セブン銀行ATMを操作するモデルの谷まりあさん。
撮影:石井徹
セブン銀行は9月12日、セブン銀行ATMの新サービス「+Connect(プラスコネクト)」を発表した。第1弾として「ATM窓口」と「ATMお知らせ」を9月26日より提供する。
セブン銀行は、全国のセブンイレブンを中心に2万7000台のATMを展開している。1日1台当たり100件程度の取引があり、年間の利用数は10億件にのぼる。
同社の強みは、銀行や信販会社、フィンテック事業者など640社と提携してサービスしていることと、ATMを独自で開発していることだ。セブン銀行の新サービスの概要を解説する。
窓口業務をコンビニのATMで省人化
セブン銀行の松橋正明社長。
撮影:石井徹
新サービスの「+Connect」は、企業や行政の窓口で実施するようなサービスを、コンビニATMを通して提供するものだ。セブン銀行の松橋正明社長は「あらゆる手続き、認証の窓口となり、人と企業をつなぐ新しいサービスだ」と説明する。
ポイントは、本人確認だ。+Connectでは本人確認を必要とする手続きを、セブン銀行ATMで提供する。これにより、例えば銀行の窓口でしか利用できなかったサービスの一部を、セブン銀行ATMから24時間利用できるようになる。
+Connectではまずは2つのサービスを展開する。
撮影:石井徹
+Connectの第1弾のサービスは、「ATM窓口」と「ATMお知らせ」の2種類だ。当初は地方銀行やセブン銀行自身のサービスの一部として提供する。
利用できる銀行は2023年度内に40行を予定しており、2023年には100行の規模を目指すという。両サービスの導入が決定している銀行は以下の通り(括弧内は提供開始予定時期)。
【ATM窓口】
セブン銀行、群馬銀行、東日本銀行、北陸銀行(23年11月)、沖縄銀行(24年3月)、広島銀行(24年3月)、静岡銀行(24年5月)
【ATMお知らせ】
セブン銀行、静岡銀行、PayPay銀行(24年5月)
コンビニATMで3分で口座開設できる「ATM窓口」
「ATM窓口」の概要。
撮影:石井徹
「ATM窓口」では、コンビニ店頭で銀行の一部の手続きを提供する。口座開設の場合、手続きの流れは以下の通りだ。ATM上での操作は2〜3分で完了する。
- ATM上で「各種お手続き」を選択する
- 「口座開設」を選び、開設したい銀行を選ぶ
- 本人確認書類をかざし、顔認証で本人確認をする
- 連絡先の電話番号と、カナ氏名を入力する
- キャッシュカードと書類一式は登録住所宛に送付される
ポイントは、入力が必要な項目がほとんど存在しないことだ。住所は本人確認書類のICチップ内に登録されている情報が自動で転記されるため、口座開設者が手書きで入力する必要はない。
マイナンバーカードなどで本人確認ができる。
撮影:石井徹
利用できる本人確認書類は「マイナンバーカード」「運転免許証」「在留カード」の3種類だ。本人確認時には、カードのICチップに記録された顔写真と、ATMの操作者のカメラ映像を認識して、本人かどうかを判別する。
ATM窓口の「顔認証」の様子。
撮影:石井徹
住所変更も基本的な流れは変わらない。キャッシュカードを挿入して、手続きを進めることになる。住所は本人確認書類に記録されている最新の情報が転記されるため、入力の手間を抑えられる。
ATM窓口では今後順次利用できる手続きを拡大していく。具体的には、長期滞在者の在留カードの提出や、ローンの申込に対応する方針だ。
ユーザーとのタッチポイントになる「ATMお知らせ」
「ATMお知らせ」の概要。
撮影:石井徹
ATMお知らせは、銀行などが利用者に1対1で送付しているお知らせを、セブン銀行のATMで表示する機能だ。ユーザー個人にひも付いた案内をATM操作時に表示し、その場で「はい」や「いいえ」のようなかんたんな応答ができる。
分かりやすい利用例としては、銀行の「継続的顧客管理」が挙げられる。銀行には、預金者が口座開設時に申告した登録情報や取引目的などの申告情報を定期的に確認する義務がある。
現在はオンラインバンキングや郵送(ダイレクトメール)で確認しているが、この確認手段の1つとしてセブン銀行ATMが利用できるようになる。
全国に2万7000台が設置されているセブン銀行ATM。
撮影:石井徹
継続的顧客管理で利用する場合は、該当する預金者がATMにキャッシュカードを挿入した時に、「登録内容に変更はありませんか?」という内容の通知が表示される。「変更なし」か「変更あり」の選択肢を選ぶと本来の入出金画面に遷移する。
「変更あり」を選んだ場合には、ATMの利用控えの発行時に、変更方法を記載したQRコードが印刷される。QRコードをスマホで読み取ってオンラインバンキングで変更するか、セブン銀行ATMで読み取ってATM上で変更できる。
登録情報の確認以外にも、証券や保険の提案など、ユーザーに合わせた新しいサービスのプロモーションの用途にもATMお知らせを利用できるとしている。
左から、セブン銀行の深澤孝治執行役員、モデルの谷まりあさん、セブン銀行の松橋正明社長。
撮影:石井徹
12日の発表会では、「ATM窓口」と「ATMお知らせ」の実証実験に協力した静岡銀行のデジタルチャネル営業部長を務める大石康太氏が登壇した。
大石氏は「当行の窓口が閉まっている時間にたくさん使われていることが確認できたので、じゃあ、これはいけるということで、正式に導入することになった」と説明する。
静岡銀行での実証では、手続きの利用者の60%が静岡銀行の営業エリア外から利用しており、70%が銀行窓口の営業時間外に利用していた。
2024年春には、顔認証で「手ぶら引き出し」も
キャッシュカードレスを実現する「手ぶら引き出し」も今後検討されている。
撮影:石井徹
2024年春には、キャッシュカードなしで預金を引き出せる「顔認証サービス」の提供も予定している。
顔認証サービスでは「スマホATM」のように、事前に登録した人を対象に、キャッシュカードを出さずに入出金を可能とする。顔認証の具体的な利用の流れは検討中としてるが、セブン銀行関係者の説明を踏まえると、以下のような手順になるようだ。
まず、セブン銀行ATMで「顔認証サービス」の初回利用登録をする。このとき、ATMで顔写真を撮影し、顔認証サービス用のパスコードが発行される。
預金を引き出す際には、利用する銀行を選んで、顔認証をする。顔認証サービスに登録している人と顔が一致した場合は、パスコードと口座の暗証番号の2つを入力して本人確認をする。
このとき、顔が本人と一致しない場合は引き出しや預け入れはできない。例えば日焼けしていたり、メガネを掛けていたりして大きく風貌が変わっている場合にも利用不可となる。
「ATM窓口」と「ATMお知らせ」は、本人確認書類のICチップに記録された顔写真で預金者本人かどうかを判別していたが、「顔認証サービス」では本人確認書類も不要となっている。
銀行以外との取り組みも今後拡大していく方針。
撮影:石井徹
「+Connect」は今後、銀行以外の企業や自治体との連携も進めていく。
松橋社長は「人手が少なくなり、窓口業務が減ってしまう環境が想定される中で、セブンイレブンに行けばいろいろな窓口手続きが簡単に処理できるようなプラットフォームを目指したい」と方向性を説明した。
銀行以外のサービスとしては、例えばフリマアプリなどのC2Cサービスでの本人確認や、訪日外国人のホテルのチェックイン、1DAY保険の申込といった手続きを想定する。本人確認の厳格さは、用途に応じて柔軟に設定できるとしている。