暗号資産(仮想通貨)は、なぜ価値があるのか? その特徴と不安定さの理由

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暗号資産(仮想通貨)を支払い方法として受け入れる機関が増えるにつれて、その価値は増しつつある。

Marianne Ayala/Insider; Rebecca Zisser/Insider

  • 暗号資産(仮想通貨)は需要が供給を上回っているため、価値が高いと言える。
  • 投資家の多くは、暗号資産は分散的で、インフレや政府あるいは政治の圧力による影響を受けにくいため、フィアット通貨(不換通貨)よりも優れていると考える。
  • 現在のところ、暗号資産は通貨というよりはむしろ資産クラスとして扱われることが多い。

多くの人が最初の暗号資産(仮想通貨)とみなしているビットコインは、2009年のミステリアスな誕生後、すぐに価値が急騰した。

ビットコイン登場からの10年、イーサリアム(ethereum)やテザー(Tether)のようなほかの暗号資産も人気を集め、価格が上昇した。それでも実在する貨幣でも、株のように特定の企業と結びついているわけでもないので、「暗号資産には、そもそも本当に価値があるのか?」という疑問が拭えない。

暗号資産には価値があるのはなぜ?

ざっくりと言えば、人々が「価値あり」とみなすから、暗号資産には価値がある。「みんなが信じるから、つまり世間の合意があるから、価値があるとみなされる」と説明するのは、ビットコイン財団の会長でEOSアライアンス(EOS Alliance)、ブロック・ドット・ワン(Block.one)、ブロックチェーン・キャピタル(Blockchain Capital)、テザー、そしてマスターコイン(Mastercoin)の共同創設者でもあるブロック・ピアス氏だ。「人々が暗号資産の理解に苦しむのは、それが従来のどの枠組みにも収まらないからだ」

今のところ、ほとんどの暗号資産は通貨というより、むしろ資産のように機能する。ボストンカレッジで戦略・イノベーション・テクノロジーの副学部長ならびに応用経済学プログラム修士課程のディレクターを務めるアレクサンダー(サシャ)・トミック博士は「ほとんどの暗号資産は、ある時点でフィアット通貨(不換通貨)に戻すことになる」という。

しかし、米ドルやユーロ、日本円のようなフィアット通貨と同様の通貨として利用できるという点こそが、暗号資産の真の価値であり、暗号資産の重要性を高める要因になっていると、トミック博士は説明する。

分散的な暗号資産には、政府発行の通貨にはない利点がある。例として、トミック博士の私生活を見てみよう。1990年代、トミック博士はバルカン半島にいた。当時、セルビア人が支配するユーゴスラビアには、現在ロシアに課せられている経済制裁と同じぐらい厳しい制裁が加えられた。「またたく間に、現地の通貨はいわば時代遅れになった」とトミック博士は説明する。「おもな原因は極端なインフレだ」。分散している暗号資産はインフレや政府介入の影響も、政治的な圧力も受けにくい。

「暗号資産の根本的な価値は、暗号資産を使って物事の売買ができることにある」とトミック博士は言う。現在のところ、通貨としての暗号資産はまだ稀な存在で、ビットコインなどの暗号資産で支払いできる機会はあまり存在しない。「だが、もっと普及すれば、暗号資産はただの資産ではなくなる」。ほかの通貨と同じように簡単に利用できるという点こそが、暗号資産の人気を高めている。そして人気があるからこそ、価値もある。

そう考えると、人々がデジテルトークンを欲しがる理由がわかるだろう。さて、暗号資産が手に入ったとして、その日の暗号資産の価値には、以下のようなさまざまな要因が関係している。

1. 需要と供給

ミクロ経済学の主要原則である「需要と供給」の原則は、買い手と売り手の関係を意味している。簡単に言うと、ある物品は、手に入りにくくなるにつれて価格が上がる。逆に、その物品がたくさん流通すればするほど、価格は下がる。基本的に、数少ないものがたくさんの人に求められれば、価値が上がる。

暗号資産の多くはビットコインのように供給量が限られている。これが、ビットコインの価格が上がり続けている一番の理由だ。トミック博士が指摘した理由でより多くの人がビットコインを買おうとすればするほど、その価値は上がっていく。限られた供給と増え続ける需要が、コインの価値を押し上げる。

2. 安く買って高く売る

投資ではどんな場合も、入手したときよりも多くの現金もしくはほかの何かが得られるタイミングで売りに出すことで利益が得られる。この基本理論は、一部の投資家たちが株式や債券の選択をするときに用いる「押し目買い」戦略にもとづいている。要するに、価格がまだ安いうちに証券を買う、ということだ。

暗号資産の場合、一部の投資企業や一般投資家が、長期間保持し、将来より多くの額で売るためにコインを買う。そのため、供給量は基本的に減るにもかかわらず、需要は高まるのでコインの価格が上がっていく。

3. 市場の認識

消費者が特定の製品、サービス、あるいは資産をどう評価しているか。これを市場認識と呼ぶことにしよう。「何かに対して、あなただけが価値を認めているのであれば、それは感傷的な価値だ」とピアス氏は言う。しかし、価値があると考えるのがひとりではない場合は市場価値が生じる。たとえば芸術作品。1枚の絵画の「真の」価値は使った絵の具とキャンバスの値段に等しい。しかしゴッホの作品は、まったく同じ材料を使った無名画家が描いた絵よりも高価と認識される。

この例が示すように、人々が「価値あり」と認めるやいなや、その物品の価格が変わる。これがまさに市場価値で、市場がいくらまで支払う気があるかを反映している。ピアス氏はこう説明する。「ある何かに2人が価値を認めた場合、そこがスタート地点となって、供給と需要に応じて価格が決まる」

暗号資産は目新しい何かとしてメディアの注目を集め、大きなチャンスを秘めている。一獲千金の物語を聞いたり、特定の暗号資産の価格が上がる様子を眺めたりすることはすべて、投資家の暗号資産に対する見方に影響する。

投資家のあいだで、ある企業や特定資産の評価が時間がたつにつれて高まると、投資家たちはそれが優れた投資対象かどうかを推測し、場合によってはポジティブな意見を形成し、その資産を買うことになる。

暗号資産もほかの多くの資産と同じで、ポジティブな評価が高まり需要が増えることから恩恵を受ける。

4. マイニング 

暗号資産をマイニングする人(マイナー)は、新しいコインの流通の妥当性を実証するために、複雑な方程式を解く必要がある。問題を解いた報酬として、マイナーはいくつかのコインを受け取る。

つまり、買うのではなく努力によって、暗号資産市場に参入する。すべての暗号資産がマイニングされているわけではないが、ビットコインやイーサリアムなどの有名コインはマイニングされていて、マイナーにとても多くの利益をもたらすこともある。マイニングはコインの供給にも、市場認識にも影響する。多く流通すれば供給量が増え、新しいコインを「アンロック」しようとする人が増えれば認識も高まる。

投資家のなかにはイールドファーミングに参加する人もいる。イールドファーミングとは、利子やより多くのコインなどといった報酬を得るために暗号資産を一定期間「ロックアップ(売買を停止)」する投資戦略のことだ。一元的なブロックチェーンを利用したアプリが投資家の暗号資産を預かり、その資産をクレジットを求める他人に貸し出す。理屈では、債権者が利子を支払い、寄託者と一元管理アプリがそれを分け合う。しかしながら、このやり方はリスクがないわけではない。

実際の「ロックアップ」は「ステーキング(対象の暗号資産を保有しているだけで利益を得られる仕組み)」と呼ばれることも多い。この戦略により、流通量が減り、供給が制限されるため、コインの価値が増す。

5. 実用性と基礎技術 

トミック博士が説明するように、実用性は暗号資産の価値を決める重要な要素だ。暗号資産を支払い方法として受け入れる機関が増えれば増えるほど、その価値は増す。これはつまり、暗号資産を利用することで、個人もこのプロセスに貢献できることを意味している。

暗号資産のほぼすべてに利用されている基盤技術はブロックチェーンで、このブロックチェーン自体が極めて実用性が高い。「ブロックチェーンはただのデータベースだ」とピアス氏は言う。「データベースなのだから、さまざまな使い方ができる」。実際にさまざまな用途が考えられる。ピアス氏は、新たな資産クラス、金のような伝統的な資産クラスの現代版、新たなユーティリティ、普通株式をさらに効率的にするツールなどの用途を指摘する。

通貨の特徴

では、ほかの通貨と同じぐらい手軽に利用されるようになるには、暗号資産には何が欠けているのだろうか? 経済学者は、通貨が利用されるのに必要ないくつかの特徴を次のように分類している。

  • 認知度:通貨は広く受け入れられなければならない。現在のところ、ビットコインやほかの暗号資産を支払いとして受け入れている売り手は少ない。トミック博士は「支払い手段として広く受け入れられるだけのインフラが真っ先に整うのはどの暗号資産だろうか?」と問いかけつつ、ビットコインが今のところ競争の先頭を走っていると指摘する。
  • 可分性:通貨の2つ目の特徴は、より小さな単位に分割が可能という点だ。暗号資産、フィアット通貨のどちらも分割は可能だが、暗号資産のほうが可分性は高い。たとえばビットコインは小数点以下8桁まで分割できる。
  • 永続性:通貨は将来も再利用できなければならない。したがって、傷みやすい素材は通貨には利用できない(過去には使われたことがある)。この点で暗号資産は有利だ。
  • 代替可能性:価値が広く認められているアイテムがあって、そのアイテムの2つをどちらかが損を被ることなしに交換できるとき、代替可能性があると言われる。たとえば25セント硬貨は、それが珍しい硬貨でない限り、別の25セント硬貨と交換できる。一方、ダイヤモンドは代替可能ではない。サイズや透明度などの要素によって価値が変わるため、通貨単位としてふさわしくない。基本的に、ドルも暗号資産も代替可能だ。
  • 供給量の限定:商品やサービスの対価となる通貨は、誰も欲しがらないほど潤沢に流通してはならない。暗号資産の多くは供給量を限定している。
  • 携帯性:必要なときに手元にない通貨はとても不便だ。物理的な通貨は持ち運びが容易で、デビットカードはそれにも増して便利だ。暗号資産は、暗号資産を保存および転送できる投資アプリや仲介アプリ、あるいは暗号資産ウォレットで持ち運びできる。「世界のどこにでも、一瞬で暗号資産を送れる」とピアス氏は言う。
  • 安定性:最後に、通貨の価値は一定である、あるいは時間をかけて高まるのが理想的だ。そうでなければ、通貨で買える商品やサービスの価格を何度も繰り返し設定し直さなければならなくなる。現在のところ、暗号資産はあまり安定していないため、毎日のように、場合によっては数時間で、暗号資産で買えるものが変わる。

暗号資産の根本的な価値は、「その受け入れ度合いに完全に依存している」とトミック博士は説明する。「たくさんの人々が支払い方法として受け入れなければ、暗号資産が通貨として機能することはない」。支払い方法としての受け入れを高めるには、インフラを整える必要がある。

暗号資産 vs. 株

暗号資産は株式と同じようなものと「みなされる」ことが多い。この2つのあいだには、表面的には数多くの共通点があるからだ。どちらも無形資産として時間とともに受動的に価値を増す(あるいは価値を下げる)可能性があるし、どちらも投資ポートフォリオに含めることが可能だ。しかし、両者は実際にはそれほど似ていない。

株式は企業を所有していることを示す資産であり、その企業の業績、需要と供給、そして市場認識に応じて価値が変わる。

また、一部の企業は業績に応じて株主に配当を支払う。株式市場は全体としてはつねに上昇を続けるのではあるものの、どの会社の場合も、株式が永遠に価値を増すことはありえない。企業は常に市場の要求に応じるために順応や開発を続ける必要がある。

その一方で、暗号資産は本質的に米ドルやユーロ、あるいはスイスフランと競合する存在だ。「実際に暗号資産で取引ができるかどうか、という点で暗号資産の真の価値が決まる」とトミック博士は言う。この「競合」が繰り広げられる限り、市場はデジタルコインに関心を向け続け、それにより供給が制限されているにもかかわらず需要が増え、結果としてデジタル資産の価値が増していくだろう。

投資対象を選ぶときは、暗号資産と株式のあいだに横たわる以下のような相違点を考慮するのがいいだろう。

暗号資産 株式  
暗号資産の価値は、人々がそれに価値を見いだすかどうかで決まる。 株式の価値はその対象となる事業の業績と直接関係している。業績はさまざまな要素によって左右される。
暗号資産、特にビットコインを、インフレに対するヘッジとみなしている投資家は少なくない。しかし、専門家の多くは、そう考えるのには多くの問題点があり、投機的だと指摘する。 株式は企業の資産とキャッシュフローによって裏付けされているため、インフレの影響を受けやすい。急なインフレ時には、株式のほうが不安定になりやすい。
暗号資産は非常に変動しやすく、大きな利をもたらす可能性もあると同時に、重大なリスクにもなる。 株式のなかにも変動しやすいものも存在するし、市場全体が大きく変動する期間もあるが、株式市場は全体として過去から現在まで、10年ごとにおよそ9%成長してきた。
暗号資産は分散的で、ひとつの機関による監視を受けない。多くの人にとって、この点がデジタル通貨の魅力になっている。 株式市場は政府による監視および規制を受ける。アメリカ合衆国では証券取引委員会が「投資家の保護、公正で秩序があり効率的な市場の維持、および資産形成の促進」に携わっている。

結論

暗号資産の価値は、大衆がその価値をどう認めるかによって決まる。「私たち民衆がともに信じ、その価値を見いだすのだ」とピアス氏は言う。しかしトミック博士が指摘するように、暗号資産の本質的かつ長期的な「真の」価値はまだ決まっていない。「それには時期尚早だ」とトミック博士は言い、暗号資産がいまだに不安定なのは「その本質的な価値を理解するのがとても難しいから」だと付け加えた。

最終的には、日常の支払いに使える暗号資産が長期的に見て最も価値があるとみなされることになるだろう。日常的な支払いこそが、暗号資産の所有に興味を持ち続ける理由だ。トミック博士はこう言う。「どの暗号資産がその期待に応えられるか。これはおそらく数兆ドルの価値のある疑問だろう」

※本記事は取材対象者の知識と経験に基づいて投資の選定ポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。

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