シクオミス・ミクロスが食べものを探すときには、自分よりもはるかに大きな恐竜をうまくかわさなければならなかっただろう。
James Havens
- 氷点下の気温の中で生きていた、トガリネズミのような小さな動物の歯の化石が発見された。
- その動物は、現在のアラスカにあたる地域で、さまざまな恐竜たちに囲まれて暮らしていた。
- 歯の大きさがマスタードシードくらい(直径1ミリ強)という、ごく小さな動物なので、発掘現場では化石は容易に見落とされてしまう。
7000万年以上前、現在のアラスカ州北部にあたる荒涼とした土地では、恐竜たちがのしのしと歩きまわっていた。そうした恐竜の化石が見つかる「プリンス・クリーク地層(PCF)」は北極圏内にあり、4カ月間は常に暗闇に包まれていたはずだ。
氷点下の気温と、時おりの降雪は、多くの生物にとって生きにくい環境だが、ホッキョクトガリネズミに似た小さな齧歯類のような生物には適していたようだ。
体長数センチ、体重およそ11グラム(5セント硬貨2枚分)のシクオミス・ミクロス(Sikuomys mikros:「氷のネズミ」の意味)は、さまざまな恐竜たちとともに、極寒の気候で生きていた小型哺乳類だ。
PCFは、恐竜の化石が豊富だ。これまでに、ティラノサウルス・レックスやトリケラトプスの近縁を含め、13種の恐竜が発見されている。コロラド大学ボルダー校の地質学教授ジェイリン・エバリー(Jaelyn Eberle)は、そうした恐竜たちの中をちょこちょこと走りまわっていた恒温動物を研究している。
エバリーの研究チームは2023年8月、歯の化石をもとにシクオミス・ミクロスを新種と判定し、「ジャーナル・オブ・システマティック・パレオントロジー(Journal of Systematic Palaeontology)」で発表した。一つひとつの歯の大きさは、わずか1~1.5ミリメートルほどだ。
エバリーはInsiderに、「これらは、平均的なハツカネズミよりも小さい、ほんとうに小さな動物だ」と語り、そのトガリネズミのような動物が「周囲を歩きまわる巨大な恐竜たちとともに生きていたと想像すると興味深い」と話した。
「マスタードシード・サイズの歯」を見つける
PCFで恐竜の化石が見つかったら、古生物学者は、その周囲の堆積物ごと袋に詰める。その後、ごく目の細かい網を使って、ある程度以上の大きさの物体が流れ去らないようにしながら、細かい泥の粒子を洗い流す。
それからようやく、残った破片を顕微鏡で調べる。
「発掘現場で、大きさが1ミリしかない歯を見つけるのは不可能だ」とエバリーは言う。だが、上述の手法により、3つの異なる場所から10個を超える歯を見つけ出した。
シクオミス・ミクロスの歯は非常に小さいので、発掘現場では簡単に見落とされてしまう。
Eberle et al.
堆積物をふるいにかけると、恐竜以外の哺乳類の骨を見つけることができる。ただし、さらに大きな骨格の一部でないかぎり、その骨がどの動物のものなのかを判定するのは難しい、とエバリーは説明する。
「哺乳類の場合、探すべき最も特徴的な化石は、歯の化石です」とエバリーは話す。シクオミス・ミクロスの歯は近縁種のものとは大きく異なっており、新種のように見えた。
その後、研究チームはその小さな歯をもとに、持ち主の動物の大きさを導き出した。
食べものが少ないときは、小さい体が有利
頭骨などの骨が見つかっていないため、シクオミス・ミクロスについて多くを特定することは難しい。だが、近縁種の暮らしぶりが手がかりになるかもしれない、とエバリーは言う。
エバリーによれば、現生のトガリネズミやハタネズミとの比較からすると、シクオミス・ミクロスは冬眠していなかった可能性があるという。
「おそらく、目を覚ました状態で、餌を食べながら冬を越していたのでしょう。一年じゅう餌をとっていたのかもしれないし、多くの哺乳類がそうするように、落ち葉の下や地中に隠れて、噛めるものならなんでも食べていたのかもしれません」とエバリーは話す。その「なんでも」には、昆虫やミミズなどの無脊椎動物も含まれる。
小さいとはいえ、シクオミス・ミクロスの歯は、新種と判定できるほど細部が保存されている。
Eberle et al.
エバリーらの論文では、現生哺乳類の場合、体重の大きい動物ほど、緯度が高く寒い気候に生息する傾向があると指摘されている。一般に大型の動物ほど、餌のほとんどない冬を生き延びるための脂肪を蓄えることができるからだ。
シクオミス・ミクロスは、その傾向にあてはまらないようだ。もっと南に生息していた近縁種は、「アラスカに生息していた小さなシクオミス・ミクロスと比べると、3~5倍ほどの大きさでした」とエバリーは言う。
その事実は、シクオミス・ミクロスの小さな体が進化的適応だったことを示唆している。「小さな体が選択されたのは、おそらく小さいほうが、冬を生き延びるのに必要な食べものが少なくなるからでしょう」とエバリーは述べている。