2008年8月、「次世代の自動車サービス」という夢は単に、ウーバー(Uber)共同創業者ギャレット・キャンプのパソコンに保存されているピッチデック(プレゼン資料)でしかなかった。
そんな配車アプリのUberはウーバーは、いまや時価総額630億ドル(8兆5000億円、1ドル135円換算)超となり、1万を超える都市においてボタン1つで配車が可能なネットワークとなった。
本稿では、同社が創業当時に投資家から資金調達する際に使用していたピッチデック「UberCab」(創業当初のサービス名)を公開する。
創業者たちは2008年当時、ウーバーの世界観をどのように説明し、資金調達を成功させていたのだろうか?
最初のスライドは、2008年へのタイムカプセルで始まる。そう、ブラックベリー端末だ
【スライド和訳】
2008年当時、「タクシーを拾う」という行為は、今とまったく違っていた
【スライド和訳】
キャンプはタクシーの「無駄な時間」を強調した。シャーラー・コンサルティングが2018年にまとめた報告書によると、タクシーやハイヤーは、乗客を降ろしてから次の乗客を乗せるまでの間、平均2.1マイル(約3.4キロ)走っていることが分かった。
また、ニューヨークを走るタクシーのほとんどは2019年、トヨタ・カムリだった。ニューヨーク市の評価によるトヨタ・カムリの環境格付けは、1リッター当たり約10.6kmだ。
タクシー業界のディスラプター
【スライド和訳】
ニューヨークでのウーバー拡大を受け、タクシー営業許可証(市が限定数を競売にて販売)の価値は75%急落した。タクシー業界は主に、ウーバーやリフト(Lyft)といった配車サービス会社が原因だとしている。とはいえ、2019年のニューヨーク・タイムズの調査によると、タクシー営業許可証の価値は当時、2008年のサブプライム住宅ローン危機を彷彿とさせるバブルにより高騰していた。
キャンプは、ウーバーが「自動車サービス界のネットジェッツ」になるだろうと述べた
【スライド和訳】
これは一言で言えば、ウーバーによる「バリュープロポジション」(価値提案)であったし、現在でもそうだと言える。ネットジェッツとは、プライベート・ジェットのごく一部の所有権を販売する企業だ。
ウーバーは当初、顧客を選別したいと考えていた
【スライド和訳】
昨今は、スマートフォンとクレジットカード(またはデビットカード)があれば、すぐにドライバーとつながることができる。GPSと写真のおかげで、互いを見つけやすくもなった—— これは、現在も変わっていない。
当時、単に高級車メルセデス・セダンを使う—— というだけではなかった
【スライド和訳】
当初のプレゼン資料によると、ウーバーの車両はメルセデスの高級セダンになる予定だった。現在最も人気なのはトヨタ・プリウス、ホンダ・シビック、トヨタ・カムリだ。
ウーバーは「確実に利益が出る仕様」
【スライド和訳】
ウーバーは創業から2021年9月現在に至るまで、通年での黒字化はできていない。
GPSまたはテキストメッセージにて車の手配が可能
【スライド和訳】
GPSは当然ながら、現在でもウーバー・アプリの大原則だ。一方、テキストメッセージでの手配はなくなったようだ。
テキストによる配車手配で特に重要なのは、特定のラベルをつけての目的地の保存だ
【スライド和訳】
それでも、簡単に選択できるようアプリに住所を保存できるのはかなり時間の節約になる。
ウーバーが想定した利用ケースは、どれも現在でも当てはまる
【スライド和訳】
ウーバーは、リムジンより安価でタクシーより安全
【スライド和訳】
ウーバーが予測した環境面での利点の中には実現しなかったものも
【スライド和訳】
前出のシャーラー・コンサルティングの2018年報告書によると、タクシーやハイヤーなどの移動距離のうち、乗客を乗せているのは平均わずか63%だ。
現在の車両は、当初の予定とはかなり異なる
【スライド和訳】
現在のウーバー車両は、大部分がトヨタのプリウスとカムリ、ホンダ・アコード、フォード・フュージョンと、2008年にウーバーが挙げていた高級モデルだ。
ウーバーは現在、60カ国以上で事業を展開
【スライド和訳】
キャンプは、サージプライシング(需要が多い時期に料金を割り増しにする変動制料金)に向けた計画を持っていた
【スライド和訳】
従来型のサージプライシングは現在、ほぼ導入済みだ。しかしウーバーは、移動データを使って需要を予測することで、配車要請が増えたエリアのドライバーにインセンティブを出せることを早い段階から予想していた。
需要予測は現在も、ウーバーの中で最も価値ある商品となっている
【スライド和訳】
こうしたものは結局、すべてデータに行き着く。
ウーバーの時価総額はピーク時に比べ大幅に目減りした。それでも10年前に見積もった市場規模42億ドル(約4620億円)を大きく上回る
【スライド和訳】
空港への移動は現在もウーバー利用の大部分を占める
【スライド和訳】
ウーバーは空港への移動用途で人気が高まり、一部都市では配車サービスに便宜を図るべく送迎レーンを変更したほどだ。とはいえ、タクシー用のレーンもまだ存在している。
ウーバーは現在、400都市で事業を展開しているが、当初の目標はもっと小規模だった
【スライド和訳】
ウーバーは、収益面においては「最高のシナリオ」を余裕で達成した
【スライド和訳】
2018年の第3四半期では、ウーバーは29.5億ドルの売り上げを達成した。
2008年のスマートフォン市場の内訳もまた、テクノロジーがいかに短命であるかを示している
【スライド和訳】
現在、スマートフォン市場の最大シェアを占めるのはサムスンであり、ノキアは2008年当時のほんのわずかでしかない。
同社の「未来に向けた最適化」はほぼ実現した
【スライド和訳】
紹介は今もウーバーのビジネスにとって大きな役割を担っているが、以下の全てが実現した訳ではない
【スライド和訳】
ウーバーは、医療や政府関連の移動手段に目を向けていたが、方向性は変わった
【スライド和訳】
とはいえ、ヘルスケアは今も関係している。ウーバーは2018年3月、「信頼性の高い、快適な移動を患者に」提供するウーバーヘルス(Uber Health)を発表した。これは、ウーバーとその競合リフト(Lyft)にとって、大きな分野となる可能性がある。リフトはこの時期、ヘルスケア事業に新たなVP(バイスプレジデント)を採用したと発表していた。
以降は、誰もが知る通りだ
【スライド和訳】
このプレゼン資料作成の2年後となる2010年、ウーバーはUberCabからUberにブランドを変更し、同時期にアンドロイド版も開始した。
※この記事は2021年9月10日初出です。