人工知能(AI)の急速な進化と普及により、「データセンターREIT(不動産投資信託)」が恩恵を受けると米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は予測する。
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半導体、ソフトウェア、サイバーセキュリティ、フィンテック……人工知能(AI)が私たちの生活のあらゆる面に浸透しつつあるいま、そこに投資する方法はいくらでもある。
そんな中で意外に見落とされている方法がある。世界最古の資産クラスである不動産とテクノロジーを組み合わせた「データセンター不動産投資信託(REIT)」がそれだ。
この投資テーマの有望性を示す分かりやすい論拠としてよく使われるのが、米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ、Bank of America)の株式ストラテジスト、ハイム・イスラエル氏が顧客向けメールに書いた次のようなシナリオだ。
「データがエクスポネンシャル(指数関数的)なペースで増加を続ける中、それを保存するためにより多くのデータセンターが必要になってくる」
実際のところ、AIが今後世界を変える「iPhoneモーメント」にたどり着き、バンカメの予測通り2026年までに9000億ドル規模の市場に成長するなら、データセンターの必要性は間違いなくこれまで以上に高まるだろう。
なぜいまデータセンターに注目するのか
バンカメのシニアリサーチアナリスト、デービッド・バーデン氏は9月7日付の顧客向けメールで、投資家にとって最大の関心事となっているAI市場の現状と急成長をテーマに掘り下げている。
「ジェネレーティブ(生成)AIが急速な進化を遂げ、より強力かつ手頃な価格のツールへと成長しつつある中、その恩恵を受ける銘柄やセクターを我先に探し出そうと企業や投資家は躍起になっています。
その最中、エヌビディア(Nvidia)が5月24日に発表した2024会計年度第1四半期(2〜4月)の好決算は、企業や投資家の熱狂状態に火をつける形になりました」
それ以来、AIへの注目、熱狂状態は持続したままだ。
バンカメが決算説明会のトランスクリプト(文字起こし)を分析したところ、S&P500種株価指数の構成企業の2023年第2四半期(4〜6月)決算発表におけるAI関連の言及は、前期比95.6%増加した。
AIに全く興味がない、知らないという人はすでに皆無の状況だが、技術的にはまだ黎明(れいめい)期にあると言わざるを得ない。
バーデン氏は、生成AIが機能するプロセスを「トレーニング」と「推論」という2つの中核的要素に分解して説明する。
前者のトレーニングは文字通りの内容で、モデルが大規模なデータセットを分析し、それが何を意味するのかを予測できるよう「学習」し、質問に対する正しい答えを高い精度で導くことができるよう何度もエラーを繰り返す「膨大な計算量を要する作業」だ。
一方、後者の推論とは、モデルがデータセットを通じて学習したことをベースに、未知のデータにその成果を適用して質問に正しい答えを出す作業を指す。
トレーニングと推論は表裏一体のプロセスであり、いずれも大量のデータ、データの保存場所、あらゆる演算処理に必要なコンピューティングパワーを必要とする。
そのため、世界中でデータセンターに対する需要が高まっている。
バーデン氏は、データセンター所有者の空室率が記録的な低水準にある一方で、センターの新規リース料金がグローバル規模で上昇している現状を指摘する。
そして、そのように需要の増加と空室の減少が同時に起きることで、データセンター所有者の価格決定力が高まってきている。
注目すべき「データセンターREIT」2社
ここまで説明したように、データセンターがAIの爆発的普及の恩恵を受ける可能性が高いことはすでに分かってきている。残された唯一の問題は、どのデータセンター所有者ないし事業者がその機会を活かす最適な投資を実現するかだ。
バーデン氏の見立てによれば、データセンターREIT最大手の2社が、これから数年にわたるAI需要の高まりを受けて売上高を伸ばす。両社はそれぞれ、AIモデル構築プロセスのうち異なるフェーズに特化して収益を拡大していくという。
デジタル・リアルティ・トラスト(Digital Realty Trust)は、「大企業向けのホールセール(建物および設備全体を一企業顧客に長期でリースする形態)」データセンターの展開に重点を置き、高い電力密度(面積当たりの電力容量)を要求されるAIモデルのトレーニング需要を刈り取っていくとバーデンは分析する。
一方、エクイニクス(Equinix)は、足元でAI能力の強化需要が急激に高まる中、過度に大きな資金を投じることなく即時にその需要に対応できる(コロケーション・データセンター)インフラを保有するのが強みだ。
デジタル・リアルティとは異なり、エクイニクスはトレーニング目的より推論目的でAIモデルを使う需要を刈り取る上で優位なポジションにつけている。
「近い将来、エクイニクスのリテール中心のビジネスは、顧客企業に近接したところでのサービス展開を可能にし、AIの推論フェーズのビジネスチャンスを獲得する上で優位に働くでしょう。
同社の顧客は、推論関連の機能をできるだけ早く実装したい中小企業が多いのが特徴です」
エクイニクスがすぐにでもAIを活用したい需要から利益を得るのに対し、デジタル・リアルティはキャパシティの大きさに強みがあり、「より大規模で、より長期間のAIモデルトレーニングに適した環境」を十分提供できるという。
AI市場の異なる分野から利益を生み出すスキルを備えた両社だが、いずれにしてもAIに対する需要は今後拡大する一方と考えられ、両社とも将来に莫大なビジネスチャンスが想定されるというのがバーゲン氏の見方だ。