米金融大手モルガン・スタンレーは、年初来の株価上昇分の大半が2023年の残りの数カ月で失われると弱気の予測を維持している。
MasPix/Alamy
米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の見立てによれば、米国株はこれから数カ月で年初来の上昇分をほぼ吐き出すことになりそうだ。
S&P500種株価指数は年初来ここまで16.8%上昇という驚くべきパフォーマンスを記録したものの、これから3カ月半で13%下落し、年末を3900前後で迎えると同社は予測する。
基本シナリオとして、米経済は景気後退入りを回避できるというのがモルガン・スタンレーの想定ながら、同社のエコノミストが算出する1年以内の景気後退入りの可能性は35〜40%で、最近15%まで引き下げた強気のゴールドマン・サックスとは開きがある。
そのように他社に比べて大きく見込むリスクを踏まえた上で、成長率が想定外のレベルで回復を見せたり、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに動いたりでもしない限り、現在の相場の歴史的な高水準のバリュエーションは長続きしないとモルガン・スタンレーは警鐘を鳴らす。
同社チーフ米国株ストラテジストのマイク・ウィルソン氏は9月11日付の顧客向けメールでこう指摘する。
「マルチプル・エクスパンション(株価収益率の上昇)は、マクロ面のファンダメンタルズが指し示すフェアバリュー(適正価値)を上回る水準で推移しており、このマルチプルの伸びが持続するには、経済成長の再加速や(もしくはそれに加えて)株価にまだ織り込まれていない新たな政策支援の追加が必要でしょう」
エネルギーと資本財から目を離すな
たとえこのまま景気の拡大が続くのだとしても、株価下落の可能性には備えておくべきというのがモルガン・スタンレーのスタンスだ。
「私たちは現在、景気サイクル後期の環境にいると考えています。より重要なのは、株式市場が水面下で相対的なパフォーマンスをベースに価格に折り合いを付けようとする動きが見られることです」(ウィルソン氏)
同社の分析によれば、高金利の環境にもかかわらず、投資家は高クオリティのグロース(成長)株に資金を移し始めている。
現金が潤沢で負債は最小限、資本的支出(設備投資)に抑制的な企業は、売上高や業績見通しの上方修正を期待できることから、ここ1カ月間ほど素晴らしいパフォーマンスを発揮してきた【図表1】。
【図表1】長期金利の指標となる10年物米国債利回りの上昇(左)にもかかわらず、グロース株は7月以降、バリュー株やシクリカル(景気敏感)株をアウトパフォームする状況に。
Morgan Stanley
ウィルソン氏はこう分析する。
「こうした株価パフォーマンスの相対的なダイナミクス(動き)は、市場が当社の予測する第3四半期もしくは第4四半期における業績リスクを織り込みつつある結果と思われ、変動パターンとしての季節性サイクルを踏まえれば、この動きは今後さらにはっきりと可視化されてくると考えられます」
たとえ経済成長が減速しても、プラス成長が維持される展開であれば、ディフェンシブなポートフォリオへの切り替えでリターンを生み出すことは可能だ。
ウィルソン氏によれば、2022年の弱気相場を乗り切ることに成功した唯一の投資手法は、ディフェンシブなグロース銘柄、エネルギーおよび資本財セクターのディフェンシブ銘柄でポートフォリオを組む「景気サイクル後期のバーベル型」戦略だけだった。
そもそも、環境変化に引きずられることなく成長を実現できるクオリティ銘柄を選ぶのは当然にしても、エネルギーおよび資本財セクターを外すのは論外というのがモルガン・スタンレーのスタンスだ。
両セクターとも経済成長とインフレを追い風に高パフォーマンスを発揮し、足元でその勢いは減速に向かっているものの、いずれも景気サイクル後期に良好なパフォーマンスを記録してきた過去のデータを踏まえれば、今後も無視できない投資先と言える。
エネルギーセクターは、サウジアラビアの自主減産やロシアの輸出制限を受けた原油価格の上昇により、直近1カ月について全セクター中で最も高いパフォーマンスを記録した。
一方の資本財セクターは、夏に劇的に上昇した後、投資家が利益確定の売りを進めたことから、最近では全セクター中で最も劣後する結果となっている。
ディフェンシブが基本の「推奨9銘柄」
ウィルソン氏は前出の顧客向けメールで、モルガン・スタンレーが今購入するに価値のある銘柄を厳選した「フレッシュマネー・バイ・リスト」をアップデートしている。
その名称から、新たに推奨される銘柄のリストのように誤解されがちだが、言ってみれば、同社が極めて強気とする「超オススメ」銘柄で構成される【図表2】。
【図表2】モルガン・スタンレー推奨の「フレッシュマネー・バイ・リスト」銘柄(青線)とS&P500種構成銘柄(黄線)の累積トータルリターン比較および相対リターン(緑線)の推移。フレッシュマネーが圧倒。
Morgan Stanley
以下に、最新アップデート版の「フレッシュマネー・バイ・リスト」を構成する9銘柄を紹介する。いずれもディフェンシブセクターに属するか、ディフェンシブな性格を持った銘柄だ。
時価総額、セクター、目標株価、目標株価までのアップサイド(上振れ余地)も付した。
センターポイント・エナジー(CenterPoint Energy)
Markets Insider
[時価総額]179億ドル
[セクター]公益事業
[目標株価(アップサイド)]29ドル(2.5%)
コカ・コーラ(Coca-Cola)
Markets Insider
[時価総額]2533億ドル
[セクター]生活必需品
[目標株価(アップサイド)]70ドル(19.5%)
コルゲート・パルモリーブ(Colgate-Palmolive)
Markets Insider
[時価総額]603億ドル
[セクター]生活必需品
[目標株価(アップサイド)]89ドル(22%)
ヒューマナ(Humana)
Markets Insider
[時価総額]583億ドル
[セクター]ヘルスケア
[目標株価(アップサイド)]624ドル(32.6%)
マクドナルド(McDonald’s)
Markets Insider
[時価総額]2049億ドル
[セクター]一般消費財
[目標株価(アップサイド)]330ドル(17.3%)
モンデリーズ・インターナショナル(Mondelez International)
Markets Insider
[時価総額]967億ドル
[セクター]生活必需品
[目標株価(アップサイド)]82ドル(15.3%)
SBAコミュニケーションズ(SBA Communications)
Markets Insider
[時価総額]232億ドル
[セクター]不動産
[目標株価(アップサイド)]308ドル(43.7%)
ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)
Markets Insider
[時価総額]1435億ドル
[セクター]通信サービス
[目標株価(アップサイド)]44ドル(29%)
ウォルマート(Walmart)
Markets Insider
[時価総額]4435億ドル
[セクター]生活必需品
[目標株価(アップサイド)]170ドル(3.2%)