ジェネレーティブ(生成)AI技術の進化を受け、副業やギグワーク(単発の請負仕事)のような複数の仕事を掛け持ちする働き方の未来は大きく変わろうとしている。
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米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の顧客向けメール(9月18日付)によれば、世間の懸念とは裏腹に、ジェネレーティブ(生成)AIは人間の仕事を奪うどころか、逆により大きな収入を得るのに役立つ可能性があるという。
支出に収入が追いつかず、その差が広がるにつれ、副業やギグワーク(ネット経由で請け負う単発の仕事)の人気が高まっていくと同社は予想しており、生成AIはとりわけそうした仕事に役立つとみる。
同社は、ギグワークの市場規模が拡大していく主な要因として、若い世代にとって将来の資産形成が期待薄になっていることを挙げる。
例えば、X世代(Z世代の親)にとって住宅購入時(1986年時点)の価格相場は年収の4倍程度だったが、Z世代が同年齢で住宅を購入しようとすれば、年収の10倍を支払う必要がある。
また、副業やギグワークなど複数の仕事を掛け持ちするモチベーションとして、経済成長が鈍化する中で時間的にフレキシブルな働き方を望む傾向が強まっていることを同社は指摘する。
モルガン・スタンレーが実施した調査によれば、回答者のうち若年層もしくは大卒層は、生成AIが世代間格差や経済格差を緩和するのに役立つと考えていることが分かった。
調査回答者の多くはすでに宿題や小遣い稼ぎの用途でAIツールを使い始めていることも明らかになった。
Z世代について言えば、調査回答者の約30%はAIによって若干でもジョブセキュリティ(仕事の安定性)が向上すると考えており、AIに自分のポジションを奪われる懸念を感じると回答したのはわずか5%だった。
また、AIツールがギグワークの収益性を向上させることも示された。生成AIを活用しているギグワーカーの収入は、活用していない同業者を21%上回るという。
モルガン・スタンレーの試算によれば、AI活用のギグワークからは2030年までに世界で4000億ドル(約59兆2000億円)の追加収入が生み出される。同社が「新たな長期的成長トレンド」と位置付けるのももっともだ。
この強力な長期トレンドを踏まえて、モルガン・スタンレーのアナリストチームが投資判断を最上位の「オーバーウェイト」とする4銘柄を以下で紹介しよう。
最初はアドビ(Adobe)だ。
株式アナリストのキース・ワイスによれば、同社が開発した画像生成AIツール「Adobe Firefly」を使えるプラグインや機能をクリエイティブ製品に統合することで、2025年までに19億9000万ドル(約2950億円)の追加収益が見込まれるという。
モルガン・スタンレーが設定するアドビの目標株価は660ドル。
次にアマゾン(Amazon)。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウド経由で多様な基盤モデル(大規模かつ多様なデータで学習済みの汎用的AIモデル)を利用できるサービス「Bedrock(ベッドロック)」を提供し、開発者や企業による生成AIアプリケーション開発を支援する。
IBM、ブリッジウォーター(Bridgewater)、ブッキング・ドットコム(Booking.com)、フィリップス(Phillips)などの大手を含む数千社がすでに上記のサービスを利用している。
アマゾンの目標株価は175ドル。
中国のアリババグループ(Alibaba Group)は、コンピューティングパワー、AIモデル、データ、アプリケーションの4レイヤーそれぞれにAI機能を提供できる点に競争優位性があると喧伝する。
モルガン・スタンレー株式アナリストのゲーリー・ユーによれば、アリババの開発したマーケティングツールは、顧客企業が運営する実店舗およびECサイトの装飾やデザインを改善し、商品画像や販促キャッチコピー、商品リストなどを自動生成できる。
アリババグループの目標株価は150ドル。
同じ中国のフードデリバリー大手メイトゥアン(Meituan、美団)も、6月末に生成AIスタートアップのライトイヤー(Light Year)買収を発表。AI人材へのアクセスを確保したことで優位に立った。
ただし、前出のユー氏はこの買収案件のディールストラクチャー(M&Aの手順・手法)については懸念が生じていると指摘する。
メイトゥアンの目標株価は180香港ドル。
モルガン・スタンレーは投資判断をオーバーウェイトとした上記4社以外に、ウーバー(Uber)やゴーダディ(GoDaddy)、ユーデミー(Udemy)、ロブロックス(Roblox)も、生成AI活用によるギグワーク市場拡大の恩恵を受けるとしている。
一方、ビジネスにネガティブな影響が出る可能性を同社が指摘するのは、ローカルビジネス特化型レビューサイト運営のイェルプ(Yelp)、投資アプリのロビンフッド(Robinhood)、配車サービスのリフト(Lyft)など。
最後に、本記事で紹介したギグワークと生成AI活用をめぐる成長トレンドについて、恩恵を受ける企業と困難に直面する企業を一覧できるカオスマップを掲載する。
【図表1】生成AIを活用したギグワーカー向けプラットフォームを提供する企業のカオスマップ。
Morgan Stanley