「Policy Fund」を立ち上げたPoliPoliの伊藤和真CEO(右)と、第1号基金を創設したChatworkの山本正喜CEO。
提供:PoliPoli、撮影:赤松洋太
政治・行政と国民をつなぐ政策提言プラットフォームを運営するPoliPoli(ポリポリ)は9月7日、民間発の政策立案を後押しする寄付基金事業「Policy Fund(ポリシー・ファンド)」を設立した。
この事業では、起業家から寄付を募って複数の基金を立ち上げ、NPOや社会を変えることに挑戦する「ルールメイカー」を支援。国の新しいルールづくりや予算整備に対し、民間が積極的に関与する新たな「政策立案エコシステム」の構築を目指す。
複数の寄付基金を共同で立ち上げ、政策インパクトを出していこうという日本初のスキームとなる。
「5年で100億円規模」目標
第1号基金として、Chatwork CEOの山本正喜氏が拠出する「山本正喜ポリシー基金」を創設。少子化や地方創生など5つの課題解決に取り組む支援先の公募を開始した。
山本氏は基金創設について、「自分ひとりが何をしても社会は変わらない、変えられない。そんな諦めにも似た日本社会の閉塞感を打破し、誰もが主体的に、楽しく、創造的に未来を描ける社会をつくっていく必要がある」という思いから、個人の活動として賛同することにしたとコメントしている。
PoliPoliでは今後、起業家のほか国内外の財団などからも寄付を集め、Policy Fund 全体で2024年末までに数億円、5年後に数十億円から100億円規模を目指す。
「課題先進国」なのにヒト・モノ・カネが圧倒的に不足
山本正喜ポリシー基金のイメージ図。支援する団体・企業にそれぞれ数百万円を寄付し、PoliPoliが伴走して政策提言・PR を行う。
山本正喜ポリシー基金公式サイトをキャプチャ
PoliPoliは2018年の創業以来、国民からの政策リクエストを政治家に届ける「PoliPoli」、行政に政策リクエストを届ける「PoliPoli Gov」という2つのプラットフォームを運営し、実績を積み重ねてきた。
中には、PoliPoliの取り組みがきっかけで国が動き、政府予算の獲得につながった例もある。
経済的理由で生理用品を買えない若い女性が増えている「生理の貧困」問題や、2022年の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に盛り込まれた「クリエイターの創作活動支援」などだ。
一方で、人材育成にも力を入れてきた。
2023年1月に立ち上げた「Reach Out Project(リーチ・アウト・プロジェクト)」では、ビル&メリンダ・ゲイツ財団や、Facebook共同創業者のダスティン・モスコヴィッツらが出資するOpen Philanthropy財団などから支援を受け、国境を越えた保健医療問題「グローバルヘルス」に取り組むリーダーを育成している。
背景には、「課題先進国」と言われ続けてきた日本であるにもかかわらず、課題解決をリードする人材が決定的に不足しているという危機感がある。
PoliPoliの伊藤和真CEOはこう話す。
「日本のNPOや(ソーシャル系)スタートアップにはヒト・モノ・カネが圧倒的に不足していて、社会課題の解決につながる政策提言やルールメイキングに関わる余力がない。その結果、政策提言できる民間のリーダーが育たないという悪循環が起きているんです」
小回りの効く民間が成功例を政府に提案する
すでに多くの賛同が寄せられているという「Policy Fund」。日本初のスキームに対する期待は大きい。
提供:PoliPoli、撮影:赤松洋太
なぜ民間からリーダーを育成する必要があるのか。
「課題が多すぎて、政府がすべてを把握して対応するのはもう限界に来ているからです。しかも、原資は税金なので予算をつけるには先例や成功例といった厳格な根拠が必要とされますし、執行するのにも時間がかかる」(伊藤CEO)
前述のReach Out Projectを通して、欧米の財団や富裕層が社会課題の解決に巨額の寄付金を投じ、政策立案に積極的にコミットしている状況を目の当たりにしたことも、大きな刺激になったという。
「欧米では、まだ注目されていない分野に、民間の財団や基金が小さく素早く資金を投入して実証実験を行い、その成功事例をベースに、政府を動かすような大きなムーブメントにつなげていくという流れや考え方が普通にあるんです」(伊藤CEO)
同様のスキームを日本に定着させる。そのために、社会課題解決に関心の高い起業家らと、NPOやルールメイカーをつなぐ。その相乗効果で、社会課題解決を加速させていく。
それが、Policy Fundが目指す民間発の新しい政策立案エコシステムだ。
ファンド成功のカギ握る5つのポイント
「Policy Fund」の仕組み。
提供:PoliPoli
具体的な流れは、PoliPoliが起業家個人や国内外の財団などから「寄付」として資金を調達するところから始まる。
次に、寄付を行う個人・団体それぞれが、取り組みたい課題を決めて「基金」を設立し、公募を開始する。例えば、Chatwork山本CEOの「山本正喜ポリシー基金」では、少子化や地方創生、教育、貧困、女性活躍の5分野が設定されている。
そして、基金の設立者(個人・団体)が支援先を決め、支援先に寄付金を渡して課題解決に向けた活動や研究、政策の立案・提言のために使ってもらう。そのなかで、PoliPoliはこれまで培ってきたノウハウやネットワークを生かし、支援先の政策提言を支援する。
このエコシステムが日本に定着するかどうか。その「カギを握るポイントがいくつかある」と伊藤CEOは話す。
「1つ目は基金のサイズ。運用していくには規模感が重要ですから。2つ目は受け皿。自治体など、実証実験に協力いただくパートナーを増やすことですね。3つ目は、とにかく1つでも多く政策を実現して、それをきっかけに社会が変わったという実績をつくること。これが一番大事です」
「4つ目はPR。Policy Fundの『フィランソロピー(企業・団体による社会貢献)』を文化やムーブメントとして日本全体に広げたい。だから、こじんまりやるのではなく、みんなが前面に出てアピールしていくことが重要です」
さらに、欧米の基金のようにダイナミックに展開していくことも目指す。
「5年以内に、Policy Fundの資金を運用するだけで、永遠に寄付できるスキームをつくれたらいいですね。例えば、100億円集めてその運用益が年10%だったとしたら、毎年10億円入ってくるというように。(2023年4月に開校した)神山まるごと高専さんと同じようなスキームです」
政府の対応を待つのではなく、起業家らの寄付をテコに政策提言につなげていく。日本の初となるこのスキームが広がっていくかどうかは、第2号、第3号と寄付基金を継続的に設立していけるかどうかにかかっている。今後の展開に期待したい。