サム・ドーゲン氏は34歳で早期退職した。
Sam Dogen
2012年、サム・ドーゲン(Sam Dogen)氏はクレディ・スイス(Credit Suisse)のエグゼクティブ・ディレクターの職を34歳で辞めた。長時間労働で燃え尽き症候群になったのだ。
燃え尽き症候群は、ドーゲンにとって目新しいものではなかった。1999年にゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)で国際株式の金融アナリストとしてキャリアをスタートさせて以来、午前5時半までには出社して午後7時まで、時には9時まで働くこともあった。その経験から「投資銀行業務に長く携わるのは無理だ」と実感し、キャリアをスタートさせるのと同時に早期退職のために貯蓄するようになった。
「13年間のキャリアを通じ、収入の多さには関係なく、給料の50%以上を退職後の生活のために投資してきました」
ドーゲン氏はInsiderに対し、こう話した。
新人の頃の彼の年収は4万ドル(約580万円、1ドル=145円換算)だった(初年度ボーナスの1万ドル〔約145万円〕は含まず)。ドーゲン氏はニューヨーク市に住んでいたため、かなり切り詰めた生活を送らなければならなかった。彼はワンルームのアパートの部屋をルームメイトとシェアし、家賃として月に約800ドル(約11万6000円)を支払っていた。
ドーゲン氏の勤務先は、午後7時以降も会社にいれば食事代を負担してくれたため、毎晩会社に残っていた。2012年には、給与は25万ドル(約3625万円)に増え、退職後の資金のために給与の最大75%を投資できるようになっていた。
2012年に退職するきっかけとなったのは、少なくとも5年分の生活費を賄えるだけの退職手当が得られるという、会社との交渉が成立したからだという。
「退職手当には、数十万ドルの退職金の小切手が含まれていました。11年間クレディ・スイスで働いた見返りです。これに加えて、3〜5年かけて投資する予定だった繰延株式と現金報酬の全額の受け取りも含まれていました」(ドーゲン氏)
ドーゲン氏の話では、退職手当の総額は40万ドル(約5800万円)以上で、2012年に退職した時の純資産はおよそ300万ドル(約4億3500万円)にのぼったという。
46歳になった今も、ドーゲン氏は無職の専業主夫だ。オンライン上では「ファイナンシャル・サムライ(Financial Samurai)」というハンドルネームで知られ、個人の財務に関するブログやポッドキャストを配信している。2022年には、借金の返済から不労所得を得る方法、投資まで、ありとあらゆる内容を網羅した『Buy This, Not That:How to Spend Your Way to Wealth and Freedom(未訳:これを買え、あれは買うな——富と自由を得るお金の使い方)』という本を出版した。
現在、ドーゲン氏の株式と債券のポートフォリオは約440万ドル(約6億3800万円)に達している。Insiderが明細を確認したところ、ここには通常の証券口座に預けられた290万ドル(約4億2000万円)が含まれていた。この290万ドルのおかげで、ドーゲン氏は60歳になる半年前に10%のペナルティを課されることなく退職口座にアクセスできるという(編注:アメリカの伝統的な退職口座の場合、59.5歳未満で積立金を引き出すとペナルティとして10%の税金が控除される)。
証券取引報告書によると、ドーゲン氏のポートフォリオのうち証券会社からの8月の収入については、配当と債券利子で7307ドル(約106万円)の不労所得が得られていた。彼の口座の株式エクスポージャーは主にiシェアーズ・コアS&P500 ETF(IVV)で、投資額は約100万ドル(約1億4500万円)。ETFの実質利回りは1.48%だ。また、フィデリティMSCI情報技術インデックスETF(FTEC)に約11万ドル(約1560万円)を投資している。彼の証券ポートフォリオの残りは、長短の国債を含む債券だ。
ドーゲン氏は引退してから最初の10年、利回りと配当を再投資することでポートフォリオを成長させていった。彼は不動産投資で得た家賃収入と、ウェブサイト収益からのキャッシュフローで生計を立てていた。そして45歳になった時、利回りの一部を引き出し始めた。
ドーゲン氏の収入のほとんどは、依然として不動産とオンラインコンテンツ・ビジネスによるものだ。しかし「株と債券のポートフォリオだけで早期退職できる人もいます」と彼は語る。
「ただしその場合、もっと多くの資金を蓄え、どの証券を保有し、それが自分の経済的なニーズと合致しているかどうかを常に考える必要があるので難易度は高くなります、さらに、株式市場のボラティリティ(変動)を乗り切る準備も必要です」
Yチャート(YCharts)によれば、6月のS&P500銘柄の平均配当利回りは1.54%だった。ざっくり言うと、1万5400ドル(約223万円)を得るには、100万ドル(約1億4500万円)の株式投資が必要だということだ。債券利回りが5%と高ければ、同額の投資で年間5万ドル(約725万円)が得られる。しかし、高利回り債券は最近見かけるようになったもので、常に存在するわけではない、とドーゲン氏は指摘する。
適切なポートフォリオの構成
「退職後の適切なポートフォリオを構築する第一歩は、自分のリスク許容度を理解し、退職後に必要な資金としていくら準備すればいいかを理解することです」
そう話すドーゲン氏は、別の手段からも不労所得を得ているが、証券口座からも引き出しを続けているため、自分のリスク許容度は低~中程度に設定しているという。株式のエクスポージャーは持ちたいが、過度のボラティリティは避けたい。そうすれば市場が下落しても資金を引き揚げなくてすむからだ。その結果、ドーゲンの証券ポートフォリオは、債券と債券ファンドが約58%を占めることになった。
積立額はどのようにして決めたのだろうか。この質問に関しては「ポートフォリオ全体の4%を安全に引き出し、残りは成長させ続けるという『4%ルール』に従うのも1つの方法です」とドーゲン氏は言う。彼自身は現在2%ほどを引き出し、残りを再投資するという、より保守的な方法を堅持しているとのことだ。
「4%ルールの逆のやり方としては、支出に25をかけ、退職までに株式と債券のポートフォリオの価値がいくらになるべきかを決定する方法もあります」
例えば年間支出が6万ドル(約870万円)なら、6万×25=150万ドル(約2億1750万円)となり、少なくとも150万ドル相当の株式と債券が必要だ。ドーゲン氏は妻と2人の子どもとともに、比較的物価の高いサンフランシスコに住んでいるため、少なくとも20万ドル(2900万円)の年間支出が必要になる。ということは、これに25をかけて500万ドル(約7億2500万円)が必要になると見積もっている。
「さらに、適切な額の現金を生み出すと思われ、自分のリスク許容度に見合っている証券の種類とその比率を決めなければなりません。
リスクフリーのリターンは、主に米国債から得られます。米国債の利回りは今、過去平均を上回っているため、現時点では良いニュースだといえます」
とドーゲン氏は指摘する。金曜の時点で、1カ月物国際の利回りは5.38%だった。
「私は3カ月から2年の短期国債に多めに投資しています。
「理論的には私は退職者であり、すでにゲームの勝者なので、ポートフォリオの大半は国債に投資すべきなのです。これ以上リスクをとる必要がなく、今ある分で満足な暮らしができますからね。金利が上昇するとリスクフリー金利も上昇するので、債券の配分を増やすべきです。株式は債券よりも高リスクだからです。逆の場合も、同様に考えます」
より固定利回りの高い手段として、ドーゲン氏は1万ドル弱という少額を譲渡性預金に投資している。利回りは4.75%と、現在の預金金利としては比較的魅力的な水準だ。
株式のエクスポージャーに関しては、ドーゲンは特に企業を選んでいるわけではない。投資銀行で13年以上働いたものの、S&P500の株価指数を長期的に上回るパフォーマンスを目指して勝負に出られるほどの知識が自分にあるとは考えていないからだ。そのため、証券ポートフォリオのわずか1%のみ、少数の個別ハイテク株に割り当てているという。
ドーゲン氏はハイテク企業の多いサンフランシスコに住んでいるため、周囲で交わされる会話のほとんどはテクノロジー企業に関するものだという。そのため、ハイテク分野の成長に乗り遅れることを恐れていると彼は認めている。
残りの株式エクスポージャーはETF(IVV)にしているという。ETFの経費率が0.03%と低コストなのもメリットのひとつだ。
最後に、早期退職を希望し、少なくとも3年以上会社に勤めているのであれば、解雇された場合の解雇手当について交渉することをドーゲン氏は強く勧めている。