損保ジャパン社長辞任「大きな経営判断ミスした」。HD櫻田会長への追求相次ぐ

辞任を発表した損保ジャパン社長の白川儀一氏。

辞任を発表した損保ジャパン社長の白川儀一氏。

撮影:横山耕太郎

損害保険ジャパンと持株会社のSOMPOホールディングス(HD)が2023年9月8日、新宿区の本社で記者会見を開き、損保ジャパン社長の白川儀一氏の辞任を発表した。

白川氏は辞任理由について、当時不正が続いていたビッグモーターと取引を再開したことについて挙げ、「大きな経営判断ミスをしたことに責任を感じている。信頼回復に向けた第1歩を明確にするためにも1日も早い私の辞任が必要であると結論した」と説明した。

また現在、外部の弁護士による調査委員会の調査が続いていることから、辞任の時期については「調査に協力し、後任者への引き継ぎが完了した時期にすべきという指名委員会からの強い支持をいただいた」として、次期社長の人事も含めて、「今後検討する」とした。

記者会見には、SOMPOHD会長で元経済同友会・代表幹事の櫻田謙悟氏も出席。

会見では自身の責任についても何度も問われたが「持株会社の責任があるが調査委員会の調査中。関係役員の責任が明らかになった中で冷静に対処したい」とした。

疑惑のビッグモーターへの紹介を再開

損保ジャパンの本社ビル。

損保ジャパンの本社ビル。

撮影:横山耕太郎

損保ジャパンを含む大手損害保険会社は、自社の保険契約者の事故車をビッグモーターの整備工場に紹介する見返りに、ビッグモーターは自動車損害賠償責任保険の契約を割り当てていた。

2022年1月、ビッグモーターの内部告発で、車体を故意に傷つけるなどして保険金を水増しして請求していた疑惑が浮上。損保ジャパンを含む各社は、自社の保険契約者をビッグモーターに紹介する業務(入庫)を停止したが、損保ジャパンだけは2022年7月25日から入庫を再開していたという。

損保ジャパンによると、ビッグモーターによる年間約200億円の保険取り扱い額のうち、約6割を損保ジャパンが占めており、2004年からは損保ジャパンから社員が継続的に出向していた。

一連の問題に関してSOMPOHDは8月7日、社外の弁護士で構成する調査委員会を設置し、現在調査を進めている。

「出向社員は認知していなかった」

DSC_3122-1

会見の冒頭、謝罪する白川氏ら。

撮影:横山耕太郎

記者会見で白川氏は、不正の内部告発があった損保ジャパンに対して2022年7月、自社の保険契約者の事故車の紹介を再開した理由について、次のように説明した。

「(ビッグモーターの)自主調査結果において、不正指示はなかったとされた書類に通報者の署名がなされており、昨年(2022年)7月6日の役員会議で、再発防止策の実行を条件として、入庫紹介を再開するという判断した」

白川氏は、顧客が自主的にビッグモーターに入庫するケースがあり「不正請求の発生に早急に手を打つ必要性があった」とし、今後の被害拡大を防ぐためだったと弁明。一連のビッグモーターの不正については2022年8月末まで、HDの役員会にも報告していなかったという。

「今振り返れば当時の再発防止策は十分な調査や原因分析に基づく内容には至っておらず、入庫紹介の再開は適切な判断でなかった」

また2004年から続いている社員出向について、出向していた損保ジャパンの社員が不正を知っていたのかどうかについては、「(ビッグモーターの)第三者委員会が指摘したような実態は知らなかった」とした。

「入庫された車を修理する現場に我々の出向者が行く任務を持っていない。私どもも自ら出向者に対するヒアリングをし、関与はなかったという風に認識をしていた。

ただしここの部分につきましても、現在、社外調査委員会で改めて第三者によるヒアリング、確認を行っている。これ以上のコメントは控えさせていただきたい」

櫻田氏「現時点で辞任はない」

sakuradakaicho_720

会見に参加した櫻田氏。

撮影:土屋咲花

損保ジャパンとの取引は1988年、旧安田火災海上保険(以下、安田火災)の時代から続いている。一方、辞任を決めた白川氏の社長就任は2022年であることもあり、安田火災出身で損保ジャパン社長も務めたSOMPOHDトップの櫻田氏の責任を問う質問も相次いだ。

櫻田氏は「白川氏だけの辞任だけでグループを含めて自浄作用になるのか」と辞任の意向を問われて、次のように答えた。

「辞任の可能性はわかりません。調査委員会の報告を全く受けておらず、対応が十分だったのか不十分だったのか、その結果次第。少なくとも現時点で辞任の可能性はない」

以下、主な質疑応答

櫻田氏「経営者として、大きな判断ミス」

──本格的な調査はこれからだが、なぜこのタイミングで辞任を決めたのか。

白川氏:昨年の7月に入庫紹介を再開するという大きな経営判断ミスをしたことに責任を感じている。お客様、代理店、社員の信頼を裏切り、不安にさせてしまった。

信頼回復に向けた第一歩を明確にするためにも、1日も早い私の辞任が必要であると決断した。

──白川社長の辞任の申し出があった時、櫻田会長はどう思ったか。

櫻田氏:1時間ぐらい話をした記憶がある。私自身、彼をよく知っているので、大変責任感強い人間ですから、なんとしてもこの問題は自分で解決していきたい気持ちは強かったし、今でもある。

ただ、経営者として、大きな判断ミスをしてしまったことは否めないと思っているという話をされた。

気持ちは分かるということと、指名委員会の了解と、彼らの指示を待とうじゃないかと伝えた。

仮に辞任になったとしても、まだ調査委員会が残っている。後継者が任命されたとしても、今日明日からということにはならないから、お客様と社員含めてきちんとした引継ぎがなされることが必要だとコメントした。

ビッグモーターに「自認させるのは相当困難」

──入庫紹介の再開に至った経緯について。

白川氏:(事故車について)「こういう修理をする」ということについて上から指示があったというヒアリングシートがあった模様だが、それが後日、「指示がなかった」という風に書き換えられている節がある。

そういう指示を聞いたという報告が出向者からあった。しかし、最終的にビッグモーター社から提出された調査報告書には、「指示がなかった」とされた。

それを見て、今後これ以上調査を続けても、ビッグモーター社が組織的な指示を行っているということを自認させるのは相当困難であろうという話になった。

そこで、他社の動向も話を聞いていたため、議論を重ねた結果、入庫の再開を行いつつ、その代わり厳しい再発防止策を実行することで、自主判断でビッグモーターに修理の入庫をするお客様にこうした被害をさらに発生させないことを確約させることを以て入庫再開の決断をした。

──櫻田会長は、現段階で自身の責任についてどう考えているか。

櫻田氏:このような事態が損保ジャパンにおいて発生したということについて、当然のことながら持ち株会社としての責任がある。

そして、その会社を代表する私としても、何らかの責任はあるんだろうと当然思っているが、少なくとも現時点で、私が自ら申し出て辞めるという可能性はゼロである。そうではなく「責任があるので辞めなさい」という勧告があるかどうかということであれば、分からない。

「黒という言い方をした」

DSC_3156

質疑に応じる白川氏。

撮影:横山耕太郎

──ビッグモーターの会見をどう受け止めたか。

白川氏:色々複雑な思いを持って見ていたのが事実。我々がお客様に入庫の紹介をして、ビッグモーターに入れていたことは事実なので、ビッグモーターのああいう行為で我々が紹介したお客様に大きな被害を与えることになってしまった。これについて非常に申し訳ない思いを抱いていたのが正直な気持ち。

櫻田氏白川とほとんど同じ。そこ(会見)で言われてることが事実だとすると、どうしてこういう会社とのお付き合いすることになったのか、痛恨の極み。

──なぜもっと早くHDに報告しなかったのか。HDに対する距離感があったのか。

白川氏:今回発生している事象が、私どものリスク認識の誤りであったことは間違いないが、当時は非常に局所的、限定的なところで起こっていることという風にリスク認識を誤ってしてしまった。

報告の基本的なスタンスは、我々の経営に重要な影響を及ぼすことをHDの方に上げるという認識だった。ものが言いづらいという感覚を持っていることはない。

──入庫紹介の再開を協議された7月6日の役員会議で、白川社長の発言として、「事実関係としては黒が推測される」という風な発言がある。これは事実か。

白川氏:昨年6月に実施したビッグモーター社の調査の中で、内部通報のあった工場で修理が不要な部位への板金塗装を行ったり、実際の作業や塗装より高価となる修理を偽って水増しした修理費の保険金請求がされていた可能性が高いということは、認識としてあった。

ここを私が「黒」という言い方をした。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み