「タイムマシンがあったらどうしますか」と投資家に訊けば、2003年に戻ってネットフリックス(Netflix)の株を買う、または2012年に戻ってテスラ(Tesla)の株を買う、と答えるのではないだろうか。
そんな先見の明がある投資家が、投資アプリ「マイ・ウォール・ストリート(MyWallSt)」の共同創業者兼CEOであるエメット・サベッジだ。サベッジが初めてネットフリックスの株を買ったのは18年前。当時1.69ドル(約186円)だった株価は、今や595ドル(約6万5450円)へと膨れ上がった。
また、仲買資料を確認したところ、テスラへの投資を始めたのは2012年、当時の株価は6.35ドル(約699円)となっているが、現在は755ドル(約8万3050円)だ。
株式分割分を考慮すると、ネットフリックスの株価はサベッジが最初に買った時のなんと352倍、テスラの株価は119倍にもなっている。なお、IT企業が多いナスダック100の株価は2003年1月と比較すると約10倍に、S&P500は約4倍になっている。
当時のサベッジは、やがてハリウッドの脅威となる動画ストリーミング会社と、大手自動車メーカーを相手に果敢に挑戦するEV(電気自動車)スタートアップ企業のポテンシャルを、その数年前から見抜いていたのだ。
ネットフリックスは映画DVDレンタル事業からオンデマンドでの動画ストリーミング事業へとシフトしたが、サベッジが最初に株を買った当時、動画ストリーミングはまだ一般に知られたビジネスではなかった。
もちろん、サベッジも動画ストリーミングで業界が激変するとは思っていなかったと認めるものの、延滞料金をなくして顧客との関係を強化していたネットフリックスは、競合の先を行く気はしていた、という。
「当時のネットフリックスがやっていたことはかなり革新的でした。(中略)ブロックバスター社(当時のビデオレンタル最大手)は、そんなアプローチはあり得ないとネットフリックスをバカにしていました。しかし、結局大打撃となり、最後に笑ったのはネットフリックスでしたね」
とサベッジは最近のインタビューで話している。ネットフリックスが世界的なエンタメ企業の仲間入りを果たす10年も前から目を付けることも難しいが、それ以上に、買った後もその会社の成功を信じ続けて株の売却を踏みとどまるのはさらに難儀なことだ。
サベッジは、その会社のビジョン、そして当然のことながらその経営者を信じる揺るぎない確信があるから、売りたくなる気持ちを制御できるのだという。サベッジいわく、会社のトップは、利益よりも会社の存在意義を大事にする人間でなければならない。
「ビジネス上の存在意義よりも、社会的な存在意義を持つ会社を探すことですね。
『儲けるために会社をやっているのではない、次の四半期の業績がどうなるかも重要ではない。(中略)我々は世界を変えるためにこの事業をやっているんだ』という社風の会社を探すんです」
サベッジが最初に「ハッとさせられた」会社は、デル(Dell)だったという。早いうちに株を買っておけば数千ドルが数百万ドルになっていたことに気づいたサベッジは、「次のデル」を見つけようと夢中になった。
デルの何が競合と違ったのかを見極めようと、サベッジはリサーチを重ねた。そこから生み出されたのが、数十年後にテスラへの投資を決断するに至ったプロセスだ。デルとテスラには類似点があった。
そんな成功のための秘訣をサベッジが教えてくれた。10のステップを踏むこのプロセスでは、論理と分析に関する「左脳的」な面と、創造性や想像力に関わる「右脳的」な面を使うのだという。
左脳的に判断する5つの条件
サベッジは、世界を変える次の企業を見つけるのに留意するべき「左脳的な」条件として、次の項目を挙げる。
- 前年比で売上高が順調に伸びているか
- 自己資本利益率が高いか
- 債務よりキャッシュが多いか
- 内部の人間の株式保有率が高いか
- 時価総額が比較的小さいか
時価総額については、企業価値が高い会社よりも低い会社の方が、株価が何倍にも成長する可能性が高いのだという。
右脳的に判断する5つの条件
「右脳的」な条件も同じくらい重要だとサベッジは言う。項目は次の通りだ。
- 伸びている業界か
- 強いカルチャーを持っているか
- 顧客から愛されていて顧客が無料で広告塔になってくれるか
- 持続可能な競争優位性があるか
- トップに先見の明があるか
最後の項目の評価が一番難しい、とサベッジは言う。また、例外もあるが、サベッジにとって基本的にトップとは創業者のことを指すという。
これら10の条件全てを満たす会社を見つけるのはほぼ不可能だが、投資家はなるべく多くの項目を満たす会社を狙うべきだ、とサベッジは言う。
※この記事は2021年10月13日初出です。