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ハリウッドの大手エンターテインメント企業に対しては、コンテンツプロデューサーやクリエイターたちの間から視聴者データを共有するよう声が上がっているが、最近ではそこにブランド企業も加わっている。
ペプシ(Pepsi)やサンローラン(Saint Laurent)などの一流ブランド企業は、広告を避けるようになった消費者に近づく戦略として、広く配信されることを目的としたエンターテインメント映画に資金をつぎ込んでいる。しかし、投資に見合う成果が挙がっているかどうかの見極めには苦労している。
P&Gスタジオが支援する『The Cost of Winning』。
HBO
プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble、同社のスタジオ事業部門はHBOのスポーツドキュメンタリー『The Cost of Winning』(原題)などのプロジェクトを支援している)のような企業では、詳細なデータをもとに広告やマーケティングの支出を評価するのが通常だ。だが大手ストリーミングプラットフォームでは、コンテンツの視聴者数や視聴者属性に関する情報をほとんど提供していない。
ハリウッドのプロデューサーやクリエイターにとっては、データ不足で何がヒットしているのかが分かりづらい点が不満だが、ブランド企業の幹部にとっては、自社が支援する映画作品にかけた費用が妥当なものだったかをCFO(最高財務責任者)に説明するのが最大の悩みの種になっている。Insiderが取材した企業幹部やハリウッドの取引先がそう明かした。
「ブランド企業の担当者は上層部から、新規顧客を獲得しながら、直接商品購入に結びつくことを示せと圧力をかけられています。それが最終目標ですから。そのうえで、たくさんの人たちが視聴したことを証明できるか、ということになるでしょうね。でもネットフリックス(Netflix)は数字を報告しません。フールー(Hulu)は広告料を払っている企業にすらデータは非公開。データを提供しているプラットフォームはほとんどありません」
そう語るのは、ユニリーバ(Unilever)やREIなどをクライアントに持つコンテンツ戦略コンサルティング企業、サブジャンル(Sub-Genre)の創業者であるブライアン・ニューマンだ。
計測をめぐりブランド各社はあの手この手
ストリーマー側に透明性がないため、ブランド各社とその代理店は、他の計測方法に頼っている。たいていはレビュー、巷の会話、SNS・ブログなどのアーンドメディア、世論など、定量・定性を織り交ぜての効果測定だ。
REIコープスタジオ(REI Co-op Studios)は、環境問題への意識を高める目的で、キーラ・セジウィック監督作品の『Space Oddity』(原題)などを支援してきた。
REIのブランドマーケティング・コンテンツ担当ディレクターとしてスタジオを統括するパオロ・モットラは、ストリーマーから視聴者情報が送られてこないので、宣伝・広報などの情報や世間の会話などに注目しているという。REIにしてみれば、プロジェクトをきっかけにして人々が環境やアウトドアについて前向きに考えるようになったと知ることのほうが、視聴者数より重要かもしれないと彼は言う。
「映画に期待する効果は、誰がそれを観たのか、観た人たちがどのように行動したのかを理解すること。広告や屋外看板、あるいはインフルエンサーと組む場合と同じ基準です」(モットラ)
ブランドストーリーテリング(Brand Storytelling)は、サンダンス映画祭と並行してブランドコンテンツのために幅広い参加者が集まるフェスティバルを開催している組織だ。マーケティング担当者がブランド映画の影響を評価するのに役立つ、ベストプラクティスの標準化、評価基準、投資収益率を考案する取り組みを先導している。
ブランドストーリーテリングは過去8カ月間、多様な映画製作責任者やクリエイターにインタビューを行った。この種のコンテンツがブランドにもたらす効果、ブランドの目的に応じて様式を選んで使用するタイミング、様式を選んで使用する際の指標、といったことを業界として合意することが目的だ。
この取り組みの担当者であるミーガン・ウェルズは、「専門用語や事前の期待という点でいろいろな混乱があり、それが評価や成果をめぐる混乱につながっていることが、私たちの調査で明らかになりました」とInsiderの取材に対しメールで説明する。
実際の視聴者数は誰も知らない
ロン・ハワードとブライアン・グレイザー率いるイマジン・エンターテインメント(Imagine Entertainment)は、ユニリーバやP&Gなどと提携して映画を製作している。クライアントであるブランド企業とはコスト回収に関し、どの程度期待できるかを事前に話し合っている。またイマジンでは、視聴データの共有に関してはどのプラットフォームが一番協力的かも説明するようにしている。データ共有に協力的な立場をとっている企業としては、広告業界では長く知られた存在であるロク(ROKU)が有名だ。
イマジンのブランド部門を率いるマーク・ギルバーは、ほとんどのストリーマーは視聴者データを示さないため、「何人が視聴したかは実際には分からない」と話す。
「ある程度のインパクトになっていることは承知していると思いますけどね。ブランド企業はたいてい、小数点第3位まで測定できるような投資に慣れきってしまっているんです」(ギルバー)
サブスクリプションストリーマーがさらなる広告収入を追求するなか、ブランド企業関係者らはストリーマーがもっとデータを共有してくれるようになることを期待している。そうなれば、ブランド企業も映画への支出をさらに増やすようになるかもしれない。
ブランド企業が映画に投じる資金は、マーケティング予算に占める割合としてはまだ相対的に小さい。しかし、P&Gスタジオ(P&G Studios)の責任者キンバリー・ドーベライナーは、特にハリウッドがもっと多くの視聴データを共有し、プロモーションパートナーとしてブランド企業との関係性を深めれば、支出を増やす可能性はあると見ている。
「資金提供のシフトがさらに進むためには、価値の方程式が等しくなければいけません。ブランド企業がすべてのコンテンツを製作してストリーマーに提供するとか、あるいはブランド企業がコンテンツを製作して配給会社がただプレミアムを払うだけ、なんていう想定はありえません」(ドーベライナー)