲花
現在、仕事の求人サイトの応募をみてみると、ほとんどの場合が年齢の入力は必須となっている。
しかし、本来は募集や採用において、年齢を理由に採否を決めることは労働施策総合推進法で禁じられており、欧米では履歴書に年齢を書かないのが一般的だ。
そんな日本の現状を変えようと、求人情報サイトの「バイトル」や「はたらこねっと」などを運営するdip(ディップ)は2023年春から、求人情報を掲載する企業に対し、年齢(生年月日)の入力を任意にする働きかけを始めている。
取り組みを始め約半年で、年齢の入力を任意とした求人数は35万件を突破。じわじわと年齢を気にせず応募できる求人が増えつつある。
企業からは「意外と反発なかった」
「バイトル」に掲載されている求人の応募画面。年齢と性別は入力が任意とある。
撮影:土屋咲花
「企業からはかなり反発があるんじゃないかなと予想していたのですが、やはり皆さん、新しい価値観を感じられていて。もっと早くこうすべきだったというぐらい、非常に前向きな企業さんが多いです」
ディップの冨田英揮社長は、「年齢入力任意」の求人数の伸びについてこう受け止めた。
7月時点で、 18歳未満が働けない法律上の制限がある場所や職種の企業を除き、年齢入力を任意とした企業の割合は56.4%に上っている。
人手不足により採用活動が難航する企業が増えていることを受け、ディップではこれまでも求人条件の工夫を促す取り組みを続けてきた。
その一つが「時給アップ」だ。ディップは求人企業に対し、募集時の時給アップを要望。その結果、「バイトル」に掲載される求人情報の平均時給が上昇したことで、ユーザーの支持が集まり同社のシェア向上につながった。
次の試みとして注目したのが、年齢入力の任意化だった。開始前には社内で賛否両論の議論があったという。
「データに年齢がないことによって、今までやれていたこと(分析など)ができなくなるかもしれないという議論はありました。
ただ、最終的にはお客さん(求人企業)と相談して、年齢入力が必須でない求人をしっかり集めていこうと。しっかりユーザーの気持ちに応える方が、支持を得るだろうという結論に至りました」(ディップ広報)
シニアに限らず応募者数増加
年齢の入力を任意化した求人は応募者数が増えるという。
出典:ディップ
同社の調査によると、年齢を理由に応募をあきらめたり、悩んだりした経験のある人は約7割に上る。
実際に、年齢の入力を任意化した軽作業の派遣募集の案件では、60歳以上の応募が約3倍になり、全体でも応募数が1.8倍に増えた事例もあるという。
副次効果として、20代の若い世代の応募数も増える傾向もあった。
「20代の方も7割以上の方がこの取り組みに好感を持ってくれています。新しい流れに対して、前向きに取り組む企業が今後選ばれていくということだと思います」(冨田社長)
求人を出す企業側にもメリットはある。ディップの広報は「応募者数が増えることで、ご経験やスキルがマッチした、今まで出会えなかった方にお会いできる可能性が広がる」と話す。
実際に年齢の入力を任意化し、シニアを採用した企業からは「今までの仕事経験でクレーム対応にも慣れていて頼もしい」などの声が上がっているという。
さらに、ディップにとってもプラスの影響を見込む。
「仕事探しをするユーザーが増えれば、求人企業側も『ディップに求人を出せば、他に出すよりも応募が来やすい』という環境になっていくと期待しています」
年齢入力については「完全撤廃が理想」(同社広報)としながらも、まずは2024年2月期に年齢入力が任意の求人を50万件まで増やすことを目指す。
とは言えディップの全体の求人数から見れば、年齢入力任意の求人は一部だ。例えば、派遣や正社員の求人サイト「はたらこねっと」の場合、関東の求人数約34万件のうち、年齢入力を任意にしているのは4万件弱に過ぎない。
職種上、年齢確認が必要な企業を除いても、すぐに応募時の年齢確認を任意にすることに抵抗がある企業も多いだろう。
日本に年齢入力任意の求人が根付くかどうかは、他の企業も含め、この動きが広がるどうかにも関わってくる。