マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
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マイクロソフト(Microsoft)は従業員の人事考課期間に際し、最高ランクとそれに付随する給与を得る従業員が多くなりすぎないよう、チーム内の従業員同士の位置づけに基づいて個人のランキングを調整するよう管理職に求めている。マイクロソフト内部文書や従業員の話で分かった。
これは、マイクロソフトが2023年に新たな評価制度を導入した際に要請されたものだ。
だがこうした調整プロセスを、物議を醸している「スタックランキング」(管理職が従業員を強制ランキング〔編注:活力曲線とも呼ばれる〕にプロットする評価手法)と比較する向きもある。
マイクロソフトがスティーブ・バルマーCEOの時代にスタックランキングを採用していたことはよく知られている。だがこの仕組みでは、管理職は従業員を1〜5でランク付けしなければならず、最低スコアを取る人が必ず出てしまう。スタックランキングは社内で大いに不評だったため2013年末には正式に廃止となり、その後2014年初めには温厚な性格で知られるサティア・ナデラがCEOに就くことになった。
従業員の中には、今回の人事考課の取り扱いについて管理職に出された指示を見るにつけ、スタックランキングのエッセンスが復活したと感じている者もいる。2023年の人事考課に携わったある人物は、Insiderの取材に対して次のように語る。
「私たちが従業員に伝えていることは、まったくのたわごとです。第一、マイクロソフトは従業員に対して、もうスタックランキングは使っていないと言っていますが、実際にはそんなことはありません」
マイクロソフトの人事考課のしくみ
同社の管理職は2023年の人事考課で、以前と同様に0〜200のスケールで従業員をスコア付けした。このスケールは「マネージリワード・スライダー(ManageRewards slider)」と呼ばれている。管理職がこれを共有したり自分のスコア(「ティックマーク(目盛)」と呼ばれる)を従業員に伝えたりすることは、会社から禁じられている。
内部文書には次のように記されている。
「スライダーの位置やティックマークについて、直属の部下と話すべきではありません。
ティックマークは、ランキングやラベルを意味するものではなく、管理職がインパクトを判断し、全社的に一貫した報酬を推奨するためのものです」
マイクロソフトの年次の人事考課は通常、4月のパフォーマンス査定に始まり、8月中旬から成果がどのように報酬に反映されるかが通知され、2023年は9月13日に支給となる。
このプロセスは、まず第一線の管理職から始まり、管理職は従業員のインパクトを評価し、スライダーのどこに位置づけるべきかを提案する。その後、別の上級管理職が「差別化」、つまりチームがスライダーに沿った配分になるよう、従業員の着地点を検討する。平均的なパフォーマーは100前後に位置し、0、60、80は低いパフォーマー、120、140、200は高いパフォーマーである。
マイクロソフトの広報担当者は、管理職に差別化を促していることは認めたものの、それは純粋に高いパフォーマーに報いるためだという。この広報担当者によれば、従業員を低くランク付けするノルマや要件はなく、管理職は予算内に収めさえすればよいとのことだ。
このプロセスをスタックランキングになぞらえたある管理職は、実際にはスコアを下げなければならなくなる従業員もいると話す。この管理職は、自分のチームの従業員をスライダー全体できちんと「差別化」するよう指示を受けた後、引き留めたいと思っている従業員の昇給分の予算を確保するために、他の従業員を相応のスコアよりも下げざるを得なかった。
マイクロソフトは2023年、このスライダーとあわせて以下の4段階からなる新たな従業員評価制度を導入した。その格付けは、
- 期待を下回るインパクト(LITE)
- 期待をやや下回るインパクト(SLITE)
- 成功したインパクト(Successful Impact)
- 並外れたインパクト(Exceptional Impact)
Insiderが確認した内部文書によると、「成功したインパクト」とは職務のすべての面で成功を収め、一部の領域で「並外れた」パフォーマンスだった場合と定義され、ミドルレンジに位置づけられる。
内部文書には、「成功したインパクトを与えた場合、その報酬は機会のミドルレンジに位置付けられる」「従業員が期待をやや下回るインパクトを与えた場合、その報酬は機会のミドルレンジより下に位置付けられる」と記されている。
この新制度は、マイクロソフトが5月に昇給を一時停止し、ボーナスや株式賞与の予算を削減した後に導入された。この時、マイクロソフトの最高人材責任者キャスリーン・ホーガンは管理職に対し、給与やボーナスの増額につながる高いパフォーマンス評価を意味する「並外れた報酬」を与える社員を減らすよう指示していた。ホーガンはメールの中で、「ミドルレンジの従業員をもっと増やす必要がある」と述べている。
マイクロソフトはまた、管理職に対し、人事考課の際に予算削減について従業員と話し合わないよう指示してもいる。この時には、予算削減を個々の従業員に対する報酬決定の「説明」として使うのではなく、従業員自身の「インパクト」が「報酬」を決定することを強調するよう求めていた。