オーロラ部門、準優勝作品「Circle of Light 」。ノルウェーで撮影されたオーロラの様子。
Andreas Ettl
夜空に瞬く星々のときに美しく、ときに妖しく光り輝くその姿は、はるか昔から人類にさまざまなインスピレーションを与えてきた。
イギリスのグリニッジ王立天文台では、毎年、天体写真コンテスト「Astronomy Photographer of the Year」を開催。15回目となる2023年度のコンテストには、世界64カ国のアマチュア・プロ写真家から4000点を超える応募があった。
各部門の優勝作品を含めた、珠玉の10作品を見ていこう。
最も身近な銀河の「見知らぬ姿」
総合優勝作品、Galaxies部門の優勝作品「Andromeda, Unexpected」。渦巻き状の銀河の左下に映る青白い筋がプラズマアークだ。
Marcel Drechsler, Xavier Strottner and Yann Sainty
総合優勝に輝いたのは、3名のアマチュア天文家チームによる「アンドロメダ銀河」とその隣(画像左下)に映る巨大な「プラズマアーク」と呼ばれる現象を捉えた写真だ。
アンドロメダ銀河は、私たちが住む太陽系が所属している「天の川銀河」の最も近くにある銀河として知られている。そのため、これまで多くの写真家によってその姿が捉えられてきた。
だからこそ、この天体の近くにこんなにも巨大な構造が存在していることは、天文学者たちにとっても非常に驚きの結果だったという。現在、科学者たちが国際共同プロジェクトによって、この巨大な構造の調査を進めているという。
夜空をなぞる“一筆書き”のオーロラ
オーロラ部門の優勝作品「Brushstroke」。毛筆で描かれたようなシンプルなオーロラの姿は非常に新鮮だ。
Monika Deviat
オーロラは、宇宙と地球の狭間で生み出される美しい光景の筆頭だ。
これまで多くの写真家がオーロラの写真を撮影してきた。その多くが、自然の景観や建造物と共に撮影されてきた。今回オーロラ部門の優勝作品に選ばれたMonika Deviat氏が撮影した写真は、これまでのオーロラ写真とはまったく違う構図で撮影された点が高く評価された。
審査員を務めたKatherine Gazzard氏は、「毛筆画や書道のような芸術を思い起こさせる」と評価している。
オーロラ部門、準優勝作品「Circle of Light 」。ノルウェーで撮影されたオーロラの様子。
Andreas Ettl
オーロラ部門の準優勝作品は、まさにオーロラ写真の美しさを凝縮したような写真だ。ノルウェー、ロフォーテン諸島で撮影されたこの写真は、雪を被った山の周囲を巨大なオーロラがまるで光のカーテンのように覆っている。
地上から超望遠で捉えられた「火星が月に侵食される瞬間」
Our Moon部門の優勝作品「Mars-Set」。月面から撮影した写真のようにも見えるが、アメリカ・テキサスから超望遠で撮影された写真だ。
Ethan Chappel
2022年12月8日、火星が地球から見て太陽の反対側に位置し、非常に大きく明るく見える「衝」を迎えた。このとき、ちょうど満月が火星に接近。Ethan Chappel氏は、まさにその瞬間を焦点距離7120 mmという超望遠カメラで撮影。まるで月面に火星が沈み込んでいくような写真を撮影したという。
構図の面白さに加えて、その技術の高さが大きく評価された。
太陽に刻まれた巨大な「?」
Our Sun部門の優勝作品「A Sun Question 」。クエスチョンマークの形をした筋が、太陽の表面に映り込んでいる。
Eduardo Schaberger Poupeau
Our Sun部門の優勝作品は、太陽の表面の微細な構造を撮影した作品だ。太陽の表面に現れるさまざまな構造は、太陽が生み出す巨大な磁場の影響で大きく形を変える。この写真では、巨大なフィラメント状の構造が巨大な「?」の形を描いている。
世界一危険な海岸に降り注ぐ星々の軌跡
People & Space部門の優勝作品「Zeila」。霧がかった景色が、まるで怪談の世界のようだ。
Vikas Chander
アフリカ大陸のナミビア。大西洋に面した最北端の海岸は、世界で最も危険な海岸線の一つとして「スケルトン・コースト」と呼ばれている。
People & Space部門の優勝作品は、2008年に座礁した「Zeila」と、そこに降り注ぐ星々の軌跡を捉えた作品だ。霧の海に浮かんでいるようにも見えるその光景は、まるで怪談の舞台の一幕のようにも見える。
太陽系の仲間たちの知られざる姿
Planets, Comets & Asteroids部門の優勝作品「Suspended in a Sunbeam」。地球のお隣の惑星「金星」の姿を捉えた写真だ。
Tom Williams
Planets, Comets & Asteroids部門の優勝作品は、Tom Williams氏によって撮影された金星のディテールを捉えた作品だ。金星は、「明けの明星」「宵の明星」などと言うこともあるように、目視でも観測できるほど一般的な惑星だ。ただ、金星は地球よりも太陽の近くにあるため、この写真のように太陽に照らされた状態(地球から遠くにある状態)を細かく捉えることは非常に難しいという。
また、Planets, Comets & Asteroids部門では優秀作品として、天王星とその周囲にある5つの衛星を捉えた作品がノミネートされている。
Planets, Comets & Asteroids部門の優秀作品「Uranus with Umbriel, Ariel, Miranda, Oberon and Titania」。中央にあるひときわ明るい天体が天王星だ。
Martin Lewis
天王星は、太陽系の7番目の惑星。地球から約30億キロメートルという途方もなく遠い場所に位置している。撮影者のMartin Lewis氏は、雲ひとつない最高の条件の夜に撮影し、天王星と共に、ティタニア、ミランダ、アリエル、ウンブリエル、オベロンという5つの衛星を捉えることに成功した(画像上から順に)。
天から降り注ぐ、赤い火花
Skyscapes部門の優勝作品「Grand Cosmic Fireworks 」。スプライトという非常に珍しい大気の発光現象の様子を捉えた。
Angel An
Skyscapes部門の優勝作品は、中国、ヒマラヤ山脈の稜線から捉えられた大気現象「スプライト」の写真だ。カメラのフレームに入り切らないほど巨大かつ、細かいスプライトが、青白い夜空に広がっている様子は幻想的だ。
新たな星雲の姿
Stars & Nebulae部門の優勝作品「New Class of Galactic Nebulae Around the Star YY Hya」
Marcel Drechsler
Stars & Nebulae部門の優勝作品は、ドイツのアマチュア天文家チームによって撮影されたこの写真だ。YY Hyaという天体の周囲を取り巻く星雲の新たな一面を捉えたものだ。
審査員を務めたYuri Beletsky氏は
「アマチュアとプロの天文学者が団結し、協力を通じて素晴らしい結果を達成できることを示す素晴らしい実例です」
とその成果を称えている。
なお、これらの作品は、9月16日からイギリス国立海洋博物館で開催される写真展で展示される。