アメリカ経済には警告サインが出始めているとJPモルガンは見ている(写真は、ニューヨーク証券取引所のトレーダーたち)。
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この夏、アメリカ経済が高金利に直面しつつも、概ね底堅い動きを見せたことから、投資家の間ではソフトランディングへの期待が高まっている。だが、JPモルガンのチーフ・グローバル・ストラテジスト、マルコ・コラノビッチ( Marko Kolanovic)の意見は違う。
コラノビッチ氏は13日の顧客向け文書で、アメリカ経済が危機に瀕する可能性があるという警告サインが出始めていると述べた。
「アメリカ雇用市場や中国の経済指標には矛盾するものもあるが、我々は、亀裂が生じつつあり、景気サイクル終了の懸念が正当化されるとの確信を深めている」
コラノビッチ氏は、現在生じつつある数多くの亀裂を強調した。
ひとつは、クレジットカードや自動車ローンの延滞の増加で、消費者が経済的に弱くなっていることを示している。もうひとつは、国債のイールドカーブが依然として反転していることで、短期国債の利回りが長期国債の利回りを上回っている。3カ月債利回りと10年債利回りの逆転、いわゆる「逆イールド」は1960年代から誤ったシグナルを出すことなく、景気後退に先行している。さらに、巨額の財政赤字のために世界中で財政刺激策への意欲が低下しており、中国の景気減速リスクもある。
製造業も減速していることは購買担当者調査から明らかだ。一般によく知られている米供給管理協会(ISM)の購買担当者景気指数(PMI)は依然として縮小水準にある。JPモルガン独自の購買担当者指数は6月以降、毎月低下を続けている。
「総合的に見て、8月のPMIの水準は我々の予想と一致しているが、4カ月連続の低下は、過去1年の急激な金融引き締めに対する反応の遅れに関連したダウンサイドリスクを強調している」
またJPモルガンは顧客向け文書で、顧客アンケートの結果を発表した。
顧客の4分の3が今後12カ月の間に株式へのエクスポージャーを減らす予定と答え、80%が債券へのエクスポージャーを増やす予定と答えた。景気後退時の常套手段だ。
しかし、この数週間、JPモルガンのチーフUSエコノミスト、マイケル・フェローリ(Michael Feroli)氏は、景気後退が2023年に来るかどうかは疑問だと述べている。
バンク・オブ・アメリカやFRB(連邦準備制度理事会)のエコノミストも景気後退の観測を後退させている。だが、国債のイールドカーブに基づいたFRB独自の指標は、景気後退が近づいていると叫んでいる。
国債のスプレッドが予測する景気後退の可能性
Federal Reserve
ポートフォリオを守るためにすべき2つの取引
自身の景気後退予想を踏まえ、特に今、リスクフリーの債券利回りがきわめて魅力的(1年債利回りは5.4%)になっているなか、コラノビッチ氏は株式市場のさまざまなインデックスへの投資配分を減らしている。だが同氏は、エネルギー株にはまだチャンスがあると見ている。
「歴史的に、エネルギー株はPMIが好転した後、アウトパフォームすることが多い。一方、株式全般は、債券利回りが高水準にあり、来年のEPS(1株あたり純利益)の2桁成長が疑問視されるなか、魅力的ではない株式リスクプレミアムという課題に直面している」
「繰り返すと、エネルギー株は輝きを放っており、魅力的な価値のある銘柄がディフェンシブに取引されると我々が期待するところまで割安になっている」
コラノビッチ氏はまた、金利がまだ上昇する可能性があることを考慮して、長期国債から現金への移行を進めている。とはいえ、まだ長期国債への配分を重視している(現金とは、文字通りの現金、あるいは譲渡性預金や3カ月国債などのきわめて短期の金融商品を指す)。
「10年債の実質利回りが2%前後で、利上げサイクルの最終局面にあることを考えると、債券のエントリーレベルは中期的な観点から魅力的に思える。しかし、最近の債券の弱気相場が続くリスクもあると我々は考えている」
大きなリスクは、原油価格の上昇、賃金と消費者心理の改善など、インフレが完全に終息していない可能性を考えると、市場がまだ最終的な金利を十分に織り込んでいないこと。インフレの主な指標である消費者物価指数(CPI)は、7月の前年比3.2%から、8月は3.7%に上昇している。