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仮想通貨(暗号資産)の創業者たちはこれまで何年もの間、実現味に欠ける計画を立ててはそれを売り込むということを続けてきたが、最近では多少、現実的なものになってきた。
それはおそらく市場環境のせいだろう。投資家は、金利が低いときは不信感を保留しようとする傾向があるものだ。あるいは、この業界では名の知れた悪役のおかげかもしれない。いずれにせよ、残った者たちが世界を席巻する見込みは、もはやない。
デビッド・マーカスが良い例だ。
メタのステーブルコインプロジェクトの責任者を務めていたデビッド・マーカス。
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かつてペイパル(PayPal)の社長を務めたマーカスは、失敗に終わったメタ(Meta)のステーブルコインプロジェクトの責任者だった。短命に終わったこのプロジェクトは、一時期は「Libra(リブラ)」「Diem(ディエム)」などの名で知られていた。世界の金融システムにおける主要通貨になることを最終目標にしていたが、今にして思えば野心的すぎたとマーカスは認める。
マンハッタンのダウンタウンにあるアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)のオフィスで記者団の取材に答えたマーカスは、当初のアイデアがいかに「理想を追求しすぎた」ものであったのか、説明した。
「世界規模で決済を行うために単一の中央集権型ステーブルコインに依存すれば、私たちが直に経験したような問題が生じる」(マーカス)
現在、マーカスはスタートアップ企業ライトスパーク(Lightspark)を創業。金融システムの中で活動している——つまり、ビットコイン上に構築しており、政府や現地通貨と連携しているが、これらを代替するものではない。すでにアンドリーセン・ホロウィッツやパラダイム(Paradigm)といった有名ベンチャーキャピタル(VC)を含む投資家らから、1億7500万ドル(約254億円、1ドル=145円換算)を調達している。
メタの仮想通貨プロジェクトはなぜ失敗したのか
メタは2019年、米ドルを含むハードカレンシーに固定されたデジタル通貨を作る計画を発表した。このアイデアは、Facebook MessengerとWhatsappのユーザーが国境を越えて仮想通貨をシームレスに送金することを可能にし、仮想通貨を送金後に現地通貨に交換できるようにするというものだった。
「すべての人を幸せにする」というLibraの目標は、「素晴らしいものであり、誰もが同意するだろう」が、政治の現実とは歯車がかみ合わないとマーカスは言う。
「会計単位を支配し、単一障害点で資金を管理する点において、一民間企業が巨大化することは望ましくない。
仮想通貨の価値が相場から大きく乖離した状態にあり、しかもそれが未上場の中央集権型企業であれば、政府にとっては実に不愉快だろう。政府は独自の会計単位の管理下、そして自国通貨の管理下に留まることを望んでいるからだ」(マーカス)
このプロジェクトは、仮想通貨として実現性の乏しい仮想通貨の規格であったとはいえ、盛り上がった。ビザ(Visa)ら決済大手、証券取引委員会を含む世界中の規制当局、政治家は一致団結して、ユーザーデータやプライバシーにからむスキャンダルをたびたび引き起こすメタによる、世界的な金融政策の抜本的な転換を承認する必要があった。
メタのマーク・ザッカーバーグCEOでさえ、プロジェクトに関する議会証言の中で、自社がLibraの「理想的な提供者」ではない可能性があることを認めた。規制による障害と、Facebookのデータプライバシーに対する懸念によって、プロジェクトは結局、頓挫した。
ライトスパークの進む道
マーカスがかつてペイパルとメタに所属していたことはよく知られているが、彼は、のちに競合他社に買収される企業3社の創業者でもある。
2021年11月にメタを去るとX(旧Twitter)に投稿した際、マーカスこう付け加えた。
「私の起業家としてのDNAが毎朝立て続けに催促してくるものだから、無視できなくなってしまった」
マーカスは、新たに起業したライトスパークで、世界の決済システムをもっとシンプルなもの、あるいは、少なくともそれほど大げさではないものに作り変える計画を立てている。ユーザーは自国通貨をビットコインに交換し、資金が必要な国で現地通貨に交換する。マーカスはこれをSaaS企業に例える。取引手数料で収益を確保するのだ。
ロサンゼルスに拠点を置くライトスパークは、ビットコインを「中立的なインターネットマネー」として利用しているが、それにはいくつかの理由がある。流動性があること、そして各国政府がデジタル通貨に課している規制が明確であることが主な理由だ。さらに、特定の国に結び付けられていないため、地政学的な面での懸念も小さい。
マーカスの共同創業者であり、マーカスのFacebook在職時代の同僚でもあるクリスチャン・カタリーニは、ライトスパークは進歩を続ける仮想通貨業界の、とりわけ優れた部分を活用していると語る。
「構築したものの中で最も価値があるのが、既存システムとのつながりだ」(カタリーニ)
ビットコインは世界中で人気があるため、遠く離れた場所にある取引所でもビットコインを現地通貨に交換することができる。JPモルガン(JP Morgan)もこの分野に注目していると言われているし、ブルームバーグは9月に入り、ウォール街の銀行が国際的な支払い・決済を迅速化するためにブロックチェーンベースの預金トークンを検討していると報じている。
マーカスとカタリーニは、バーレーンに本拠を置くレイン(Rain)などのさまざまな取引所や仮想通貨ウォレットと契約しており、2023年後半に初の通貨送金を実現させることを見込んでいる。2024年、ライトスパークは「真剣に事業の強化を目論んでいる」とマーカスは言う。
「マネーは、最後には必ずインターネット上で移動するのだ」(マーカス)