近頃、もはや珍しい語ではなくなってきた「セルフケア」。
しかし具体的に何をするべきなのかを考えると、シンプルに答えるのはなかなかに難しい。
本連載「5 Habits 〜私が整う、ちいさな習慣」では、さまざまな分野で活動している人に、5つの「自分をケアし、整えるために普段からやっている小さな習慣」を聞いていく。
撮影:野口羊
第4回は、建築家の石村大輔さんにお話を伺った。
石村さんは設計パートナーの根市拓さんとともに「石村大輔+根市拓」という建築家ユニットとして、設計やものづくりに取り組んでいる。拠点は、足立区千住元町にある倉庫「Senju Motomachi Souko」だ。
あだちシティコンポスト公式サイトよりキャプチャ
撮影:野口羊
しかし、石村さんの活動は、いわゆる“建築家”の領域には収まらない。
生ごみを循環させる仕組みづくりと地域コミュニティの醸成を目的としたプロジェクト「あだちシティコンポスト」の運営にも携わるなど、“建築家”という要素を中心に日常生活や環境へのアクションを続けている姿も印象的だ。
撮影:野口羊
人と街をつなぐ建築家である石村さんはどのように暮らし、どのような習慣を持っているのだろうか。石村さんご自身が設計し、リノベーションを行った部屋を訪ねてみた。
習慣1. 琥珀くんのトイレチェックと読書
2022年6月頃から一緒に暮らしているという飼い犬、琥珀くん。生後1歳半。
撮影:野口羊
石村さんは毎朝、琥珀くんのトイレチェックを行っている。場合によっては床で用を足してしまうこともあるため、ちゃんとトイレで用を足せているか見守る必要があるそうだ。
トイレチェックにかかるのは、大体1時間ほど。琥珀くんが用を足している間に生まれた時間で、石村さんはお茶を飲んだり本を読んだりしていると言う。
多くの本は事務所に置いてあるそうだが、部屋のいたるところに本が並んでいる
撮影:野口羊
「スマホでSNSを眺めている時間ほど無意味なものはないと思い、読書をするようになりました。インプットのために、最近は建築の本ばかり読んでいます」
撮影:野口羊
意外なことに、石村さんは社会人になって以降、本を読む時間をあまり取れず読書の習慣もなかったそうだ。
読書習慣を持たない人が読書を生活に取り入れるのは容易なことではないと感じるが、琥珀くんと暮らすことで生まれた時間が、結果的に読書の習慣を身につけることにつながった。
動物に限らず、観葉植物や人間も同じだろう。もしかしたら、 “誰か”と暮らすことによって生まれる生活の新鮮なリズムは、新たな習慣を取り入れるための大事な鍵となってくれるのかもしれない。
習慣2. Instagramに日々の気づきを記す
撮影:野口羊
その日に思ったことや気づいたことを言葉にする上では、紙の日記に記すような方法もあるが、石村さんはInstagramを活用して思考の整理を行っているそうだ。
「あくまで、もう本当に、そのときに何を思ったかとか、そういうことを書いています。あんまりいい写真は載っていません……(笑)」
街中で見つけた建築の独特の階段や公衆トイレ、さらには公園の駐車場まで。石村さんのInstagramアカウントを眺めていると、その着眼点の鋭さに感銘を受ける。
なぜ感動して、なぜ感動しなかったのか。「言語化することで改めて気付かされることは多い」と石村さんは言う。
しかし、街中を少し歩くだけでいくつもの発見を得られる眼差しの解像度の高さそのものが、石村さんがデザインする自由なものづくり・空間づくりに直結しているようにも感じられた。
習慣3. 散歩と5分筋トレ
撮影:野口羊
自宅で仕事をすることもあれば、事務所に足を運んで仕事をすることもあるという石村さん。この頃は運動不足と感じることが多かったため、“5分筋トレ”を取り入れるようになったのだとか。
「5分くらいなら筋トレできるかなと思って、動画を観ながらたまにやっています。とはいえ、たった5分だとしてもできない日はあるんですけどね」
撮影:野口羊
同時に、琥珀くんとの出会いが運動不足解消にもひと役買ってくれたと言う。
散歩は1日1回。毎日同じルートを歩くわけではなく、適宜ルートを変更して歩く。琥珀くんと一緒に歩くことは、思わぬ発見にも繋がっているそうだ。
「全然知らなかった道に行けたり、犬の散歩をしている人と挨拶をしてみたり。これまで交わる機会のなかった人や道と出会えるので、散歩は面白いですよ」
人や街を繋ぐ活動をする石村さんにとって、琥珀くんとの散歩は地域そのものとのコミュニケーションを図る一つのきっかけとなっている。
習慣4. コンポストで生ごみをストレスフリーに運用
撮影:野口羊
石村さんが運営に携わっている「あだちシティコンポスト」は、参加者の生ごみを集め、作った堆肥で野菜を育てるという活動を行っている。生活の中で出てきた生ごみは、乾燥させてコンポストケースに入れるそうだ。
トートバッグ型の「LFCコンポスト」も取り入れている。
撮影:野口羊
「生ごみを入れると消えていくのが面白くて、生きてるんだなって実感します。細かく生ごみを刻んであげた方が分解しやすかったり、食べさせすぎると調子が悪くなるから、ちょっと間を置いてあげたり……。コンポストは人間の胃と同じなんです」
コンポストで作られた堆肥は植物の栄養になる。家庭で出た生ごみが、次の命を育てるのだ。
「生ごみを捨てるときに変な液体が出てくると思うんですけど、あれのニオイがストレスだったんですよね。コンポストを始めると生ごみがなくなるから、そんなストレスからも解放されました」
習慣5. とにかく考えて、人に話す
撮影:野口羊
思考の整理を行うためにインスタグラムを活用していると話していた石村さんだが、言語化と同じくらい想像を巡らせることも大切にしているという。
何がダメで、何がよかったのか。自転車に乗りながら独り言を呟き続けるそうだ。そうして着地した答えを、根市さんを始めとした身の回りの人に話すことで、思考が整理されるという。
調子を整えるときには、あえて思考を停止させる人も多いように感じる。しかし、石村さんは考えを停止させるのではなく、想像を巡らせながらとことん考え続ける。石村さんの持つ“解像度の高さ”は、そのような姿勢から生まれるものなのだろう。
これから整えたいこと
撮影:野口羊
石村さんは1980年代の建築家であるリチャード・C・トレマリオのこんな言葉を紹介してくれた。
建築家兼施工者としてのぼくの意図するところは,施主と建築家と職人が一緒になって働いて、最終目標の建物が現われ出てくるような,そういう過程を作り出すことなのです。[…]
問題だとか解決だとかいう言葉で,ぼくの仕事を説明するのがどんなに難しいか分ってくれ給え。[…]
そう言うのではなくて,仕事に参加する人たち全員の積極的対話の結果なのだ。だから,どの建物にも,そのために働いた人たち全員のインプリント(「刷り込み現象」)がある。ぼくの役割は,そういう過程がうまく実施できるような空間的枠組を設計することなのだ。
「依頼主がいて、設計者がいて、施工をする。そんな従来の方式を崩さなければいけないと思いながら『Senju Motomachi Souko』とかをやっていたんですけど、1980年代に実践している人がいたのか!と驚きました。問題解決に限った建築じゃなくて、人の対話から生み出される建築をその都度作っていけたらといいなと思います」
石村さんの自宅は『Senju Motomachi Souko』を通じて出会った足立区の職人と力を合わせることで完成した。
撮影:野口羊
人の対話から生み出されるものを作りたい。石村さんは、これからどんな方法で街を開き、人の心を開いていくのだろうか。
人と街の温かな未来に、思いを馳せる。