北朝鮮で新型「戦術核攻撃潜水艦」の進水式が行われたと、朝鮮中央通信が伝えている。
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- 北朝鮮は、冷戦時代の潜水艦を大幅に改造し、新たにミサイル発射能力を加えたと発表した。
- 写真からその改造を見ることができる。だがその作りは少々粗雑で、完全に稼働できる状態になっているのかどうか、明らかではない。
- しかし、質の悪いロメオ型潜水艦がベースになっているとしても、この新型艦はやはり脅威であり、北朝鮮にとっての交渉の切り札であることに変わりはない。
北朝鮮がこのほど公開した新型の「戦術核攻撃潜水艦」は、実際には冷戦時代の通常動力型潜水艦に新たなミサイル能力を追加したもののようだ。粗雑な設計に見えるが、アメリカとその同盟国は、この潜水艦がもたらすであろう脅威や、交渉の切り札としての役割を無視するわけにはいかない。
北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信(KCNA)は2023年9月8日、最新の「韓国型」弾道ミサイル潜水艦の進水式が行われたと伝えた。
この潜水艦「841号」は「金君玉英雄」と命名され、9月6日に行われた進水式には金正恩朝鮮労働党総書記が出席し、これが国家の潜水艦艦隊に加わわることで「海軍力における主要な水中攻撃手段」になると述べた。
新浦南造船所で行われた進水式の写真には、アナリストが「冷戦時代の艦船であるロメオ型潜水艦の改良型」とみなすものが写っていた。おそらく、金総書記が2019年7月に造船所を訪れた際に手直しされていたのと同じロメオ型潜水艦だと思われる。この潜水艦は大幅な手直しと設計変更を受けたようだ。最も注目すべきはミサイル区画の大幅な拡張で、長さが加わり、より多くの兵器を搭載できるようになっている。
これは北朝鮮が敵を威嚇するための新たなプラットフォームとなる。この潜水艦が「北極星1号」や「北極星3号」のような短・長距離潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)や、「ファサル2号」のような潜水艦発射型巡航ミサイル(SLCM)を搭載できるとすれば、北朝鮮海域から発射されたミサイルが、韓国、日本、及びこれらの国にある米軍基地をすべてカバーする射程距離を持つことになる。
「これは単に、もうひとつの移動式ミサイル発射台を持つための手段に過ぎない。潜水艦の場合は水中に潜って見つかりにくい発射台となる」と元米海軍将校でハドソン研究所の防衛専門家、ブライアン・クラーク(Bryan Clark)はInsiderに語っている。
「彼らはすでに洞窟に隠す移動式ミサイル発射台を保有しており、それと大した違いはない」
9月6日に行われた進水式に出席した金正恩総書記。
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ロメオ型潜水艦はもともと、1950年代後半から1960年代前半にかけてソ連が建造したものだ。その技術は共有され、後に中国が独自の改良型を開発した。北朝鮮はそれを入手したが、自国で建造したものもある。
中国から入手したものは、ディーゼルエンジンの騒音を抑えるための対策が取られている。一方、北朝鮮で後に建造された派生型は、潜水艦にしてはかなり騒々しいと考えられている。
防衛アナリストで潜水艦の元乗員であるトム・シュガート(Tom Shugart)は、北朝鮮の潜水艦は「かっこよく見える。すばらしい式典ができるだろう」とX(旧ツイッター)に投稿している。だが「めちゃくちゃうるさいだろう。次の年金小切手を賭けてもいい」とも述べている。
潜水艦は、騒音によって追跡されやすくなる。また、動力が原子力ではなく通常型だと燃料補給のために数日ごとに浮上する必要があり、その際に簡単に発見されてしまう。そのため、自国から離れた場所で密かにミッションを行うことには適していない。安全を確保するには北朝鮮の海岸沿いに留まる必要があり、そこでは韓国や日本、そしてアメリカに動向を注視されることになる。
北朝鮮はこの潜水艦について喧伝しているものの、完全に稼働できる状態になっているのかどうかは明らかではない。韓国軍当局者によれば、北朝鮮はこの潜水艦の能力を誇張している可能性が高く、現時点で核弾頭の有無にかかわらずSLBMやSLCMを適切に搭載できるかどうかは不明だという。
とはいえ、この種の兵器を搭載できるようにすることが、このロメオ型潜水艦の主な改造点であり、今では複数の垂直発射管などが船体から突き出た、少々粗削りなミサイル塔を搭載している。
「どこの国にもあった弾道ミサイル潜水艦の初期型のように粗末なものだ」とクラークは言う。このような潜水艦では、ミサイル発射管が船体に括り付けられていたり、ボルトで固定されたりしていることが多い。初期型の潜水艦が目指すのは、海中に潜れるか、見つかりにくいか、敵に脅威を与えられるかどうかを確認することであり、洗練されたデザインになるのはその後だろう。
このロメオ型潜水艦には欠点があるものの、脅威であり交渉の切り札になり得ることに変わりはない。
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改造されたロメオ潜水艦は、外見がやや不格好で、多くの改造点が最大限に活用されるのかどうか、しばらく時間が経たないとまだ分からない。ただ、この潜水艦によって、北朝鮮はアメリカとその同盟国を脅かす新たな手段を得たことは確かだ。
クラークはInsiderにこう述べている。
「北朝鮮にとって(この潜水艦は)まさにメッセージング・ツールだ。特に日本と韓国に対しては、察知されずに攻撃を仕掛けることができ、陸上ミサイルや大砲に加えることで圧力をかけたり、威圧したりする力が増すので、交渉の良い道具になるかもしれない」
北朝鮮は、海軍のための新たな核戦力を積極的に優先させているようだ。ロメオ型潜水艦を他にも19隻保有しており、金正恩はそのうち、多くはないにしてもいくつかは、この艦と同様の方法で改造するかもしれない。それには時間がかかるだろうが、北朝鮮に核攻撃力を増強する新たな手段を与えることになる。
しかし、ロメオ型潜水艦が戦闘に使われるとしたら、おそらく1発しか撃てないし、先制攻撃でなければならないだろう。その一撃の後、ロメオ型潜水艦が素早く脱出したり、探知されずに留まったりできるとは考えにくく、反撃を受けやすくなる。
言い換えれば、これは「北朝鮮の戦略に役立つツール」だが、現時点では「作戦上、非常に強力な利益をもたらすものではない」とクラークは述べた。