米国債には満期まで利子がつき、安定した収入が得られる。
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- 米国債は米国政府が発行・保証する負債証券の一種だ。
- 投資家は投資期間に応じて、さまざまな米国債を購入できる。
- 米国債利回りとは、満期まで債券を保有した場合に得られることが予想される年間リターンを言う。
比較的リスクの低い投資商品を求めているなら、米国債は優れた投資先候補だ。流動性が高く、投資期間に応じて柔軟に選べるからだ。
米国債は世界最大の経済大国であるアメリカ政府が発行する債券。そのため、信用力や流動性が高く、安全な投資先とみなされている。だから、各国政府が外貨準備高として最も多く保有しているのが米国債なのだ。
だが、購入する前に米国債の種類、仕組み、長所と短所を理解していくことが大事である。本記事では、そこを深ぼっていく。
米国債とは何か?
米国債は、アメリカ政府が保証し、アメリカ財務省が発行する負債証券だ。米国債は短期国債(Tビル)、中期国債(Tノート)、長期国債(Tボンド)などいくつかの種類に分かれる。
「米国債はどれもかなり安定しているが、利回りは高くない」と言うのは、オルトライン(altLINE)のシニアバイスプレジデントのジム・ペンダーガスト氏だ。「インフレについていきながら、資産を安全に保つような米国債を見つけることが鍵だ」
種類によって米国債の満期は4週間から30年、金利の形態も定期的に支払われるものから満期時に元本が返済されるものまでさまざまだ。投資家は証券を保有しながら、定期的(半年ごと等)や償還時に利息を受け取る。
米国債:長所と短所
米国債には長所と短所があるので購入前に考えてみよう。
長所
- 信用力:米国債はアメリカ政府が保証しているため、一般的に最も信用力が高いとみなされている。信用力とは、個人または事業体の債務返済の可能性のことだ。この場合、投資家が保有している米国債の返済に、アメリカ政府が応じる見込みを指す。
- 税制面での優遇:金利には連邦所得税が課せられるが、州または地方税は課せられない。ただし、満期前に債券を売却して利益が出た場合には、キャピタルゲイン課税を払わなければならないことがある。キャピタルゲイン課税は、投資家の課税所得額によって0%~20%の範囲で課せられる。州によっては州税(0%~11%)も払わなければならない。
- 流動性:投資家は定期的に行われる入札や流通市場で米国債を売買できる。実際の価格は、実勢金利と比較した債券の表面利率によって決まる。
- 選択肢:投資家はニーズに応じて、満期が4週間のものから30年まで、仕組みも異なる米国債を購入可能だ。
短所
- 低利回り:米国債は通常、ほかのリスク証券に比べて金利が低い。
- 税務上の検討事項:額面を下回る価格で購入し、満期まで保有するか、あるいは売却して利益が出ると、キャピタルゲインに連邦税および州・地方税が課せられる。
- 金利リスク:すべての債券と同様、市場金利の変動により債券価格が変動する。
- インフレリスク:大半の米国債の利率は、インフレ率の上昇についていけない。例外は米物価連動国債(TIPS)だ。
- 信用またはデフォルトリスク:すべての債券にはデフォルト(債務不履行)リスクがあるため、米国債の保有者はデフォルトリスク上昇の兆候を監視しなければならない。
このようにいくつか短所を並べたが、米国債最大の欠点はやはり利回りが低いことだろう。
A.G.キャンベル・アドバイザリーLLC(A.G. Campbell Advisory LLC)の登録投資顧問(RIA)で認定投資フィデュシャリーのアレクサンダー・キャンベル氏は「金利リスクは現実のものであるが、投資ポートフォリオの運用において、負債証券は重要な資産クラス」であることも覚えておくことが賢明だと言う。長い目で見ると、資産を株式に投資し続けることができるのは、往々にして債券部分があるからなのだ。
米国債の仕組み
米国債を購入するということは、アメリカ政府に実質的にお金を貸し、アメリカ政府が一定期日に返済を約束することである。
米国債にはさまざまな満期のものがあるため、自分の投資目標に合った証券を選択できる。後述するトレジャリー・ダイレクト(TreasuryDirect)を経由して米国債を購入すると、最低45日保有しないと流通市場で売却できない。もちろん満期まで待って最大限のリターンを享受することも可能だ。
米国債の金利には連邦所得税が課せられるが、州税や地方税は課せられない。また、元本価額の上昇(キャピタルゲイン)にも税金がかかることがある。
2023年度は、連邦所得税区分によって、10%~37%の連邦所得税が課せられる。一方で、社債、住宅ローン担保証券、グローバル債券ファンド、分散債券ファンドなどの課税債には、連邦所得税だけでなく地方税も課せられる。
米国債は安全で流動性も高いため、生活防衛資金を米国債で運用する投資家もいる。だが、満期前に売却すればペナルティを払う羽目になりかねない。さらに、クリエイティブ・フィナンシャル・グループ(Creative Financial Group)のジョン・メンデス(John Mendes)CFPによると、いつでも出し入れできる高金利預金でも、同程度の金利を得られる。したがって、追加的な手間をかけずにいつでも出し入れできることを最優先するならば、預金口座が最善だろう。
米国債の種類
「米国債」はすべてのアメリカ国債を指す包括的な用語だが、実際にはいくつか種類がある。主な違いは、証券の満期と金利の支払い方法だ。
ペンダーガスト氏によると、多くの人が、米国債を選ぶときにはインフレ率についていける商品が最善の戦略だと主張する。だが、多くの場合、投資商品はインフレ率を完全に反映しない。インフレ率は消費者物価指数(CPI)に基づいており、これは平均値だからだ。
それでは米国債の種類を順番に説明しよう。
米国短期国債(Tビル):Tビルの満期は4週間、8週間、13週間、26週間、52週間であり、割引価格(ディスカウント)で販売される。つまり額面を下回る価格で購入できるが、満期時に受け取れるのは額面金額だ。短期国債は「リターンが極めて低いことで悪名高い」とペンダーガスト氏は言う。
米国中期国債(Tノート:)Tノートの満期は2年~10年で、半年ごとに利払いが行われる。ディスカウント、額面(パー)または割増(プレミアム)価格で販売されるため、価格は額面を下回ることも、額面と同じことも、額面を上回ることもある。
米国長期国債(Tボンド):Tボンドもディスカウント、パー、プレミアムで販売され、年限は20年か30年である。債券保有者は半年ごとに利息を受け取る。
米国物価連動国債(TIPS):TIPSの満期は5年、10年または30年で、利払いは半年ごとである。TIPSの元本はインフレ率に応じて上昇するため、インフレから資産を守る効果がある(ただし、デフレの場合は元本が減少する)。満期時には調整後の元本と当初元本のいずれか大きい方を受け取る。
変動利付き国債(FRN):FRNの満期は2年で、利払いは四半期ごとに行われる。利払額は13週物Tビルの割引レートに基づいて上昇または低下し、ディスカウント、パー、またはプレミアムで販売される。大半のFRNには金利低下リスクがあり、金利が急落する局面では不確実な投資選択になりうる、とペンダーガスト氏は言う。
ストリップス債(STRIPS):STRIPSは民間金融機関を通じてのみ購入できる。
金融機関はまず適格Tノート、Tボンド、またはTIPSを購入し、それを利付き部分と元本部分に分ける。その後それぞれを大幅な割引価格で投資家に売却する。これら証券は満期時に額面価格で償還される。
TIPSとFRNは変動債のため、金利の上昇とともに利率も上昇する。
メンデス氏は言う。「金利がここから上昇すると思うならば、金利上昇から所得を守る方法は2つある。その1つがこの変動利付債であり、時間とともに金利収入の増加が見込める所得を必要とする投資家に適している」
米国債の種類 | 最低券面単位 | 販売価格 | 期間 | 利払い方法 |
---|---|---|---|---|
Tビル | 100ドル | ディスカウント | 4週、8週、13週、26週、52週 | 元本は満期時 |
Tノート | 100ドル | ディスカウント、パー、プレミアム | 2年、3年、5年、7年、10年 | 半年ごと |
Tボンド | 100ドル | ディスカウント、パー、プレミアム | 20年、30年 | 金利は半年ごと元本は満期時 |
TIPS | 100ドル | ディスカウント | 5年、10年、30年 | 半年ごと、元本は満期時 |
FRN | 100ドル | ディスカウント、パー、プレミアム | 2年 | 利払いは四半期ごと元本は満期時 |
STRIPS | 100ドル | ディスカウント | 各種 | 元本は満期時 |
米国債の買い方
米国債はアメリカ財務省か、民間の金融機関を通じて購入できる。日本では証券会社を通じて購入可能だ。以下にアメリカ国内での米国債の買い方を説明しよう。
米国財務省から購入する方法
新発債は財務省のウェブサイト、トレジャリー・ダイレクト・ドット・ガブ(TreasuryDirect.gov.)から直接購入できる。口座を開設したら、定期的に行われる入札に応札する。入札についてはTビルが毎週、Tノートが毎月、Tボンドは年に4回(2月、5月、8月、11月の第1水曜日)に行われる。最低購入価額はどれも100ドルだ。
応札方法は2通りある。
- 非競争入札:応札する際、どの金利水準で決まっても購入することに合意する。その代わりに必ず応札でき、満期時に額面が支払われる。
- 競争入札:応札したい金利を指定することも可能だが、入札で決まった金利より低いか同じ場合にのみ応札できる。
銀行または証券会社経由で購入する方法
また、銀行や証券会社などの金融機関を通じて米国債を購入することも可能だ。金融機関ごとに最低引受額が決まっているため、金融機関を通じて購入する場合はトレジャリー・ダイレクトを経由するときよりも多く投資する必要があるかもしれない。金融機関経由で証券を買う際には主に2つの方法がある。
- 金融機関が政府サイトで購入する:金融機関がトレジャリー・ダイレクトでの入札をチェックして、顧客に替わって新発債の入札を行う。このプロセスは簡単だが、手数料を払わなければならないだろう。
- 金融機関が流通市場で購入する:金融機関が顧客のために流通市場で既発債を購入することもある。また、顧客は証券口座を通じて米国債の投資信託や上場投資信託(ETF)を購入するという選択肢もある。だがこれらはいずれも手数料がかかる。
貯蓄債を米国財務省から買う方法
ここまで紹介してきた国債はいずれも市場性があり、流通市場で売買できる。一方、トレジャリー・ダイレクトでしか購入できず、流通市場で売買できない貯蓄債もある。
インフレ率が上昇する中、貯蓄債の1つである米財務省証券シリーズI(通称:Iボンド)に注目が当たっている。Iボンドの利率は30年間固定部分と、インフレ率と連動する変動部分で構成されているため、インフレから投資家を守ってくれる。Iボンドは1年間保有しないと現金化できないが、最長30年間金利を獲得できる。
上述のようにIボンドは米国財務省のウェブサイトであるトレジャリー・ダイレクトでのみ購入可能のため、証券会社経由では買えない。トレジャリー・ダイレクトの口座から「BuyDirect」のサイトに行き、Iボンドを選択する。Iボンドの購入限度額は暦年につき1万ドル(約140万円)だ。
米国債利回りとは何か?
米国債利回りとは、米国債を満期まで保有した場合に期待できる年間リターンのことだ。一般的に利回りは、米国債の需要動向によって変わる。
米国債利回りが上昇するということは、米国債に対する需要が低下し、価格が下落することを示唆する。反対に米国債利回りの低下は、米国債需要が上昇し価格も高まることを示す。金利上昇はまた、投資家の信頼感の高まりとも関連する傾向がある。
一般的に長期債は、時間の経過とともに市場リスクに左右されるため、利回りが高くなることが多い。長期債は株式市場のリターンや米国経済に対する投資家の長期的な期待値を反映しやすい。長期金利は楽観的な経済見通しを反映すると同時に、インフレ率の上昇を示すこともある。
米国債 | 金利 |
---|---|
3カ月金利 | 5.26% |
6カ月金利 | 5.23% |
2年金利 | 5.01% |
3年金利 | 4.73% |
5年金利 | 4.48% |
10年金利 | 4.35% |
30年金利 | 4.46% |
※米国債利回りは2023年8月22日現在の数値
米国債に関するFAQ
Q1 米国債は良い投資商品か?
- 米国債は信用力が最も高い優れた投資商品である。税制優遇もあり、総じてリスクは低い。満期まで金利が得られるので、安定したキャッシュ・フローを得るにはうってつけだ。ただし、まったくリスクがないわけではなく、市場金利やインフレ率の変化による影響を受ける。
Q2 米国債1年物の金利はいくらか?
- 現在、1年物の金利は5.37%である。満期まで1年のTボンドを保有する投資家は、半年ごとに固定金利を受け取る。
Q3. 米国債にはどのような種類があるか?
- 米国債には、Tビル、Tノート、Tボンド、TIPS、FRNなどの種類がある。米国債の種類が違えば償還期日、利払い方法、販売場所も異なる。
米国債に投資すべきか?
米国債は極めてリスクが低く、満期や利払い方法もさまざまだ。また、投資家は市場が開いている限り、いつでも米国債を現金化できるため流動性も高い。ただし通常、株式やその他資産に比べてリターンが低いため、投資家はリスクを抑えると同時に、資産を増やすためにも分散投資を心がける必要があるだろう。