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「フルリモートワークができる会社がいいんですが、求人はありますか?」
コロナ禍以降、転職希望者の方々からそんなご要望をいただくことが増えました。
しかし、コロナ禍が落ち着いてきた現在、フルリモートワークOKの求人は減っています。そこで今回は、リモートワークについての最新事情をお伝えします。
4月から「出社」に戻した企業が多数。「ハイブリッド型」も
職種によっては、現在もフルリモートワーク可能な求人はあります。ニーズが非常に高い職種、フルリモートでも業務が完結する職種などです。
例えば、ITエンジニア、カスタマーサポート、UI/UXデザイナー、Webマーケティングの運用スタッフ、インサイドセールス(電話やメールで見込み客にアプローチする内勤営業)などが挙げられます。
また、事務系職種の一部業務やサポートを行うスタッフなども、契約社員や業務委託などの雇用形態でフルリモートワークOKの求人があるようです。
しかしながら、それ以外の職種、しかもリーダー・マネジャークラス以上のポジションの求人となると、フルリモートワークOKの案件はごく一部に限られます。転職活動でこの条件にこだわると、選択肢が非常に少なくなってしまう状況です。
社会全体の動向に目を向けると、2023年4月、新年度への切り替えと同時に出社に戻した企業が多数見られます。
「やはり出社がいい」という判断に至ったリモートワークのデメリットとしては、
- コミュニケーションが希薄になった
- マネジメントが難しい
- 新人・若手の育成が難しい
- 従業員が孤立感を抱き、離職が増えた
- とりこぼされてしまう業務がある
- イノベーションが起こりづらい
……などが挙げられています。
リモートワーク制度を定着させた企業でも、出社と組み合わせた「ハイブリッド型」が中心。そして、リモートワークを「週1回」「週2回」に制限するなど、出社の割合を多く設定しているケースが多いようです。
これは業種によって異なるというより、個社の経営思想や人事方針によるところが大きく、同じ業種であってもリモートワークに積極的な企業もあれば出社必須とする企業もあります。
ただ、出社を基本とする企業であっても、育児や介護などの家庭事情を抱えている従業員に対してはリモートワークOKとする体系が定着してきました。
とはいえ、事前申請を必要とするなど、使い勝手の悪さを嘆く声も聞こえてきます。
ちなみに、関東よりも関西のほうが「フル出社」を求める企業が多いようです。特に営業職やコンサルタント職などは、顧客企業が訪問・対面コミュニケーションを望む傾向が強いため、在宅での対応が難しいのだとか。また、働く人々も「職場で同僚とワイワイやるほうが楽しい」という志向が強いようです。
このように、多くの企業が「出社」へ戻しているわけですが、この状況を逆手にとって「フルリモートワークOK」を打ち出す中小ベンチャーもあります。転職希望者にはフルリモートワークを希望する人も多いため、人材獲得のためにフルリモートワークをアピールしているのです。
「柔軟な働き方」ができる企業が選ばれる時代に
最近、アメリカの大手テック企業が続々と「フルリモートワーク禁止」を打ち出しています。こうした動きにつられて、「出社中心」へシフトしている企業もあるのかもしれません。
しかし、アメリカと日本では労働市場の事情が大きく異なります。日本は労働人口が減少を続け、人材獲得の難易度が高まっていきます。
育児や介護など働ける時間と場所に制限がある人、そしてプライベートの時間を充実させたい志向の人も含め、多くの人にとって働きやすい環境を提供していかなければ、企業の採用力は低下していくでしょう。
人材獲得の面だけでなく、やはり通勤の時間とパワーを削減できることによる生産性アップの効果は大きいと感じます。
ですから、企業はマネジメントが煩雑になることを覚悟のうえで、「柔軟な働き方」を追求することをお勧めします。状況に応じて「出社」「リモートワーク」を柔軟に切り替えて活用できるような仕組み作りに取り組んでいただきたいと思うのです。
リモートワーク制度を持っていても、「○日前に申請が必要」では柔軟とは言えません。申請制にはかなり心理的なハードルがあるものです。その時々の業務の状況や体調に応じて、育児中であれば子どもの急病などに応じて、「選べる」ようにすることが重要です。
先進的な企業では、労務管理システムを導入し、簡単なボタン操作で「今週○日・○日は出社、○○日・○日はリモートワーク」などを報告。直属の上長が承認すればOK、といった仕組みを持っています。上長との連絡を、LINEで手軽にできるようにしている企業もあります。
また、コワーキングスペースを会社で契約し、従業員がいつでも使えるようにしている企業なども、従業員の満足度は高いようです。
リモートワークを含む「働き方」の模索は、まだまだ過渡期の段階であり、しばらく試行錯誤が続いていくでしょう。
人材獲得競争がより激しくなる今後、採用ブランディングにおいて「働き方の柔軟性」が重要度を増していくのは間違いないと思います。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。