アシックスの新商品「GEL-LYTE III CM 1.95」。CO2排出量を、同社スニーカー平均値の4分の1以下まで削減した。
撮影:湯田陽子
売上高、営業利益ともに過去最高を記録し続けているアシックスが9月22日、新たなスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95(ゲルライトスリーシーエム1.95)」を発売する。
最大の特徴は、世界で市販されているスニーカーの中で、1足あたりの温室効果ガス排出量が最も少ないという点だ。
「CO2削減に関して、細部に至るまで妥協がないものとなっている。カーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)を最小限に抑えながら、機能性、デザイン性についても一切妥協しなかった」
アシックスが9月11日に開いた会見で、スポーツスタイル統括部長の鈴⽊豪氏はそう自信を見せた。
アシックスのECサイトと直営店では9月22日に世界同時発売。国内では9月14日からアシックスオンラインストアで先行発売する。価格は1万9800円(税込、メーカー希望小売価格)。
「世界最少CO2」スニーカーめぐり競争激化
アメリカ・ニューヨークのAllbirds店舗。アシックスは今回、スニーカーのCO2排出量「世界最少争い」でAllbirdsを抜きトップに躍り出た。
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実はここ最近、スニーカーのカーボンフットプリント削減は、シューズ業界で注目の的となっていた。
その中心を担ってきたのが、アメリカ・サンフランシスコのAllbirds(オールバーズ)だ。
2021年5月、アディダスとのコラボで、1足あたりのCO2排出量が2.94キログラムのスニーカー「FUTURECRAFT.FOOTPRINT(フューチャークラフトフットプリント)」を限定発売。
モデルごとに排出量を明記するほどCO2削減にこだわるオールバーズが手掛けてきたスニーカーの中で、最も排出量が少なく、また従来商品(アディダスのadizero RC3)に比べると63%もの削減を実現したモデルとして話題となった。
オールバーズはその後、2022年4月に「FUTURECRAFT.FOOTPRINT」の本格展開モデルの販売をスタート。
2023年4月には、さらに排出量の少ない2つの新商品「SuperLight Tree Runner」「SuperLight Trainer」を発売した(CO2排出量は順に2.85キログラム、2.14キログラム)。
今回アシックスが発売する「GEL-LYTE III CM 1.95」は、それらをしのぐCO2排出量1.95キログラムを実現した。
2023年6月、オールバーズが「世界初のネット・ゼロカーボン・シューズ」(=CO2排出量ゼロ)として「M0.0NSHOT(ムーンショット)」のプロトタイプを公開したが、発売予定は2024年春。CO2排出量が公表されている市販スニーカーとしては、9月22日の発売時点で、アシックスの「GEL-LYTE III CM 1.95」が世界最少になる見込みだ。
アシックスがトップに躍り出た理由
ベトナムにある「GEL-LYTE III CM 1.95」の製造工場。屋根の上に太陽光パネルがずらり。
提供:アシックス
今回、アシックスが「世界最少」を実現できたポイントは2つある。
1つは、従来の商品と比べてパーツを50%削減したこと。もう1つは、アシックスが排出するCO2の7割以上を占める、材料調達と生産段階のCO2排出量を80%削減したことだ。
材料のCO2削減に関しては、ミッドソール(衝撃を吸収する中間クッション材)と中敷に、サトウキビなどを原料とした複数のバイオベースポリマーを配合した「カーボン・ネガティブ・フォーム」を採用。
サトウキビの成長過程で吸収されるCO2の方が、フォーム材作製過程で排出されるCO2より多いため、フォーム材だけで見るとCO2排出量がマイナスになる。ほかにも、アッパー(靴の表面部分)と中敷に、水の使用量が少ない技法で染色したリサイクルポリエステルを採用するなどしている。
また、製造については、ベトナムにある委託先工場の協力により、太陽光パネルを導入。「GEL-LYTE III CM 1.95」の製造に使われるエネルギーを再生可能エネルギー100%でまかなう体制も実現した。
これらによって、同社のスニーカーの平均的排出量(8キログラム)の4分の1以下までCO2を削減することに成功したという。
実現支えた「ブラックボックス」の開示
会見では「ステークホルダーとともに環境負荷の低い商品をグローバルで⽣産・販売する難しさ」をテーマに、トークセッションも行われた。
提供:アシックス
シューズ業界に限らず、世界中のあらゆる業界が、原料調達から製造、輸送、使用、廃棄まで含めたサプライチェーン全体のCO2排出量の測定に取り組んでいる。
しかし、正確に測定することは極めて難しい。
というのも、1企業、今回で言えばアシックスだけが測定すれば済む話ではないからだ。
素材や部品の調達先企業、輸送する企業をはじめ、数多くの取引先に、1つの製品にかかわるCO2排出量の測定を求めなければならない。
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その実現がいかに困難を極めたのか。サステナビリティ統括部長の吉川美奈子氏は、製造工程を例に次のように語った。
「CO2を削減することだけでなく、CO2排出量を正確に計算すること。その両方(を実現する)には、委託先の工場の協力が得られないと何も進まない。
工場側は今まで問われなかったデータを提供しなければならず、詳細な工程を開示しなければならないことに戸惑っていたし、アシックスの現場側もそうした新しい要求をすることに大変苦労した」(吉川氏)
なぜそこまで苦労するのか。それは、結果的に、どの工程にどの程度コストがかかっているのかがが明らかになることにつながるからだという。
「いままでブラックボックスだった部分まで開示し、お互い非常に透明性の高いやり取りができた。そのパートナーシップのもとで、今回の商品が実現した」(吉川氏)
「GEL-LYTE III CM 1.95」について、アシックスはまず、2023年末までに約5000足の販売目標を設定。その動向を見ながら2024年の数量を検討していく。
初速としては控え目だが、すでにバリエーション展開を含めた仕込みも水面下で始動。今回取り入れた新技術を、ほかのシリーズに展開することも検討しているという。