指輪型のスマートデバイス「TwooCa Ring」。
撮影:小山安博
決済機能付デジタルIDアプリ「TwooCa」などを提供するKort Valuta(コートヴァリュタ)は9月6日、決済機能と健康管理機能を搭載したスマートリング「TwooCa Ring(ツウカリング)」を発表した。
発売は9月6日以降順次で、価格は4万5000円(税別)。基本的には法人向けとなるB2B2E、B2B2Cでの展開となる。
健康管理や決済機能を持つ個人向けスマートリングは、市場にはすでにいくつか製品が登場している。そうした中でTwooCa Ringの特徴はその2つの特徴を持ち、かつ法人用途で使い途を模索している。
決済と健康管理に対応したスマートリング
TwooCaは、「通貨」と「人や金の通り道を通過する」という2つの意味を込めたというサービス名だ。社員証や会員証、学生証などの「ID」とフィンテックを組み合わせた「ID Tech」としてサービスを展開している。
TwooCa Ringのスペックとしては、指輪表面がカーボンファイバー、側面がプラスチック、内側がセラミックで、IPX6/IPX7相当の防水性能を備えている。
スマートフォンとはBluetooth LE 4.0で接続し、NFC Type A/Bに対応する。充電時間は約90分で、フル充電時4日間の連続駆動が可能だとしている。
ID TechはFinTechとHealth Techを組み合わせた造語。FinTechで得られた決済データ、Health Techで得られた健康データを組み合わせて解析し、AIで分析して独自アルゴリズムでスコアリングして、それを踏まえたサービスの提供を目指すという。
撮影:小山安博
これまでコートヴァリュタは。前払式支払手段発行業者としてプリペイドカードとウォレットアプリを提供。2022年10月からは、企業の従業員の福利厚生などに使えるポイントを付与する実証も開始していた。
このポイント付与の実証実験に先行して参加したOSBS社の社員205人には、2023年3月までに約59万ポイントが付与されたという。
Visaプリペイドカードを発行するTwooCaウォレットサービス。ギフトやモールといった独自サービスの利用が可能。
撮影:小山安博
TwooCaのプリペイドカードは、アプリ内で発行してECサイトなどの決済に使えるバーチャルカードに加えて物理カードの発行にも対応。
物理カードは通常のIC決済とVisaのタッチ決済にも対応する。現時点で「Apple Pay」「Googleウォレット」への対応は開発中だという。
この決済機能を指輪型のスマートリングに搭載したのが「TwooCa Ring」。発行したプリペイドカードを紐付けて、TwooCa Ringでの決済ができる。
さらに、リング内側にセンサーを装備することで、心拍数や体温、睡眠時間、歩数などのデータを取得するヘルスケアデバイスとしても利用できる。
少し太めの指輪。左薬指に指輪がなければ左小指が一番邪魔にならないように感じたが、複数のサイズがあるので任意の指に合わせて選択すると良さそう。
撮影:小山安博
指輪のサイズは5種類。それぞれの指輪のサイズに合わせた充電台が用意されるという。
撮影:小山安博
厚みはそれなりにある。
撮影:小山安博
内側にあるのが充電端子。
撮影:小山安博
センサーも内側に配備されている。
撮影:小山安博
決済時はいわゆる「猫パンチ」のようにリーダーに近づけると反応がいい。
撮影:小山安博
決済機能では、「TwooCaアプリ」を使って銀行口座、セブン銀行ATM、クレジットカードのいずれかでチャージが可能で、そのチャージ金額の範囲内で決済できる。
一定金額以下になると指定金額をチャージするオートチャージ機能や、TwooCa Ringを紛失した際などはアプリから決済機能の停止・再開もできる。
TwooCaアプリ。プリペイドカードの管理が可能。カード番号などの確認画面もある。
撮影:小山安博
利用履歴も確認できる。チャージやオートチャージの設定画面もある。
撮影:小山安博
決済をするには、Ringを決済端末のリーダー部に近づける。電磁誘導の仕組みのため、「指輪の側面をリーダーに向けるような形でタッチする」と良いそうだ。デモの担当者は「猫パンチをするように」と表現していた。
Visaのタッチ決済となるため、通常は「クレジットカードで」といってリーダーにタッチをすれば、自動的にタッチ決済で支払える。
タッチ決済のブランド制限上、1回の支払いは1万~1万5000円が上限となる。それ以上の金額の場合は、別途申し込んでいれば物理カードを使ってリーダーに差し込んでPINを入力することで決済できる。
FeliCaはサポートしないためSuicaなどの交通系ICなど電子マネーは利用できない。
ただし、クレジットカードブランドのタッチ決済に対応するため、西日本から九州地方を中心に広がり始めた公共交通機関でのタッチ決済による乗車は可能で、「指輪で改札にタッチ」という使い方もできる。
履歴などはアプリで確認可能なほか、アプリからは外部連携機能として「PayPayマネーライト(送金可・出金不可)」へのポイント交換機能も用意する。デジタルギフト交換、モールの提供などの機能も提供される。
「決済と健康管理」の同時対応で発売
デジタルギフトの機能やモール機能なども提供する。
撮影:小山安博
特に他社との違いとして打ち出すのがモール機能だ。
社員の福利厚生などを目的としたクローズドなモールで、利用者にとっては社員割引のあるお得なモールなどとして提供される。
不特定多数に向けたECサイトではないため、出店者に対しては「ブランド価値を毀損しにくいサービス」(コートヴァリュタ・柴田秀樹代表)としている。
クローズドなモールを用意。社割などが設定されるのでお得なモールになる、という。
撮影:小山安博
決済機能単体、ヘルスケア機能単体では、それぞれすでにほかのスマートリングも対応しており、「SOXAI Ring」のように今後、決済機能を搭載するとしている製品もある。
TwooCa Ringではその双方の機能を同時に搭載していち早く発売されるスマートリングであるという点が「世界初」(柴田代表)という。
健康管理機能では、内蔵センサーで心拍数などを取得し、日、週、月別にデータを計測して健康状態を採点。睡眠が足りなければ睡眠に関する健康改善コンテンツを「アクティビティ」として紹介する。
TwooCa Ringアプリでは、紐付けたTwooCa Ringのデータを取得し、独自アルゴリズムで健康状態を表示。決済機能の管理もできる。
撮影:小山安博
社員証などとしても使えるTwooCaアプリと、健康管理用の「TwooCa Ringアプリ」の2種類があり、どちらも同じアカウントでログインして利用する。
TwooCa Ringアプリは健康管理に特化しているので、最初の画面で健康状態を独自スコアリングモデルで表示。TwooCa Ringの決済データも取得して、チャージやオートチャージ設定、紛失時などのRing決済の一時停止・再開などの操作も可能だ。
ちなみに、アプリが2つに分かれているのは「将来的にヘルスケア部分だけを抜き出して提供することがあるかもしれない」(同社)ということで、2つのアプリで開発してきた経緯があったそうだ。
強みである従業員向け機能をさらに拡大
アプリではTwooCa Ringの一時停止も可能。
撮影:小山安博
決済、健康管理を備えたTwooCa Ringだが、物理カードと同じくタッチ決済にはセキュリティーがないため、誰が装着していても支払いができてしまう。
アプリを使うことで紛失時などに決済機能を停止できるが、認証機能の改善を目指すという。
具体的な方策はこれから検討していくが、センサーで取得した健康管理データとAIを組み合わせて、装着している人から得られるデータの本人らしさを確認するような仕組みや、静脈データが取得できないかなど、今後検討を重ねていくという。
健康管理データの取得でも、バッテリー消費を考えて接続したスマートフォンとの通信量を減らしているそうだが、「エクササイズモードのようなもので、より高度なデータを集めて分析できるようなモード」(柴田代表)を用意することも検討する。
社員証としての機能は、現時点で写真と社員番号、氏名を表示すると言った簡易的なものだが、今後は認証機能なども提供していく方針。
TwooCa Ringを社内への入室キーとして使う方向性も検討する。勤怠管理システムとの連携も視野に入れているそうだ。
社員証アプリは現時点で単機能だが、将来的には勤怠管理なども想定しているという。
撮影:小山安博
基本的な機能としては現時点でそれほど多機能ではないが、コートヴァリュタでは、今後さらに外部サービスとの協業も視野に入れ、特にヘルスケアサービス事業者との連携を進めたいとしている。
社員証だけでなく、学生証など幅広いIDとの連携も目指す。
撮影:小山安博
柴田氏は、TwooCaが企業の従業員をターゲットにしたB2B2EやB2B2Cのサービスであることから、B2Cが基本の競合製品とは異なると話す。
特に、社員の福利厚生向けのクローズドなサービスを推進していくことで、他社とは異なるニーズに対応したい考えだ。
また、コートヴァリュタは資金移動業への登録申請も行っており、審査が完了すれば、デジタル給与払いや送金などの新たなサービスも提供できるようになる。こうした機能拡張も今後検討していく方針だ。
コートヴァリュタは、6月に5億円のシリーズAラウンドを完了しており、累計調達額は15億4500万円(6月時点)とする。「この2~3年が勝負だと思っている」と柴田氏は話し、TwooCaの開発を継続し「さらなる資金調達も考えていきたい」としている。
イベントに参加した(写真左から)オリエントコーポレーションの飯盛徹夫社長、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー社長、Kort Valuta代表の柴田秀樹氏、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の堀天子氏。
撮影:小山安博
発売イベントには、ビザ・ワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー社長やオリエントコーポレーションの飯盛徹夫社長、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の堀天子氏も登壇。
決済機能を備えた新デバイスであり、従業員をターゲットにしたサービスなど、TwooCaのコンセプトに期待感を表明していた。