ディズニー・パークが子どものいない裕福なミレニアル世代になぜ人気なのか、Insiderはパークの来場者や従業員、旅行代理店など20人以上に話を聞いた。
Arantza Pena Popo/Insider
オハイオ州で広報の仕事に就いているサラ・ラチュル(29)は、2023年に入ってから、フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールドやカリフォルニア州アナハイムのディズニーランドなど、ディズニー・パークに6回以上足を運んだ。
彼女の目標は、年末までに10回ディズニーに旅行することだ。
「ディズニーに行くとストレスがなくなります。家の中を見回して、『あれを掃除しなくちゃ』とか『これを整理しなくちゃ』とか思わなくていいし、仕事のことは考えない。ただ、クールで現実ではない世界一周の旅の中にいるんです」
ラチュルは、ふらっと訪れるエプコット(編注:ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにある4つのパークの1つ)への旅について語った。彼女は通常、カクテル片手にイタリアから中国までのパビリオンが並ぶ世界を散策するという。
ディズニー・バケーション・クラブ(タイムシェア・プログラム)のメンバーでもあるラチュルの両親が時々一緒に来てくれるおかげで、彼女はトスカーナに行くより安くディズニーへの旅を楽しむことができる。来年30歳になる時には、ボーイフレンドとディズニー・クルーズで誕生日を祝う予定だ。
ディズニー・パーク、中でもとりわけオーランドのウォルト・ディズニー・ワールドには今、子どものいない20〜30代の来園者が押し寄せている。ラチュルもその1人だ。彼ら彼女らは、カップルや友人たちとともに高価な旅をしている。Insider編集部は、年間パス所有者から、ディズニー従業員や元従業員(その多くは匿名を条件に取材に応じた)、旅行代理店、その他パークの来園者に詳しい人たち20人以上に取材、そのことを突き止めた。
子どものいない人は、子どもを持つ人より可処分所得が多い傾向にある。来園者から得られる多額の収入からパーク内の乗り物や体験に与える影響までを総合すると、ディズニーパークのビジネスに大きな意味をもたらしかねない、紛れもない客層の変化が浮かび上がってくる。
ウォール・ストリート・ジャーナルは9月19日付けの記事で、ディズニーが規制当局に提出した書類を引用しつつ、同社が今後10年でパークに大規模な投資を行っていくと報じた。報道によると、ディズニーは600億ドル(約8兆9000億円、1ドル=148円換算)の資金をクルーズやグッズを含むテーマパーク部門に投入するという。同社はこの計画についてブログにも掲載している。
この現象は「ディズニー・アダルト」にまつわる汚名も払拭しつつある。この用語は近年、ミッキーの「マウスハウス」への熱愛ぶりを示す傾向のある大人を揶揄するために使われてきた。アーバンディクショナリー(Urban Dictionary)では、“Disney Adult”とは「ディズニーについて話し出すと止まらない」ミレニアル世代だと定義され、「これまでに出会った中で最も恐ろしく強烈な人々の一人」と書かれている。
しかし、ミッキーの耳を頭につけたり、“DisneyBounding”(有名なディズニー・キャラクターの服装でパークを訪れること)ということは、子どものいないミレニアル世代やZ世代の間でますます主流になりつつあり、カッコいいとさえみなされつつあるようだ。ディズニーはもはや、ディズニーキャラクターの朝食からアラジンの魔法の絨毯まで子どもたちに付き添う、暑くて疲れた親たちだけのものではない。
「たった2時間の距離ですが、自由になれるんです」と、夫とともに数年前からディズニー・ワールドの年間パスを持つフロリダ在住のメンタルヘルス・カウンセラー、モリー・メイ(38)は言う。夫妻はディズニーワールドで婚約し、ディズニーランドで結婚5周年を祝い、2023年初めにパリのディズニーランドを訪れた。結婚10周年記念には、東京ディズニーランドに行く予定だ。
「大人としての責任は、ゲートをくぐった瞬間に消えるんです」(メイ)
ソーシャルメディアクリエイターであるフランシス・ドミニク(30)は、2014年から4年間、ディズニーワールドとディズニーランドの両方でツアーガイドなどさまざまな仕事をしていた。今は10万8000人以上のTikTokフォロワーに向けて、パークの楽しみ方や体験談など、ディズニーをテーマにしたコンテンツを制作している。
「これらのパークを楽しもうとする気満々で、それを堂々と表現する10代から80代までのあらゆる年齢層から反響があります。ミレニアル世代として育った私たちは、特定のプリンセスや特定のものが好きだというとバカにされました。今となっては『そんなことどうでもいい』という気持ちです」(ドミニク)
フランシス・ドミニクはディズニーパークの元従業員。今はTikTokでディズニーをテーマにしたアトラクションや映画のコンテンツを制作し、多くのファンを獲得している。
Taylor Jaxson Photography
来場者の半数近くが子どものいない大人という日も
ウォルト・ディズニー・カンパニーは過去1年間で株価が25%以上も下落した。ウォール・ストリート・ジャーナルは、フロリダのパークの入場者数は2023年夏に減少したとの見方と報じている。そんなさまざまなプレッシャーがかかるなか、来場者に変化の兆しが現れている。
一方、急激なインフレと重なったチケット価格の上昇により、一部の客は来園を控えている可能性がある。2022年、ある消費者調査の回答者の93%が、ディズニー・ワールドでの休暇費用は「平均的な家族」の手に余るようになったと答えている。ある人気ディズニー旅行のブログによれば、オーランドのパークに家族4人で5泊するという「基本的な」プランで、6300ドル(約93万円)を超える可能性があると見積もっている。
その上ディズニーは、フロリダ州のロン・デサンティス知事と数カ月にわたって政治的なバトルを繰り広げた挙げ句、2000人規模の雇用を創出するはずだったオーランド近郊の10億ドル(約1480億円)の新キャンパス計画を白紙にした。ライバルであるユニバーサルが、2025年にオーランドに4つ目のテーマパークを建設する計画であることを考えると、ディズニーパークが今後厳しい戦いを強いられることになるのは間違いない。
しかしこのような状況下にあってもなお、ディズニー・ワールドは、家族連れにアピールしにくいと思われる高価な体験を含め、大人客を誘致する取り組み加速させているようだ。
ここ数カ月、エプコット・テーマパークでは、例えば日本パビリオンのレストラン「匠亭」で1人250ドル(約3万7000円)のおまかせディナーを導入するなど、「世界一周飲み歩き」として知られる通過儀礼を盛り上げている。メキシコ・パビリオンのテキーラ・バー「ラ・カバ・デル・テキーラ」などでは、世界の名だたるカクテルを注文したり、スピリッツを味わったりしながら、ほろ酔い気分でそれぞれの国のパビリオンを渡り歩くのが、21歳以上のエプコット来場者の間でうけている。
このようなレストランの魅力とともに、2022年からは複数のテクノロジーを駆使したライドが登場し、この冬には新しいホリデー体験も多数企画されている。
ディズニー公認の旅行計画サービス、ザ・バケーショナー(The Vacationeer)の創業者、ジョナサン・デ・アラウージョはInsiderの取材に対してこう語る。
「ディズニーは、スリルを求めるこうした大人たちに対する競争力をつけようとしているのです」
ディズニー関係者によれば、入場者数などビジネス面に関するデータには不明瞭な部分があるという(例えば、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道は、ライドの待ち時間をトラッキングする第三者企業、ツアーリング・プラン〔Touring Plans〕の統計に基づいている)。
しかし、ディズニー・ワールドに詳しいディズニーの元幹部によれば、オーランドのディズニー・ワールドの典型的な客層の40〜50%は、子連れでない大人(ディズニー幹部はこの層を「家族以外(nonfamily)」と分類)だという。「一般的に持たれているイメージと違うのは、考えてみれば驚くべきこと」だと、旅行マーケティングに携わっていたこの元幹部は語る。
この数字は数年前から徐々に上昇傾向にあると、この幹部やディズニーワールドの来場者数に詳しい専門家は話す。
ディズニー旅行を専門とする独立系旅行プランナー、自称“マジック・プランニング・シスターズ”のタラ・ゴールドスタインとアン・ヴァン・ウーステンドルプによれば、2020年半ばから2023年にかけて、同社が企画したディズニー・バケーションの53%は大人向けのものだったという。
この大きな変化のきっかけになったのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズをテーマにした最先端のジェットコースターなど、年齢の高い客層にアピールする話題のライドが登場したからだという。
「子どもが来たがるのはもうディズニーも分かっているので、今は大人を増やす時なんです」(ウーステンドルプ)
結婚式から特別な食事まで
ナタリー・シュワルツ(23)は、タンパ大学の学生時代にボーイフレンドのブレットとディズニー・ワールドに行ったことを覚えている。
「小さい時からの夢で、いつかそこで結婚式を挙げたいとずっと思っていました」
そう語るシュワルツは6月、120人近くを招待してディズニー・ワールドのグランド・フロリディアン・リゾートで結婚式を行った。十数人の友人とシェアできる割引パークチケットも特典に含まれていたので、挙式に先立ち、2日間かけて友人たちとパークで遊んだ。祖母をイッツ・ア・スモールワールドのライドにも連れて行った。
シュワルツはこの夏、友人のシエラ・ケラー(24)の誕生日を祝うために再びディズニー・ワールドを訪れた。「ディズニーは、私たちを別の世界に連れて行ってくれるんです」と、今はディズニーワールドから10分ほどの家に住むケラーは語る。この家は、ディズニーの近くにいられるようにと彼女の家族が建てたものだ。
「選挙の心配もしない。法律が通るとか、明日がどうなるとか、請求書を何枚払わなくちゃいけないとか、そんなことはどうでもいいんです。ただその瞬間を楽しんでいます」(ケラー)
新婚のナタリーとブレット・シュワルツはこの夏、オーランドのウォルト・ディズニー・ワールドで誓いを交わした。
Disney Fine Art Photography
シュワルツやケラーのような客の割合が増えたことは、パーク内の商品に「徐々に影響を及ぼしている」と、ディズニーの元旅行マーケティング担当幹部は語る。最終的には、新しくお金を使ってくれる客層が「ビジネスの決定を後押しすることになるでしょう」と言い、こう続ける。
「この(客層の)変化を見ても『われわれは子ども向けの乗り物を続けるつもり』と言われたら、『え、ちょっと待って。それ本当に必要なの? もうあるじゃない』となりますよね」
2021年、エプコットはインスタ映えする高級レストラン、スペース220を開業した。内装は宇宙空間にいるようなシックなデザインとしか説明しようがないものだ。大きな出窓から地球のシミュレーション画像が見渡せると思えばいい。
同レストランのゼネラルマネージャー、ジェイソン・ペトリーナはInsiderの取材に対し、最近はカップルや友人同士のグループなど、子どものいない大人客の来店が増えていると語り、その多くが地元の年間パスホルダーやディズニーのタイムシェア・プログラムのメンバーだという。名前を覚えた常連客もすでに複数いるという。
「こういうお客様は、素晴らしい体験にはそれほど出費を気にされないのです」(ペトリーナ)
それは、高級ワインや、リブアイ・ステーキやロブスターといった豪華な料理にお金をかけることを意味する。ペトリーナは、レストラン収入の15〜20%はこの客層からもたらされていると見積もっている。
「これは、私どものビジネスにとって非常に大きな数字です。もし売上の15〜20%がなくなったら、閉店を考えますよね」(ペトリーナ)
仲間と飲むか、ミッキーと飲むか?
パーク内には、ディズニーがこれまで『スター・ウォーズ』やマーベル・フランチャイズに投資して映画館に呼び込んできた年配層に楽しんでもらおうという努力の跡が随所に見て取れる。中でも分かりやすいのが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」だ。2022年5月にオープンしたジェットコースター「コスミック・リワインド」は、クリス・プラットやゾーイ・サルダーニャといった俳優が出演するプレショーコンテンツが特徴だ。
このジェットコースターは、乗客を後ろ向きしてに発進させた後、太古の宇宙を模した暗く洞窟のような空間へと急降下させるもので、『セプテンバー』や『エブリバディ・ウォンツ・トゥ・ルール・ザ・ワールド』といった、若者より年配者にうけそうなヒット曲が使われている。2023年にはマジック・キングダムに、オートバイのような座席を備えた屋内外のコースター「トロン:ライトサイクルラン」が加わった。どちらの乗り物も、「イッツ・ア・スモールワールド」のような定番アトラクションよりも、はるかにスリルを味わえるものだ。
一方、アニマル・キングダムの一角にあった、恐竜をテーマにした子ども向けの乗り物が配されたディノランドUSAは閉鎖が発表された。そのほか、マジック・キングダムの「カリブの海賊」のライドの近くに、ディズニー映画シリーズに出てきたアルコールを提供する新しいタバーンが登場する予定だと報じられている(このプロジェクトの正確なスケジュールは不明)。
また、各パークは「アフター・ダーク」イベントを通じて営業時間を延長し、深夜に訪れた来園者にはライドへの長時間のアクセスを提供している。カリフォルニアのディズニーランドでは、アナハイム・パークが2023年6月に初めて「プライド・ナイト」を導入した。9月には、ディズニーランドの3つのレストラン(カーネーション・カフェ、リバーベル・テラス、カフェ・オーリンズ)がアルコールの提供を開始した。
さらに、ディズニー・ワールドのハリウッド・スタジオでは、11月から12月にかけて「ジョリーウッド・ナイト(Jollywood Nights)」シリーズを含む新しいホリデー・イベント企画を発表した。チケット価格は1人159〜179ドル(約2万3500〜2万6500円)で、DJ、スペシャルカクテル、ジャズラウンジでの 「glitz and glamor galore(きらびやかなものの数々)」、タワー・オブ・テラーのライドの場所にあるハリウッド・タワー・ホテルのコートヤードでの 「ソワレ(夜会)」などの特典が含まれる。
これらのユニークな体験は、ミレニアル世代とZ世代の財布に魔法をかけている。
「ここにいるとすべてが魔法にかかったような感じ。まさにピクシー・ダスト(妖精の粉)です。確かに私たちは20ドル(約3000円)の飲み物を何杯も買います。普通のバーでそんなことをしたらクレイジーだと思うでしょう。でもディズニーでならかまわないんです」(前出のTikTokインフルエンサー、ドミニク)
フードやドリンクを提供するだけでなく、パーク内の至るところにある高級グッズは、こうした消費者にお金を使ってほしいというディズニーの願望を物語っているようだ。ハリウッド・スタジオでは、オビ=ワン・ケノービやパルパティーン皇帝など『スター・ウォーズ』のキャラクターが振り回していそうな洗練されたライトセーバーが200ドル(約2万7000円)以上で売られている。あるディズニー・ワールドの従業員は、レーザーの剣を初めて起動させて泣いている大人を何人も見たと話す。
商品面でも、ディズニーはグッチ、ドゥーニー&バーク、コーチなどの高級ブランドと提携して複数のカプセル・コレクションを発表している。ジーンズからアクセサリーまで、あらゆるものにディズニーのアイコンがあしらわれている。
2022年にはディズニー・ワールドの50周年を記念して、社内の商品デザイナーが年配客にアピールするスタイルの開発に取り組んだ、と元ディズニー・トラベル・マーケティング幹部は振り返る。この幹部によれば、商品の多くは、「より洗練された」嗜好を持つ顧客にアピールするように、意図的に新鮮な色や虹色のような配色を強調していたという。
「パークには大人ばかり」
ディズニーは数年前から、この年齢層とその消費力に注目してきた。
2018年、同社は「#HappyPlace」と呼ばれるキャンペーンを試験的に実施した。これは、主にパーク、体験、製品に特化したディズニーの社内広告代理店、イエローシューズ(Yellow Shoes)のチームが作った動画で構成されている。
#HappyPlaceのコンテンツは、「飲酒年齢を確実に超えている」子どものいない大人を対象にしたものだったと語るのは、2023年初夏までディズニーで働き、このキャンペーンの開発に関わったクリエイティブ・ディレクターのネフ・トレホだ。
この動画には、日本酒を飲んだり、焼きたてのギロス(ギリシャ風サンドイッチ)に舌鼓を打ったり、といった子どものいない大人のグループにとって、ディズニー・ワールドへの旅がどんなものなのかが分かるようになっている。
トレホが制作したウェブサイトに掲載された動画「スワッグ・サファリ(Swag Safari)」には、ムードたっぷりのサウンドトラックに乗せて、ミレニアル世代がキリマンジャロ・サファリに乗り込み、高級ホテルのテラスからキリンが目覚めるのを眺めるという架空のアニマル・キングダム旅行が描かれている。
「私たちのアプローチは、ウォルト・ディズニー・ワールドにやってくる人々が織りなす美しいタペストリーに光を当てることでした」とトレホは言う。彼はパークの有名なフローズン・パイナップル・スイーツについて触れ、こう話す。
「乗り物だけじゃない。チュロスだけじゃない。ドール・ホイップだけじゃないんです」(トレホ)
2021年、ウォルト・ディズニー・ワールドの50周年記念式典でパフォーマンスを披露する俳優のハル・ベイリー。
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ディズニーのキャラクターでさえ、最近は大人の客とハグしたり自撮りをしたりするようになってきている。あるディズニー・ワールドの従業員によると、ディズニーの人気キャラクターに会うための列は、子どものいない大人が半分以上を占めることもあるという。
「『パークには大人がたくさん。今日は子どもに一人も会いませんでした』というほど。あるいは、『1時間外にいたけど、出会った200〜300人のうち子どもは3人だけだった』ということも」(ディズニー・ワールド従業員)
しかし、これにはマイナスの側面があり、ディズニーの従業員の中には苦痛を感じている者もいる。
ソーシャルメディアでの拡散狙いと思われる行為にスリルを味わっている一部の来園者もいる。TikTokでは、10〜20代の若者たちが、シンデレラのような落ち着いたキャラクターのイメージを壊そうと、キャストの体を触ったり、個人的な質問をして録画したりする例がたくさんある。ある動画では、『美女と野獣』のガストン役の俳優の胸に手を置く女性が映っていた。先のディズニー・ワールドの従業員によれば、美しい装飾が施された噴水の水をなめてパークの規則を破ったゲストもいるという。
この従業員の話では、ディズニー・ワールドでは俳優がソーシャルメディアのトレンドに乗ってはいけないという厳格なポリシーを採用している。こうした問題が起きた場合、同社では俳優たちと個別に話すことで対応してきたという。
「その場から離れてもいいし、そうしにくければ指導的立場にある人に来てもらって彼らと話してもらうこともできます。インターネットが普及している最近では、何をやってもいずれネットに公開されることになるでしょう。ですから、研修ではこういう問題に必ず触れています」(ディズニー・ワールド元従業員)
だがこうしたことはあるにせよ、大人の来園者の増加は「新たな成長のための新たな可能性」だとパークの従業員は言い、ディズニーが訪問客に送る顧客体験アンケートに触れながらこう説明した。
「子どもは自分が何を望んでいるのか分かりませんが、成人客は、自分が何を求め、必要としているかをよく分かっているので、大人向けのサービスのほうがやりやすいです。
ディズニーが一番気にかけているのは大人たちの意見であり、大人たちの望みを満たそうとしているのです」
大人か家族連れか。綱引きは始まっている
ジェレミー・シン(23)はディズニーのクラシック映画が大好きで、12歳で初めてディズニー・パークを訪れたときのことを今でも覚えている。彼はその時、たちまちディズニーとのつながりを感じたのだ。
「その最初の旅行で、自分の好きなものを見つけたと思いました。ディズニーがどのようにして生まれたのか、すべてがどのように機能しているのかを知りたいと思ったんです」
その10年後にオーランドに移り住み、テーマパークへの憧れがキャリアへと花開くことになるとは、シンでさえ予想できなかっただろう。シンは現在、ディズニー・ワールドにフォーカスしたTikTokページ「JeremyTheTea」で100万人のフォロワーを抱えるコンテンツ・クリエイターだ。そして、貴重な若年成人顧客層を取り込むためディズニーに雇われた。
シンは自分の主なフォロワーは21〜28歳であると指摘し、こう言う。
「僕が雇われたということは、ディズニーはこういうフォロワーを客として取り込みたいんだと思います」(シン)
現在ハリウッドでは俳優や脚本家たちのストライキで新作映画のプロモーションが軒並み中止になっているが、それに先立つ2023年初め、シンはディズニーの実写映画『リトル・マーメイド』のマーケティングを支援した。同映画の主演俳優ハル・ベイリーがディズニーランドで歌う様子が人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』で放送されたが、シンはここに出席。また、アトラクションと同名の『ホーンテッドマンション』の映画のプレミア上映と連動したディズニーのハロウィーン・フェスティバルのプロモーションにも携わっているという。
シンは、パンデミック期に急成長したディズニー系インフルエンサーの界隈ではリーダー的存在になっており、専門家によれば、ディズニー・パークへの大人たちの関心を煽るのに一役買っているという。TikTokで#DisneyWorldと検索すると、このハッシュタグは約200億回視聴されたコンテンツと関連付けられていることがわかるし、ディズニーのパーク自体のTikTokページのフォロワー数は570万人を突破している。
元パーク従業員からインフルエンサーに転身したフランシス・ドミニクは、ディズニーのパークや映画の宣伝にも起用されている。彼は2023年、同じくディズニーのクリエイターで38万人のTikTokフォロワーを持つパトリック・ドゥーガルとともにディズニーとピクサーの映画『エレメンタル』の先行試写会を共同で開催した。参加者の大半はミレニアル世代で、試写会にはこの映画に登場するお気に入りのエレメントに扮して参加した。
ただ、ディズニーがこの重要な客層をリピーターにするための努力を続けているとしても、パークがもうひとつの重要なファンである子どもを疎外するわけにはいかないと警告する人もいる。
「大人か家族連れかというせめぎ合いが時々起こっています」と話すのは、1980年代から90年代初頭にかけてディズニー・イマジニア(テーマパークのデザインや設計をする人々のこと)を務め、数十年にわたってディズニーブランドの進化を見守ってきたマーク・イーズだ。
イーズは、ディズニーがどちらの層も満足させるバランスを見出せない限り、「ディズニーはいずれ『ああ、われわれは子どもを門前払いしてしまったんだ』と気づくことになる」と警告する。難しい綱渡りのようだが、このことはディズニーのパークの未来を決めるものになるかもしれない。
イーズはアナハイムのディズニーランドのパスホルダーであり、ディズニーランドの元従業員約400人で構成される「ディズニーランド・アルムナイ・クラブ」の役員も務める。そのイーズはこの状況を、彼が子どもの頃に大好きだった昔のアニメになぞらえた。彼は大人になった今もそれらのアニメを楽しんでいる。
「もしあの(アニメの)ようにアトラクションやエンターテインメントを成功させることができれば、それこそ大成功と言えるのではいでしょうか」(イーズ)