中国で「口紅王」として知られるライブストリーマーの李佳琦。
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- 中国のライブストリーマーである李佳琦が、アイブローの値段に不満を漏らした視聴者への対応で炎上している。
- 李は視聴者に対し、何年も給料が上がっていないのなら、「十分に仕事を頑張ってきたかどうか」を反省すべきだと述べた。
- 彼の発言はSNSで拡散され、多くの人が彼を庶民感覚から外れていると非難した。
中国のトップライブストリーマーが、79元(約1600円)のアイブローは高いと苦言を呈した視聴者に暴言を吐き、炎上している。
アリババの通販サイト「淘宝(タオバオ)ライブ」の人気ストリーマーで、「口紅王」の愛称で知られる31歳の李佳琦(Austin Li Jiaqi)が、2023年9月10日に中国産ブランド「花西子(フローラシス)」のアイブローを販売していたところ、79元という価格に視聴者から「高すぎる」とのコメントが寄せられた。なお中国の経済情報メディア「第一経済(Yicai Global)」によると、花西子のアイブローは、市場に出回っている他のブランドに比較すると確かに高い。
このライブを記録した動画は拡散されており、それをInsiderが翻訳したところ、李はこの視聴者に対し、なぜこの化粧品が高いと感じたのか、自分なりに考えてみるように伝えていた。さらに、何年も給料が上がっていないのなら「十分に仕事を頑張ってきた」と言えるのかどうかを反省するように強い口調で述べていた。
ライブストリーミングは中国では1520億元(約3兆円)規模の巨大産業だ。ストリーマーは商品を売り込み、売れた商品からの手数料、フォロワーからのチップで稼いでいる。
李の発言は炎上し、コロナ後の経済が低迷している中国で論争を巻き起こした。
中国では若者の失業率が過去最高を記録し、16歳から24歳の5人に1人が失業している。7月に発表された第2四半期のGDP成長率は前年同期比6.3%増で、エコノミストの7.3%増との予測(ロイターが調査)をはるかに下回るものだった。
李は翌日謝罪したが、彼の個人的な収入に対する詮索や、79元が庶民にとって何を意味するかについての議論は続いている。
李は化粧品の販売員としてキャリアをスタートさせたが、多くの人は彼がそのルーツを忘れて手の届かない存在になってしまったと非難している。
李はライブストリームが終わって数時間後の9月11日、自身の認証済み微博(ウェイボー)アカウントに次のように書き込んだ。
「私は皆さんを不愉快にさせる不適切な言葉を発してしまった。今日仕事をしている間、もし自分があのコメントの女の子だったらどんなにがっかりするだろうかとずっと考えていた」
「私の発言は皆さんの期待に沿うものではなく、本当に申し訳なかった」
謝罪したものの、李は淘宝ライブと微博で合わせて150万人以上のフォロワーを失ったと、中国国営のオンラインマガジンSixth Toneが9月12日に報じている。李の微博でのフォロワーは、本稿執筆時点でまだ290万人いるが、騒動前は300万人以上だった。またCNNによると、淘宝ライブのフォロワーは7600万人だという。
李の微博での謝罪投稿には多くのコメントが寄せられ、中でも「あなたは庶民からお金を儲けているのに、まだ庶民を貧乏だと馬鹿にしている」というコメントには80万以上の「いいね!」がついた。
他にも「あなたはお金に謝っているのであって、私たちに謝っているのではない」というコメントに12万6000の「いいね!」がついた。
李が論争を巻き起こしたのは、これが初めてではない。
2022年6月、彼は6月4日の天安門事件33周年記念日の前夜に、戦車の形をしたお菓子をライブストリームで披露し、その後、ネット上から姿を消した。
彼の謎の失踪は、政治的にセンシティブな出来事に言及したとして、中国政府が彼を検閲または拘束したのではないかという憶測を呼んだ。李は3カ月後、再び姿を現したが、何も説明することはなかった。
今回の騒動は、中国での大規模なショッピング・イベントである「独身の日(11月11日)」の2カ月前に発生したことになる。このイベントは、ブラックフライデーやサイバーマンデーを凌ぐほどの人気がある。
2021年、独身の日の3週間前に開催されたプロモーション・イベントで、李は100億元(約2000億円)相当の商品を販売した。だが2022年の独身の日に行われたアリババのマーケティング・キャンペーンには登場しなかった。
Insiderは李に対して所属事務所のMeioneを通じてコメントを求めたが、返答は得ていない。