株式市場では歴史的に「1年間のうち最悪の月」とされる9月。資本投下先に悩んでいる投資家は多いはずだ。
Carlo Allegri/Reuters
レイバーデー(労働者の日、9月4日)の連休も終わり、秋相場が始まったが、投資家たちは夏が永遠に続くことを望んでいるに違いない。
5月1日から7月31日までの3カ月間、S&P500種株価指数は10%上昇した。
米連邦準備制度理事会(FRB)が不可能(と思われたインフレ退治と景気後退入りの回避)を可能にし、ソフトランディングを実現するかもしれないとの楽観論が投資家の間に広がったからだ。
しかし、8月から9月初旬にかけて状況は一変した。
米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)の米国株リサーチディレクター、スティーブン・クロン氏は9月5日付の顧客向けメールで、投資家が利益確定に動き、リスク高めの株式から安全資産への乗り換えを進めたため、S&P500種指数は8月に5%近く下落し、その一方で国債利回りは急上昇したと説明している。
「経済がソフトランディングの兆候を示し、FRBも7月下旬を最後に今回の利上げサイクルを終了するとの観測が広がる中、8月には投資家の関心が『アメリカの景気後退入りはあるのか?』から『FRBが間髪おかず利下げに動く動機付けをできない(もしくは余地がない)水準のインフレが続く中で米経済の成長は続くのか?』に移ったように見えます」
歴史的に年間通じて最も株価パフォーマンスの低い月とされる9月に入り、クロン氏は前月出現した相場のパターンをレビューした上で、投資先として推奨される分野や銘柄を顧客にアドバイスしている。
矛盾するデータと不透明な見通し
クロン氏は8月の相場の動きを生み出したテーマを三つ挙げる。
第一は、弱気の経済指標と強気のそれが並存し、投資家の頭を悩ませたことだ。
米労働省が8月29日に発表した雇用動態調査(JOLTS)と、米民間調査機関コンファレンスボード(全米産業審議委員会)が同日発表した消費者信頼感指数は、いずれも米経済が難局を迎えていることを示し、クロン氏は「消費者センチメント(心理)は急激に悪化し、求人件数はパンデミック前の水準にさらに近づく軟化を見せました」とまとめた。
ただし、上記の数字はよりポジティブな指標が発表されたことで相殺された。
「米商務省が8月31日に発表した個人消費支出(PCE)価格指数は市場予想に重なる結果(前年同月比3.3%の上昇)でした。続いて、米ISM(供給管理協会)が9月1日に発表した製造業景気指数も(市場予想を若干上回る)堅調な推移を見せ、同日の労働省の雇用統計も(非農業部門雇用者数が堅調、賃金の伸び鈍化、失業率は微増)と手堅い内容でした」
投資家はまず、弱気な指標の発表を受けて売り、その後強気な指標の発表受けて買いに戻った。結果として、ある幅の上下を経て横ばいの相場となった。
第二のテーマは、3月以降続く「ナロー・ブレドス(値上がり銘柄数が値下がり銘柄数に対して極端に少ない状態)」と、市場全体の力強い値動きをけん引する少数のハイテク銘柄の重要性の問題だ。
アルファベット(Alphabet)、アマゾン(Amazon)、メタ(Meta)、アップル(Apple)、マイクロソフト(Microsoft)の巨大テック5銘柄に、テスラ(Tesla)とエヌビディア(Nvidia)の2銘柄を加えた、いわゆる「マグニフィセント・セブン」は8月に軒並み下落したものの、下落幅は他の銘柄ほどではなかった。
クロン氏は、好決算を発表したアルファベットとアマゾンに注目しつつも、何より投資家の関心を集めたのはエヌビディアの決算発表だったと指摘した。
「エヌビディアの平常運転時のパフォーマンスも、8月の大きなテーマでした。同社は8月23日に(売上高が前年同期比倍増を記録するなど)極めて力強い第2四半期決算を発表し、AIプロジェクト向けにコンピューティングパワー(演算処理能力)の強化を目指す顧客企業の画像処理装置(GPU)に対する需要が引き続き旺盛であることを示しました」
第三のテーマも企業業績に関連するもので、クロン氏が注目したのは消費財関連企業の決算だ。
一般的に、消費財関連企業の決算報告書を丹念に読み込むと、消費者の動向に関して新たな事実を発見できたりするものだが、今回はその内容をどう解釈していいのか苦しんだとクロン氏は顧客向けメールに記している。
クレジットカードの延滞率は第1四半期(1〜3月)に急増、翌四半期(4〜6月)には2012年第1四半期以来の高水準に達し、債務残高については過去最高を記録した。
米百貨店最大手メイシーズ(Macy's)は、8月22日に発表した第2四半期(5〜7月)決算の中でクレジットカード延滞件数の増加に言及、「当社とクレジット業界全体で発生した滞納の増加速度は予想を超えていた」と指摘した。
ところが、クロン氏の指摘するところによれば、クレジットカード最大手ビザ(Visa)の経営陣はそのような問題は存在しないとし、むしろクレジットカード信用供与額の拡大を強調しているという。
9月に投資すべき推奨銘柄
クロン氏は不安定な値動きが続いた8月を振り返り、こう結論する。
「足元のボラティリティについて一貫して言えるのは、業績見通しを上方修正するポテンシャルを重視して銘柄を選んだ投資家が良好なリターンを得ているという事実です」
そして、9月については次のように分析する。
「アナリストデー(アナリスト・機関投資家向けの経営戦略説明会)や企業イベントが通常以上に集中することから、投資家は業績以外のカタリスト(相場を動かす材料)に注目すると予想されます」
資金の投下先を検討中の投資家に対し、クロン氏はいくつかのアイデアを提示する。そして、以下に挙げる22銘柄は、いずれもゴールドマンのアナリストの間で最有望とされる買い推奨銘柄だ。
各銘柄の目標株価、目標株価に対するアップサイド(上振れ余地)、コンセンサス予想に対するゴールドマン・サックス(GS)予想利益のアップサイド、ウォール街のアナリストの投資判断に占める「買い」の割合も付した。
バス&ボディワークス(Bath & Body Works)
Markets Insider
[時価総額]87億ドル
[目標株価(アップサイド)]52ドル(36%)
[GS予想利益アップサイド]2%
[買い投資判断シェア]65%
WWインターナショナル(WW International)
Markets Insider
[時価総額]8億ドル
[目標株価(アップサイド)]17ドル(76%)
[GS予想利益アップサイド]20%超
[買い投資判断シェア]50%
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)
Markets Insider
[時価総額]422億ドル
[目標株価(アップサイド)]81ドル(37%)
[GS予想利益アップサイド]9%
[買い投資判断シェア]61%
ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループ(Jefferies Financial Group)
Markets Insider
[時価総額]80億ドル
[目標株価(アップサイド)]40ドル(10%)
[GS予想利益アップサイド]1%
[買い投資判断シェア]40%
JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)
Markets Insider
[時価総額]4267億ドル
[目標株価(アップサイド)]176ドル(20%)
[GS予想利益アップサイド]5%
[買い投資判断シェア]74%
ブルー・アウル・キャピタル(Blue Owl Capital)
Markets Insider
[時価総額]169億ドル
[目標株価(アップサイド)]16.5ドル(38%)
[GS予想利益アップサイド]9%
[買い投資判断シェア]83%
HCAホールディングス(HCA Holdings)
Markets Insider
[時価総額]764億ドル
[目標株価(アップサイド)]329ドル(17%)
[GS予想利益アップサイド]2%
[買い投資判断シェア]81%
メルク(Merck)
Markets Insider
[時価総額]2787億ドル
[目標株価(アップサイド)]131ドル(19%)
[GS予想利益アップサイド]7%
[買い投資判断シェア]70%
バーテックス・ファーマシューティカル(Vertex Pharmaceuticals)
Markets Insider
[時価総額]906億ドル
[目標株価(アップサイド)]437ドル(24%)
[GS予想利益アップサイド]3%
[買い投資判断シェア]66%
JBハント・トランスポート・サービシズ(J.B. Hunt Transportation Services)
Markets Insider
[時価総額]1980億ドル
[目標株価(アップサイド)]225ドル(17%)
[GS予想利益アップサイド]4%
[買い投資判断シェア]56%
ジョンソン・コントロールズ・インターナショナル(Johnson Controls International)
Markets Insider
[時価総額]407億ドル
[目標株価(アップサイド)]80ドル(34%)
[GS予想利益アップサイド]-1%
[買い投資判断シェア]67%
PPGインダストリーズ(PPG Industries)
Markets Insider
[時価総額]334億ドル
[目標株価(アップサイド)]175ドル(23%)
[GS予想利益アップサイド]6%
[買い投資判断シェア]50%
リパブリック・サービシズ(Republic Services)
Markets Insider
[時価総額]458億ドル
[目標株価(アップサイド)]182ドル(26%)
[GS予想利益アップサイド]1%
[買い投資判断シェア]50%
シェブロン(Chevron)
Markets Insider
[時価総額]3068億ドル
[目標株価(アップサイド)]187ドル(14%)
[GS予想利益アップサイド]4%
[買い投資判断シェア]58%
ファースト・ソーラー(First Solar)
Markets Insider
[時価総額]199億ドル
[目標株価(アップサイド)]292ドル(57%)
[GS予想利益アップサイド]4%
[買い投資判断シェア]52%
サザン(Southern)
Markets Insider
[時価総額]734億ドル
[目標株価(アップサイド)]81ドル(20%)
[GS予想利益アップサイド]1%
[買い投資判断シェア]43%
アップル(Apple)
Markets Insider
[時価総額]2兆9621億ドル
[目標株価(アップサイド)]222ドル(17%)
[GS予想利益アップサイド]3%
[買い投資判断シェア]65%
アマゾン(Amazon)
Markets Insider
[時価総額]1兆4251億ドル
[目標株価(アップサイド)]180ドル(30%)
[GS予想利益アップサイド]4%
[買い投資判断シェア]95%
セールスフォース(Salesforce)
Markets Insider
[時価総額]2155億ドル
[目標株価(アップサイド)]340ドル(53%)
[GS予想利益アップサイド]6%
[買い投資判断シェア]72%
シフト4・ペイメンツ(Shift4 Payments)
Markets Insider
[時価総額]47億ドル
[目標株価(アップサイド)]87ドル(51%)
[GS予想利益アップサイド]5%
[買い投資判断シェア]90%
TEコネクティビティ(TE Connectivity)
Markets Insider
[時価総額]418億ドル
[目標株価(アップサイド)]168ドル(26%)
[GS予想利益アップサイド]-1%
[買い投資判断シェア]38%
ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)
Markets Insider
[時価総額]282億ドル
[目標株価(アップサイド)]20ドル(73%)
[GS予想利益アップサイド]6%
[買い投資判断シェア]55%