生物多様性に配慮する取り組みや環境保全のための活動が、ビジネスの現場で社会貢献とは違う文脈で広がりつつある。
9月7日、KDDIはAIによる生物情報可視化アプリ・Biome(バイオーム)と、スペースX社が運用する衛星通信サービスStarlink(スターリンク)を活用し、沖縄県西表島の外来種調査の実施を発表した。
スターリンクで通信確保。アプリで西表島の外来種調査
Biomeは2019年4月に公開された「いきものコレクション」アプリ。リリース4年で73万ダウンロードを越えたという。
撮影:三ツ村崇志
KDDIによると、連結子会社の沖縄セルラー電話(以下、沖縄セルラー)では、西表島などが世界遺産に登録されることが決まった2021年から、奄美大島、徳之島、沖縄島北部などで生態系の維持・保護活動を進めてきたという。
例えば、森の中にIoT定点カメラを設置し、クラウド経由で画像をAI解析することで動物の分布データなどを収集してきた。
ただ、これまでの調査だけではデータが不足。また、通信が不安定なエリアではデータ収集がままならないなどの課題があったという。
そこで今回、KDDIが業務提携を結んでいるスターリンクのサービス(Starlink Business)を活用することでインターネット通信を確保した上で、スマホアプリBiomeを活用した生態系の調査を進める。なお、KDDIによると、「Starlink Business」を活用した外来種調査は国内で初めだという。
「リアルポケモン図鑑」を作れるアプリ
Biomeは、KDDIのCVCファンドであるKDDI Green Partners Fundがこの4月に出資した京大ベンチャー・バイオームが開発するアプリだ。スマートフォンで動植物を撮影すると、AIが自動で種名を判定。ユーザーはまるで「ポケモン図鑑」のように、どこでどんな生物に出会ったのかを記録して、自分だけの図鑑を作ることができる。
バイオームではこの仕組みを活用し、非専門家である地域住民や観光客などでも公的な組織の生態系調査に参加できる仕組みを設計。これまでに環境省や自治体などと連携してアプリを通じた生態系調査を実施してきた実績がある。
この夏には、東京都と基本協定を締結し、Biomeのアプリ内で「東京いきもの調査団」を結成。アプリによる生態系調査などを通じて、都内の野生動植物の生息・生育状況をとりまとめた東京都の野生生物リスト(野生生物目録)の策定を進めている。
調査の様子。調査期間は、9月7〜8日だ。
画像:KDDI
今回の調査には、KDDI、バイオーム、沖縄セルラーから約20名が参加した。学生時代などにフィールドワークなどに携わった経験者ではなく、基本的に一般社員だ。
KDDIの広報は、Business Insider Japanの取材に対して
「従来は環境省の担当者が2名程度で現地調査していたのですが、人手が少ないことが課題でした。誰でも簡単に利用できるバイオームを使って知識のない社員が調査することで、生態系調査を加速させることが目的となります。
環境省からも、専門家だけでは限界があるため、今後は住民参加で巻き込んでやっていきたいとコメントを頂いております」
と語る。
KDDIによると今回の西表島での調査で対象としている外来種は、「ツルヒヨドリ」「タチアワユキセンダングサ」「ノヤギ」「シロアゴガエル」「オオヒキガエル」など。シロアゴガエルは一度西表島からは根絶されたというが、「再度侵入する可能性もゼロではありませんので、注意深く調査することが重要と考えています」(KDDI・広報)という。
生態系調査が「事業機会創出」につながる理由
生態系調査のような取り組みは、どうしても社会貢献活動の一環として捉えられがちだ。ただ、現代では投資家などから気候変動による財務影響の開示が求められる流れ(TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース)と共に、欧州を中心に自然環境の変化や生物多様性が企業の事業活動にどのような影響を及ぼすのかを開示する流れも加速している。いわゆる、TNFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)だ。
国内でも、特にグローバルで活動する企業では、正面から生態系との関わり方を考えなければならない状況にある。ただ、生態系への影響を定量的に把握することは非常に難しい。そこで最近増えてきているのが、バイオームやサンゴ礁の環境を再現する技術を持つイノカのように、生態系の定量化をするITツールや技術を持った企業だ。
KDDIとしても、今回の取り組みについて
「社会貢献の側面もございますが、今後スターリンクのユースケースを拡大することで、ネイチャー・ポジティブに関心の高い自治体やTNFD対応を行いたい企業からの引き合いを増やし、事業機会創出につなげていきたいと考えております」(KDDI・広報)
と、単なる社会貢献活動にとどまらず、生態系保全に対する取り組みを進めたい企業などに向けたソリューション事例を見せる意味合いがあると語る。
実際、KDDIでは2023年6月に国内通信事業者としては初めてTNFDレポートを公開しており、「生物多様性保全における通信・IoTの役割を拡大することはKDDIにとっての事業機会であると考えております」(KDDI・広報)という。