SquareはAndroid端末だけでクレジットカード等のタッチ決済ができる「Tap to Pay on Android」の提供を日本でも開始した。
撮影:小林優多郎
キャッシュレス決済端末とPOSレジアプリを展開するSquare(スクエア)※1が9月6日、「Tap to Pay on Android」の国内提供を開始した。
これによって、加盟店舗では決済専用端末が不要になり、対応するAndroid端末だけでタッチ決済を受けられるようになる。
専用の決済端末が不要になることで、これまで設置場所などを理由にSquareを導入してこなかった店舗への普及をさらに加速させる狙いがある。
Squareは4月19日にアメリカなど6カ国でTap to Pay on Androidを提供しており、日本は7カ国目となる。
なお、決済手数料(クレジットカードの対面決済は決済額の3.25%)は発生するが、Tap to Pay on Androidの機能自体は無料となっている。
※1:アメリカでは2021年12月に社名を「Square」から「Block」に変更していますが、日本法人は「Square株式会社」。
「専用端末不要」でキッチンカーやイベント会場での決済に
Squareの「Tap to Pay on Android」では、Visa、Mastercard、JCB、American Express、Diners Club、Discoverのタッチ決済が利用できる。
撮影:小林優多郎
Tap to Pay on Android自体は非常にシンプルな仕組みだ。要求仕様が「2018年8月リリースされたAndroid 9とNFCチップのみ」となっているため、中古市場に出回っているような4〜5年前の端末でも動作する。
Squareはこれまで、同社の顔とも言える「Reader」や、プリンターなどが1つになった「Terminal」などの専用端末をリリースしてきた。
最も安価なSquare決済端末「Reader」の歴代モデル。現在は右端の四角い端末が販売されているが、2023年4月にUSB Type-C対応モデルがリリースされている。
撮影:小林優多郎
Tap to Pay on Androidはその端末さえ不要にするという意欲的な展開と言える。
そのため、例えばキッチンカーや各種催事など固定の場所以外でも商売をする移動型店舗や、飲食店や衣料品店などの来店客と従業員が近い距離でコミュニケーションし、会計するような店舗での活躍が期待できる。
Her Makertに出店していた「美味むすびuma」の久保野桂子さんと巾田直子さん。
撮影:小林優多郎
実際、Tap to Pay on Androidの日本正式ローンチの前にSquareが東京都・代官山で開催した女性起業家たちが主体となるポップアップショップ「Her Market」では、6人のビジネスオーナーがTap to Pay on Androidを先行して使用した。
各出店者は経験値はSquare自体を初めて使う人から、長年使いこなしているオーナーまでさまざまだったが、一様に「場所を取らずに簡単」とコメントしていた。
Tap to Pay on Androidは現状ではクレジットカード等のタッチ決済のみの対応で、クレジットカードのIC決済や、Squareが専用端末で対応する「Suica」や「PASMO」などの交通系IC、「QUICPay+」「iD」といった電子マネーには非対応となる。
Her Marketの複数の出店者からは「(顧客から)Suicaは使えないか、聞かれた」という声も出ており、今だに根強い交通系IC系の需要と、クレジットカード等のタッチ決済のまだ十分とは言えない認知度など、課題感は存在するようだ。
ちなみに、Tap to Payの話からやや外れてしまうが、Android端末単体でも、2022年8月から提供しているPayPayのコード決済機能は利用できる。
真の狙いは「アプリ」の利便性拡大
SquareのExecutive Directorを務める野村亮輔氏。
撮影:小林優多郎
Squareに取材をして見えてきたのは、Tap to Pay on Androidの提供でReaderなどをなくすことを目的としているわけではない、ということだ。
SquareでExecutive Directorを務める野村亮輔氏は、Business Insider Japanの取材に対し、Tap to Pay on Androidは「選択肢を増やすこと」が重要だったと話す。
「ハードウェアの値下げ※2もしており、選択肢を増やそうというイメージ。まずはお試しというところで簡単に使っていただける」(野村氏)
※2:SquareはTerminalの直販価格を8月30日から3万9980円(従来の7000円引き)に値引きしている。
そのためSquareとしては業種や事業の規模、ユースケースを絞らず、今まで通り幅広い層に対してアプローチしていく方針だ。
一方、野村氏は日本独特の事情として「Squareのアプリとしての利便性に気づいてもらえるのではないか」という期待もしていると話す。
「海外ではレジはパソコンが担っている場合が多い。一方で、日本はキャッシュレジスターとパソコンは別になっており、POSへのマインドセットが比較的薄い」(野村氏)
コンビニなど大手の事業者や中小企業でも複数店舗を持つ事業者であれば、POS(Point Of Sales System)を使って、売り上げから在庫管理まで実施しているが、機材を含めて高いもので数百万円規模のものもあり、売上帳簿と在庫表が別と言ったような事業者も少なくない。
Squareというとキャッシュレス決済端末に目が向きがちだが、モバイルPOSアプリとしての利用とセットのソリューションとなっている。
撮影:小林優多郎
そこで手数料やハードウェアが安価なことが、Squareを含む複数の事業者がスマホやタブレットのアプリとして手軽なPOS(mPOS)を展開する上でのセールスポイントにはなっている。
しかし、Squareの場合「決済端末の認知が強い」ことや、未だに現金利用が多いこともあり「決済端末としての認知から脱却できていない」ことが同社の抱える課題であり、「レジアプリとしての認知を上げる突破口になる」(いずれも野村氏)ことが、決済端末なしのTap to Pay on Androidへ同社が真に期待していることのようだ。
そもそもiPhoneへの対応はどうなっている?
現状、電子マネーを含む多彩な決済手段に対応するのであれば「Tap to Pay on Android」登場以降も専用端末は必要だ。
撮影:小林優多郎
Tap to Pay on AndroidでSquareの狙いを満たせるかと言われれば、現状そうではない。
先ほどはカードのIC決済や電子マネー非対応を挙げたが、そもそも日本で広く普及しているiPhoneでは「Tap to Pay」そのものが現時点では使えない。
iPhoneでのTap to Payについて、Squareは既に2022年9月28日からアメリカの加盟店向けに機能を展開している。
アップルの開発者向けページでは、「Tap to Pay on iPhoneは現在、アメリカ、台湾、オーストラリア、イギリス、オランダで利用可能」としている(2023年9月6日時点)。
出典:アップル
では、なぜ日本ではやらないのか?という疑問はもっともだが、これは単に「アップルがまだ日本で『Tap to Pay on iPhone』の仕組みをリリースしていないから」だ。
もちろんアップルも需要や細かい技術的なハードルなどを見て、同機能を有効化する国を決めているだろうが、Squareだけの努力ではどうにもならない、というところが現状だ。
Squareとしては、Tap to PayについてiPhoneでの機能解放を待ちつつ、順次展開していきたい方針だ。