※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
2023年夏のデジタルメディア業界は熱気に満ちていた。パブリッシャーは新しいテクノロジーを試し、ソーシャルメディアのジェットコースターに乗じたために起きた広告収入への打撃を相殺する方法を模索し続けた。秋が近づいてきたが、その興奮は下半期にも波及するだろう。
ニュースルームへのジェネレーティブAIの導入からTwitterからXへのリブランディングまで、2023年夏の主な出来事を取りまとめ、それが何をもたらしたかについての線引きをするには、いまはよい時期だと思う。
以下は、デジタルメディア業界がこの夏をどのように過ごしたかについてのまとめだ。
ニュースルームにAIが到来
パブリッシャーのニュースルームではこの夏、よりよい見出しを書く試みからインタラクティブなコンテンツの作成まで、ジェネレーティブAI技術の実験がさらに進行した。しかし、この技術に関しては、どの程度の統合が行き過ぎに当たるのか、まだ線引きはされていない。
バズフィード(BuzzFeed)の第2四半期決算説明会で、同社経営陣はかなりの時間を割いてAIを活用したクイズの量を2倍に増やし、閲覧数やページ滞在時間の増加という形で視聴者のエンゲージメントを3倍に高めたことを話した。バズフィードのプレジデントを務めるマルセラ・マーティン氏によると、これらの指標はスプライト(Sprite)、セルタ(Serta)、ウォルマート(Walmart)などの広告主に対して、新しいテクノロジーを使ったこれらの実験のスポンサーになるよう売り込むのに役立っているという。
一方、ほかのパブリッシャーも効率化の観点からAIをテストしており、記者の仕事を効率化して記者が情報を追いかけたり記事を書いたりする時間を増やせることを期待している。
しかし、ニュースルームの組合員のあいだでは、AI技術利用の線引きがどこになるのかについての懸念が広がっている。彼らは、AIツールが効率的になりすぎるとレイオフにつながると心配しているのだ。
メディア幹部はまた、知的財産をめぐる懸念や、記事や報道された情報をチャットボットに送り込むことで、大規模な言語モデルがそのコンテンツを取り込み、一般ユーザー基盤へのアウトプットに利用することにつながるのかどうかについても懸念している。
持続可能なプログラマティック広告の実践
夏の初め、パブリッシャーはプログラマティック広告がカーボンフットプリントに与える影響についてより深く考えるようになった。デジタル広告のエコシステムのなかで、サステナビリティを優先させることが経済的なインセンティブになることに気づいた広告主が続出したおかげだ。
測定にはまだ不透明な部分があるが、プログラマティック入札の流れは、パブリッシャー全体の炭素排出のかなりの部分を占めている。そして、初夏の数カ月のあいだ、トラフィックシェーピングのような戦略は、パブリッシャーがプログラマティック広告市場の運営に必要な計算能力を削減し、その過程で排出される炭素の量を削減するために取るべき措置のひとつに挙げられていた。
MFA(広告掲載のみを目的とした)サイトが最新の悪役に
この夏は、広告掲載のみを目的としたパブリッシャーが業界を騒がせた。
MFAとも呼ばれるこのパブリッシャーの一集団は、プログラマティック広告に費やされる予算のかなりの部分を吸い上げているが、その予算が広告主のビジネスにプラスの影響をもたらすことを示す実質的なKPIを提供していないとして、広告市場から激しく批判された。
全米広告主協会(Association for National Advertisers:ANA)が2023年6月に発表したリポートによると、2022年9月から2023年1月にかけて、MFAは監査対象となった350億インプレッションの21%を占め、これは21の広告主がプログラマティック広告に費やした1億2300万ドル(約181億1800万円)の15%に相当する。
この統計は、マーケターのあいだで広範な怒り、懸念、議論を呼び起こし、SSP、大手エージェンシー、アドテク企業が自社のプログラマティックビジネスからMFAを排除する波へとつながった。
ソーシャルメディア界の動揺
この夏、ソーシャルメディア界ではTwitterがXにブランド名を変更し、メタ(Meta)がXの競合アプリであるThreads(スレッズ)を発表するなど、多くのことが起こった。そして、パブリッシャーはトラフィックと収入の両面で特に打撃を受けた。Xからのリファラルトラフィックは急減し、Facebookからのトラフィックも減少した。
一方でピンクニュース(PinkNews)は、ソーシャルアカウントに掲載された広告からの収入の減少を報告した。これは、Snapchat(スナップチャット)のようなプラットフォームが、クリエイターに目を向け、分厚い小切手帳で彼らを呼び戻そうとしたために、パブリッシャーの取り分が少なくなった結果かもしれない。
そうしたなか、パブリッシャーはThreadsでの実験を始めた。メタの幹部はこのプラットフォームをニュースには使わないと主張したにもかかわらず、CBSニュースのようなニュースパブリッシャーはこのソーシャルプラットフォームに群がった。また、BDGでソーシャル部門の責任者を務めるウェス・ボナー氏にとって、テキストベースのソーシャルプラットフォーム向けに専用の戦略を立てたのはこれが初めてだった。Twitterの競合他社が同氏のチームを実際に説得したからだ。
戦略を変えサブスクリプション収入は上昇
夏の終わりまでには広告費が少し戻り始め、夏の初めの数カ月間、主にデジタルサブスクリプション事業でパブリッシャーの収入は増加した。
デジタルサブスクリプション事業の上向きは主に、純粋なボリュームを優先せず、代わりに戦略を転換してバンドルや料金の値上げ、月額よりも年間購読を利用してユーザー1人当たりの平均売上(ARPU)を増やそうとしたことによるものだった。