北大で論文不正。4論文で捏造519件、改ざん317件を認定「研究へのプレッシャーも要因の一つ」

不正報告書

論文不正に関する調査結果が公開された。

撮影:三ツ村崇志

北海道大学(以下、北大)は、9月20日、同大学の創成研究機構化学反応創成研究拠点(ICReDD:アイクレッド)の澤村正也教授の研究グループが米科学誌に発表した触媒に関する論文をはじめとした計4本の論文に、データの捏造や改ざんが合計836件確認されたと発表した。

北大のICReDDは、文部科学省が指定する世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されている研究拠点の一つだ。

捏造519件、改ざん317件の衝撃

会見

記者会見の様子。

記者会見のスクリーンショット

ことの発端になった論文は、2022年5月に退職した特任助教のRonald Lazo Reyes氏が執筆し、2020年8月に米科学誌 Science誌に掲載されたものだ。

2022年4月1日に学内からの内部通報によってデータに疑義があることが判明。北大は告発内容が合理的であるとして受理。4月29日に、論文の取り下げに関するプレスリリースを発表している。その後、北大では学内に調査委員会を立ち上げ、調査を進めていた(調査期間は2022年6月17日~2023年6月9日)。

調査対象となったのは、該当論文の筆頭著者(論文の先頭に名前が記載される著者)であるRonald Lazo Reyes氏が執筆した合計5本(うち1本は4本の論文を取りまとめた「レビュー論文」)。調査の結果、4本の論文について「捏造519件」「改ざん317件」の合計836件に及ぶ不正が認められた。

※これらの論文をもとにしたレビュー論文についても捏造・改ざんを認定。なお、調査対象となった論文は全て掲載が取り下げられている。

調査委員会では、Ronald Lazo Reyes氏はもちろん、研究室を主催する澤村正也教授ら関係者合計5名に対して聞き取りなどの調査を実施した。

その結果、論文の筆頭著者であるRonald Lazo Reyes氏を捏造や改ざんの実行した者として不正への関与を認めた。また、澤村教授については、不正行為への直接的な関与はないものの、研究室の主宰者(PI)や論文の責任著者としての管理責任の点から、

「澤村氏はPIとして、また責任著者としての責務である実験結果の科学的妥当性について必要な検証を行っていなかったものと判断できる」(報告書より引用)

など、管理責任が重いと指摘している。

その他の関係者については、不正を認めなかった。

報告書では、本来一本の線状に示されるべきグラフの途中に加工の跡と思われる不自然な切れ目や継ぎ目がある点や、グラフの目盛りに不自然な数字が並ぶ点など、かなり「ずさん」な捏造・改ざんの事例も挙げられていた。

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不正の図

顕著な不正の事例として、グラフの切れ目や、数値の飛びなどの雑な加工が挙げられている。

撮影:三ツ村崇志

どれも論文発表前に再現実験をしたり、データの突き合わせをしたりすれば気づけたレベルの不正だ。

調査委員会の報告書では、

「不正行為の有無を確認することや実験ノート等を辿るといった具体的な指示を他の著者にすることもなく、それらは当該著者 により行われているものと判断し、また当該著者がチェックしたかを確認することを怠った。また、責任著者をはじめとする誰もが不正などは起こり得ないとの先入観から、その有無を確認しなければならないという意識が欠けていた

と不正発生の原因について述べている。

また、調査委員会は、聞き取りの中でRonald Lazo Reyes氏が特任助教※という当時の立場上、成果を出すことに対して焦りが強くなっていったことが読み取れたとも指摘。限定した任期の中で研究成果を出さなければならないプレッシャーが不正を働くに至った原因の一因になっているのではないかと推測している(※特任助教は、任期付きの教員)

北大では、今後、澤村教授に対して就業規則に基づいた処分を進めていくとしている。一方で、不正行為の実行者であるRonald Lazo Reyes氏に対しては、本人が2022年5月の段階で北大を退職しているため、就業規定を適用した形での処分ができない。

調査対象となった論文はRonald Lazo Reyes氏が2018年に北大に提出した学位論文の根拠になった論文であることから、学位の取り扱いについては大学の規定に基づいて対応を進めていくとした。

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