NASAの火星探査機「マーズ2020(Mars 2020)」に火星酸素現地資源利用実験/装置(MOXIE)を取り付けるマーズ2020プロジェクトのメンバーたち。
NASA/JPL-Caltech
- NASAの探査機パーサヴィアランスに搭載された装置が、火星の大気を酸素に作り変えた。
- 生産準備プロジェクトでは、小型犬が10時間呼吸するのに十分な酸素が生成された。
- 次の段階は、人間やロケット燃料に必要な酸素を作り出す技術に広げることだという。
NASAが火星の大気から酸素を作り出すことに成功した。これは赤い惑星(火星)に有人基地を建設するための大きな一歩となるかもしれない。
火星の大気から酸素を作り出すのは簡単なことではない。
火星の大気の大部分は二酸化炭素(95%)と窒素(3%)で構成されている。つまり酸素は微量しかないため、火星では呼吸することはおろか探査をすることさえ不可能なのだ。
そこで登場したのが、火星酸素現地資源利用実験/装置(Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment:MOXIE)と呼ばれるトースターほどの大きさの装置だ。
MOXIEは2021年にNASAの探査機パーザヴィアランス(Perseverance)に搭載されて火星に行き、それ以降火星で懸命にミッションに勤しんでいる。
2021年2月18日、NASAの火星探査機パーサヴィアランスが火星の表面からわずか数フィート上空にいる姿を撮影した写真。
NASA/JPL-Caltech
過去2年半の間にMOXIEは122グラムの酸素を作り出した。これは小型犬が10時間生きられる量だとNASAは2023年9月6日に声明で発表した。
少量の酸素のために多くの時間と労力を費やしているように聞こえるかもしれないが、MOXIEは単なる生産準備機なのだ。
NASAによると、科学者たちはこの技術が機能することが分かり、いつか人間が呼吸するために十分な量の酸素と、火星から帰還するロケットの動力源になる燃料を生成するためにこの技術のスケールを大きくし始めることが可能だという。
NASAの宇宙技術ミッション局で技術実証を担当するトゥルーディ・コルテス(Trudy Kortes)は声明の中で、「この技術を実際の環境で実証することで、宇宙飛行士が赤い惑星で『陸上生活』をする未来に一歩近付いた」と述べた。
MOXIEは予想の倍のパフォーマンスを見せた
この小型装置は、研究者たちが期待していた以上の成功を収めた。
NASAジェット推進研究所の技術者によって探査機パーサヴィアランスに降ろされるMOXIE。
NASA/JPL-Caltech
2023年6月、科学者たちはMOXIEの限界に挑戦した。NASAによると、MOXIEは最大生産レベルで予想の倍にあたる毎時12グラムの酸素を98%以上の純度で生成したという。
MOXIEにダメージを与えかねない危険な実験だったが、最終的にはこの技術の素晴らしい能力を証明した。
「我々はサイコロを少し振った。その時、『息を止めて何が起こるか見ていた』」と、MOXIEの主任研究員マイケル・ヘクト(Michael Hecht)は2023年6月にSpace.comに語っている。
MOXIEが火星で酸素を作る方法
MOXIEは火星の大気中の二酸化炭素を酸素と一酸化炭素(CO)に分解して不要な一酸化炭素は火星大気中に放出する。
NASAによると、科学者たちはこのMOXIEの生産準備プロジェクトを、このテクノロジーの次の段階である酸素発生装置と生成した酸素を液化して貯蔵する方法を含む、より大規模で発展したシステムの構築に役立てる予定だという。
「月や火星の資源を利用する技術の開発は、長期的な月面探査を行ったり、強固な月経済を構築したり、火星への初の有人探査活動を支援するために不可欠だ」とNASAのパム・メルロイ(Pam Melroy)副長官は声明の中で述べている。