X(旧Twitter)のオーナー、イーロン・マスク氏。
ALAIN JOCARD/AFP via Getty Images
突然のブランド変更を含め、イーロン・マスク氏が買収後に引き起こした数々の悶着が災いして、ツイッター(現在のX)のダウンロード数は過去10数年ない低い水準まで落ち込んでいる。
モバイルアプリのパフォーマンス計測を手がけるアップトピア(Apptopia)のデータによると、7月以降、Xアプリのダウンロード数はその直前の2カ月を3割近く下回って推移している。
同社にとって7月は、マスク氏が「完全に非合理的」「自分本位の決定」との広告業界からの批判やリンダ・ヤッカリーノ最高経営責任者(CEO)の制止を振り切って、ブランドの看板を「Twitter」から「X」に掛け替えた月だ。
マスク氏が440億ドル(約6兆4000億円)で同社を買収する直前の2022年7〜9月と比較すると、アプリのダウンロード数は18%減少した。
同アプリへのユーザーからの関心は、2013年11月の新規株式公開(IPO)以前まで含めて過去最も低い水準にある。
米証券取引委員会(SEC)に提出された情報開示資料によれば、同社は2011年以降、毎月1500〜3000万人のペースでダウンロード数を積み上げてきたが、この8月は1000万人にとどまった。
アップトピアによれば、アプリのダウンロード数はアメリカやイギリス、日本などの主要市場を含め、Xを利用可能なほぼすべての国で減少した。
アクセス解析ツールを提供するシミラーウェブ(Similarweb)によると、ウェブ版のX(ドメイン名は現在もtwitter.com)へのアクセスは2023年に入ってから低調続きで、8月のトラフィックはグローバルで前年同月比10%減、アメリカのトラフィックは15%減となっている。
1日および1カ月当たりのユーザー数も漸減中で、9月現在の日間アクティブユーザー(DAU)数は7月の2億5300万人から2億4900万人へと400万人(約1.6%)減少。月間アクティブユーザー(MAU)数も同様で、7月の3億9800万人から3億9300万人へと500万人(約1.1%)減った。
マスク氏は買収時、2024年までにツイッターの月間アクティブユーザー数を10億人に伸ばすとの目標を掲げており、その達成のためには今後数カ月でこの数字を3倍増させる何らかの手段が必要になる。
ただ、マスク氏自身はすでに8月20日付のX投稿で「失敗するかもしれない」と厳しい状況を認めている。
「悲しい真実だが、現時点では真に素晴らしい「ソーシャルネットワーク」というものはどこにも存在しない。
多くの人たちがそう考えていたように、我々は(目標達成に)失敗するかもしれない。でも、少なくともXがまず一つそうしたソーシャルネットワークになれるよう最善を尽くすつもりだ」
2022年10月にマスク氏がツイッターを買収した直後、アプリのダウンロード数とユーザー数は急増。その直前、4月末にマスク氏が当時のツイッター取締役会に買収を提案してから、10月末に買収手続きが完了するまでの数カ月間、ユーザー数は横ばいで推移していた。
日間アクティブユーザー数で言うと、2023年初頭の時点でおよそ2億4900万人。4月に再増加の動きが見えたものの、5月下旬の2億5200万人をピークに今日まで減少基調が続く。月間アクティブユーザー数も動きは同様だ。
匿名の関係者の証言によれば、すでに数々の報道が出ている通り、マスク氏は買収以降劇的なペースで人員削減を続けてきたが、この9月第1週にもトラスト&セキュリティ(信頼・安全)担当チームで追加のレイオフを実施し、コンテンツの監視などを担当する同担当の従業員はもはや数人しか残っていないという。
そして、広告主は相変わらずXを避け続けている。
広告専門調査会社メディアレーダー(MediaRadar)のデータによれば、2023年上半期、プログレッシブやコカ・コーラ、ゼネラル・モーターズ、AT&Tなどの大手企業はXへの広告費を90〜100%削減。その他の企業も30〜70%減らした。
当のマスク氏も7月15日のツイートで、広告収入が半減し(詳細な比較対象期間は不明)、キャッシュフローも赤字(マイナス)が続いていることを認めた。
昨今のダウンロード数の明確な減少傾向は、マスク氏がアプリに数々の変更を加え、自身による政治的意図での利用が目立つ現状と表裏一体といった感じもある。
マスク氏自身がXのトレンドのトピックに名を連ねない日はほぼないくらいで、Xはもはやその日の出来事や世間一般の話題に広く触れる場所というより、マスク氏の動向を知るためのプラットフォームと化している。
サブスクライバー(課金サービスの利用者)の投稿やコメントが優先表示されるようアルゴリズムが変更されるなど、コンテンツの根本的な変容も際立つ。
また、マスク氏の買収後、Xでは反ユダヤ主義的な投稿が増加したことが戦略的対話研究所(ISD)らの調査分析で判明し(ワシントン・ポスト、3月20日付)、LGBTQ+の人々への中傷、陰謀論に関するハッシュタグがそれぞれ大幅増加したことがデジタルヘイト対策センター(CCDH)の調査で明らかになっている(ブルームバーグ、7月19日付)。
なお、マスク氏は後者のデジタルヘイト対策センターを「自由に表現する公共の権利を守るため」として7月31日に訴えた。
Xにコメントを求めたが返答はなかった。また、同社のメディア連絡先に電話してみたが、「現在混み合っております、後ほどおかけ直しください」の自動応答だった。