アリゾナ州サルファー・スプリングス・バレー北部にできた地割れ。
Joesph Cook/AZGS
- アメリカでは大量の地下水を汲み上げたことから、多くの地割れが生じるようになった。
- 巨大な地割れは、帯水層の水位が低下して地面が陥没することで発生する。
- 地下水は、飲料水や農業用水に至るまであらゆる用途に利用されている。
アメリカ南西部では、大量の地下水汲み上げによって、何キロにもわたって地面が裂け始めている。
アリゾナ州、ユタ州、カリフォルニア州などでは、巨大な地割れ(fissure)が目撃されている。
地下水は淡水の主要な供給源であり、飲料水のほぼ半分、世界の灌漑用水の約40%が地下水で賄われている。
アリゾナ州で見つかった深い地割れに向けてドローンを飛ばす様子。
Brian Conway/AZGS
しかし、人間が地下水を汲み上げるスピードは、地下水が自然に溜まっていくスピードよりも速い。
アリゾナ州立地質調査所で地割れを研究しているジョセフ・クック(Joseph Cook)は、地表の下にある帯水層からあまりにも多くの地下水が汲み上げられると、地盤が陥没し、このような亀裂が生じるとInsiderに語っている。
地割れは「自然に発生するものではない」とクックは言う。
「我々が作るものだ」
カリフォルニア州モハーベ砂漠にできた大きな地割れ。ルサーン湖付近での地下水汲み上げにより発生した。
USGS
クックによると、地割れは地球の緊張状態を示すサインだという。地下水の支えを失うと、広大な範囲にわたって地盤が沈下し、それを縁取るようにして地割れが現れる。
地割れは一般的に山と山の間の盆地で発生し、家屋、道路、運河、ダムに被害を与えるほか、不動産や家畜、人間にとっての脅威になることもある。
オクラホマ州サルファー・ヒルズ近くの道路沿いにできた地割れ。
Joseph Cook/AZGS
アリゾナ州はかなり前からこの問題を認識しており、2002年以来モニタリングを続けている。
現在、アリゾナ州地質調査所が調査している地割れの長さは約270kmに及ぶ。
アリゾナ州ピカチョ盆地にできた地割れを、ドローンで上空から撮影。
Brian Gootee/ AZGS
国家の危機
2023年8月に公開されたニューヨーク・タイムズ(NYT)の調査レポートでは、地割れは国家的危機の証拠だと指摘している。
このレポートでは全米の約8万5000地点の水位を調査し、アメリカの水道システムの約90%に水を供給している帯水層は、深刻な枯渇状態にあり、回復できない可能性があると報じた。
約1.6kmに及ぶ地割れもある。
Brian Conway/AZGS
レポートによると調査地点のほぼ半数で、過去40年の間に水位が「著しく減少」している。また、過去10年間で地下水の汲み上げ量が涵養量を上回ったため、4割の地点で「史上最低」の水位を記録したという。
帯水層に再び地下水が涵養されるには、数百年あるいは数千年かかるかもしれないとレポートは指摘している。
クックによると、アリゾナ州のいくつかの地点は、すでに救いようがないという。
地下深くの帯水層の地下水が元通りになるには、何千年もかかるかもしれない。
Joesph Cook/AZGS
我々は継続して大量に水を使ってきたため、雨水が帯水層に浸み込んでいくのに十分な時間がないのだとクックは言う。
「アリゾナ州のいくつかの流域では、そのポイントをはるかに超えてしまったため、(涵養量が)回復することはない」
気候変動による悪化
タルサ大学の法学部教授で、水の専門家でもあるワリギア・ボウマン(Warigia Bowman )は、この状況に気候変動が加われば、「危機」はすでに始まっているとNYTに語っている。地球の気温が上昇すると、河川の水は減り、農家は淡水を得るために地下水に頼らざるを得なくなる。そしてアリゾナ州を含む南西部の農家に淡水を供給しているコロラド川の水量は、2000年から20%近く減少しているのだ。
2022年、干ばつでコロラド州イーズの貯水池が干上がり、緊急の魚類救済措置が発令された。だがこの魚は助からなかった。
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「The Climate Reality Project」によると、コロラド川流域の気温が2050年までにさらに華氏2~5度上昇した場合、川の水量は10~40%減少する可能性があるという。
なぜここまで悪化したのか?
過剰な地下水汲み上げに対処するにあたっての大きな問題は、全米的な規制が欠如していることにある。
連邦政府は地下水汲み上げに対する規制をほとんど設けておらず、各州の規制は弱く、地域によって異なるとNYTが報じている。
アリゾナ州で見られる地割れ。地下水の枯渇により発生した。
Joseph Cook/AZGS
アリゾナも例外ではない。自然保護団体の全米オーデュボン協会によると、アリゾナ州では地下水の利用に関してこれまで規制らしいものはほとんどなく、先着順が基本となっていた。
つまり、地下水の使用量に制限はなく、なくなるまで汲み上げることができるのだとクックは指摘する。
ピカチョ盆地近くにできた深い地割れ。
Joseph Cook/AZGS
全米規模で地下水の研究が行われることも稀だ。たいていはひとつの水源や地域に焦点を当てている。
そのため、全米的な地下水の過剰汲み上げの深刻さを認識することが困難であり、それが汲み上げに対する規制が非常に限定的であることの一因にもなっている。
その一方で、乾燥地帯で農作物を栽培するという有害な農業が続けられている。
地盤沈下の多い地域では、道路や家屋、農場など、地表にあるあらゆるものが地割れで分断される可能性がある。
Joseph Cook/AZGS
もし我々が生活習慣を改めず、帯水層に地下水が自然に涵養されるのを待つことができなければ、こうした地割れは増え続けるだろうとクックは言う。
「自然に涵養される量以上の地下水を使い続ける限り、この問題は終わらない」