メルカリが発行するクレジットカード「メルカード」の発行枚数が150万枚を突破した。
撮影:小林優多郎
- メルカードは、「メルカリを最もお得に使えるクレジットカード」であることは間違いない。
- しかし、メルペイの山本真人CEOによると、ポイントの還元のような「お得さ」よりも「メルカードの仕組み」の方が好評を得ているという。
- その最たる数字として山本氏は「メルカード利用者の約3人に1人が毎月の精算に売上金を利用している」と明かす。
フリマアプリ「メルカリ」の決済子会社・メルペイは9月7日、同社が発行するクレジットカード「メルカード」が、2022年12月1日の申し込み開始から約9カ月で発行枚数150万枚を突破したと発表した。
メルペイは設立当初からリアル店舗での二次元コードや電子マネー「iD」などの決済機能を提供してきたが、与信審査が必要で物理カードの発行が発生するクレジットカードは「メルカード」が初めてだ。
メルカードはテレビCMなどで積極的に認知を広げているが、他のクレジットカードにはほとんど見られない利用動向があるという。
メルカードのその特徴的なユーザーの使い方を、メルペイの山本真人CEOに直撃した。
1%以上のポイント還元を狙えるシンプルなカード
筆者の場合、メルカリでの還元率は2.5%となっている。
画像:筆者によるスクリーンショット
日本のクレジットカードで比較対象となりやすいのは、やはり還元についてだ。
メルカードの還元は、決済額(税込)の1%のメルカリポイントが付与される仕組み。加えて、メルカリ内(メルカリ、メルカリShops、メルカリストア)での買い物は、1〜4%となっている。
メルカリ内での還元率はメルカリの利用実績に応じて、変化する。詳しい条件は公表されていないが、購入だけではなく、出品の実績も加味されるようだ。正確な還元率は、メルカード入会後にアプリ内で確認できるが、4月1日と10月1日の年2回に更新される仕組みになっている。
さらに、現状ではサービス開始後から毎月実施されている「8の日」と呼ばれる還元策もある。これは毎月8日の決済分には通常の還元率に8%加える形でポイントが還元される。付加される分のポイント上限は300ポイントのため、単純計算では毎月8日に3750円までの利用であれば、通常最大9%、メルカリ内では9〜12%の還元が受けられることになる。
メルカード(メルペイスマート払い)では、先月の購入分を翌月に一括して支払う。登録した銀行口座からチャージして支払うこともできるが、メルカリポイントや売上金も使える。
画像:筆者によるスクリーンショット
そのほか、入会キャンペーンや突発的なキャンペーンなども存在するが、日常利用に関係するところとしては割とシンプルな構成になっていると言える。
メルカリ内での還元が手厚いことと、メルカリ内での利用実績が還元率に反映される点を考えると、まさに「メルカリを最もお得に使えるクレジットカード」であることは間違いない。
なお、還元されるメルカリポイントは1ポイント=1円でメルカリ内での買い物に利用できるが、メルカードやあと払い決済「スマートメルペイ払い」の翌月利用分以降の精算にも利用できる。
ポイントの付与はあくまで「1回ごとの決済額」で計算されるため、ポイントで決済額を減らしてしまうより、毎月の精算に充てた方が、さらにポイントがもらえるという点でお得だ。
「売上金」で都度払える安心感も魅力のひとつ
メルペイ代表取締役CEOでメルカリ執行役員 CEO Fintechも務める山本真人氏。
撮影:小林優多郎
ただ、山本氏によるとポイントの還元のような「お得さ」よりも「メルカードの仕組み」の方が好評を得ているという。
その最たる数字として山本氏は「メルカード利用者の約3人に1人が毎月の精算に売上金を利用している」と明かす。この売上金とはその名の通り、メルカリに出品し、売れた際に発生する利益のことだ。
メルカード利用者の3分の1が売上金を精算時に使っている。
出典:メルペイ
さらに、メルカードの利用層は「年齢や性別に偏りがあるわけではない」(山本氏)ものの、Z世代(1995年4月1日〜2006年3月1日生まれ)の利用者に限定すると、Z世代ユーザーはメルカードの「まえもって支払う」機能を他の世代より多く利用する傾向にあるという。
メルカード(とスマートメルペイ払い)は通常時、当月1日〜末日までの利用額を翌月1日〜末日に精算する形式だが、この「まえもって支払う」機能を使うと好きなタイミングで使った金額を精算できるというものだ。
Z世代のメルカード利用者は、他の世代より多く「まえもって支払う」機能を使っている。
出典:メルペイ
この使い方は従来のクレジットカード利用者からしてみると少し不思議な使い方ではある。山本氏自身も、メルペイに参画する前はSquareやApple JapanのApple Pay責任者としてのキャリアがあるなど、金融業界の造詣が深く「キャッシュフロー上は(翌月精算で)いいはず」と語る。
それでもZ世代のメルカード利用者の多くが「まえもって支払う」機能を使う理由を、山本氏は「サプライズを嫌い、失敗することのストレスを忌避する」ことにあるのではないかと話す。
実際、メルペイが8月に実施したZ世代利用者へのインタビューによると
- クレジットカードを含む「あと払い」で使い過ぎないか心配
- 精算日に、自分がイメージしていたより支払うことになるのはストレス
といった点が明瞭になってきたという。
メルカリのZ世代調査による結果。
出典:メルカリ
加えて、メルカリが8月7日に発表した「『世代別の消費行動と資産認識』に関する調査」の「Z世代の約2人に1人が“家にある自分の持ち物を売ることを想定して買い物を経験」しているとする結果もある。
Z世代の少ないメルカードユーザーが、あと払いで購入し、出品して資金を得られたら、売上金で都度精算するといった今までにない使い方をしている様子がわかる。
メルカードは「メインでもサブでもない」立ち位置
特筆すべき特徴があるメルカードだが、日常で使うメインカードになりうるか。
撮影:小林優多郎
こうした「不用物の出品で売上金が得られる」「その売上金であと払いの都度精算ができる」一気通貫の仕組みは、国内ではメルカードならではの特徴と言える。
ただ、メルカードは前述の通り「メルカリでお得なカード」であり、日々の支払いすべてに充てるメインカードにするには、他社と比べるとやや劣る部分もある。
例えば、メルカードの利用上限額はメルペイのAI与信審査によって決定されるが、最大50万円となっており大きな買い物をするには他社と比べて心許ない部分がある。また、年会費は無料なもののショッピングや旅行時などに役立つ付帯保険なども用意されていない。
メルカードについて「Z世代に限らず、日本人は節約を美徳にする気持ちが強い。普通の原資からは我慢して買わなかったものをメルカードでは買いやすくなるみたいな存在を意識している」と語る山本氏。
撮影:小林優多郎
山本氏は利用上限について「もっと増やしていくことはやっていける」としつつ、メルカードの還元や付帯保険などを充実させて、いわゆるメインカードの座を目指すことについては懐疑的な見方をしている。
「日本のクレジットカード業界では、今まで成人について「メイン」と「サブ」が2枚という考え方だったが、それ自体も変わっていくと思う。
これまでは給与が月の特定のタイミングにやってくる。その給与がメインバンクの口座に入り、その口座に紐づくメインカード、と特定の加盟店でお得に使うサブみたいな使い分けはされていた。
ただ、メルカリのような特定のタイミングでも給与でもない『売上金』を使うところだと、メインやサブとは違う使われ方になる」(山本氏)
そのため、山本氏は、年会費が発生して付帯保険の補償額やポイント還元率がアップするようなゴールドカードについては「(他社と)全く同じ考え方でやることは考えていない」(山本氏)としている。
ただ、ゴールドカードのようなエディション分け自体を「全く否定するわけではない」とし、「検討はしている」(いずれも山本氏)とも話す。
「(実現)できたらおもしろいと考えているのは、メルカリでファッションエディションのようなもの。メルカリやその人の使い方が便利になる形でのお得と組み合わせると、すごく良いと思う。
ゴールドカードなどはどちらかといえば(ユーザーを)囲い込むようなものだと思うが、メルカリだけで囲い込むより、メルカリのファッションカテゴリーと街のファッション店がお得になる、みたいな方がお客様の欲しい形になるのではないか」(山本氏)
山本氏が話したのはあくまで検討ベースのものではあるが、メルカードはこうした「メインでもサブでもないカード」のポジションを今後も模索していく方針だ。