取材に応じたタイミーCFO・八木氏。八木氏は2008年に三菱UFJ銀行入行、三菱モルガン・スタンレー証券などを経て2021年4月にCFO就任。
撮影:横山耕太郎
すきま時間バイトのマッチングサービスを手掛けるタイミーが9月25日、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行から計130億円を資金調達したことを発表した。
タイミーは2022年11月にも上記3行を含む8金融機関から183億円を調達しており、累計の調達額は合計約403億円になった。
調達した資金は、エンジニアや営業担当を始めとする人材採用費用、テレビCMを含めたマーケティング費用、タイミーで働くワーカーの増加に対応するための立替費用などに当てる。
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スタートアップとしては「異例」の借り入れ
2023年6月時点の事業者数は4万6000事業者にのぼっている。
出典:タイミーのプレスリリース
一般的にスタートアップの資金調達では、新株を発行しその株を元手にベンチャーキャピタル(VC)や投資家から資金を調達する方法(エクイティ調達)が多い。しかしタイミーは2022年に続いて今回も、借り入れでの調達(デットファイナンス)を選択した。
今回の調達では「借り入れ金利1%未満、無担保・無保証」で130億円を借り入れることのできるコミットメントライン(融資枠)を確保しており、タイミーCFOの八木智昭氏は「スタートアップとしては異例の好条件」だと話す。
今回タイミーが資金調達を実行できたのは、銀行が急激な事業拡大を評価したことが大きい。
タイミーは2018年にアプリ「Timee」を正式リリース。タイミーを使って働くワーカー数は2019年時点では73万人だったが、2023年には500万人を突破。タイミーを利用する事業者数も2023年には、2019年に比べて27倍の4万6000事業者に急増している。
テレビCM、今年度は倍増
テレビCMではタレント・橋本環奈さんを起用している。
出典:タイミーのプレスリリース
「今はまだ『スキマバイトと言えばタイミー』と思われているかと言えば、まだまだ認知が足りていない。サービスを知らない人も多い。テレビCMを含めたマーケティングは必要だ」
CFOの八木氏はそう話す。
タイミーではテレビCMにタレント・橋本環奈さんを起用。過去には一定期間のCM放送を年に2回行っていたが、今年度はすでに倍の4回を放送した。また放送エリアもこれまで大都市圏限定から全国の地方都市にも拡大している。
「費用対効果の面ではテレビCMがすごく効率的とは言えないものの、認知度の獲得という面は、経済的リターンでは測れない面もある」(八木氏)
今後はテレビCMに限らず、デジタル面でのマーケティング対策もさらに強化する。ネット広告やSNS広告はすでに展開しているが、八木氏は「デジタル広告で一番経済リターンが得られる方法を比較分析しながら進めていく」とする。
2023年8月27日、FIBAバスケットボールW杯グループEで日本代表はフィンランドと対戦した。
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タイミーの広告は、“思わぬ形”でも注目された。
2023年8〜9月に開催されたバスケットボール男子ワールドカップ(W杯)で、タイミーは沖縄県内での試合に関するイベントスポンサーに就任。試合中には電光掲示板に広告を出していた。
快進撃を続けた日本代表の試合は大きな注目を浴び、八木氏は「試合のリプレイシーンなどでも広告が映り本当に運がよかった」と振り返る。
ホテル業界求人、前年比6.7倍に
マーケティングに加えて資金をつぎ込むのが人材獲得だ。エンジニアだけでなく、特に営業職の採用も進めているという。
タイミーを利用する企業の多くは、これまで飲食業や物流業が大きなウェイトを占めていた。しかしコロナ後には、宿泊業や農業、レンタカー業界などでも利用が急増し、業界の裾野が広がっている。
特にホテル業ではインバウンド需要が復活したものの、働き手の不足により空室があっても稼働できないホテルが珍しくない。
タイミーでは、これまで1人の正社員やフルタイムのアルバイトが担っていた一連の業務を、例えば「客室清掃」「送迎」「宴会での配膳」「朝食ビュッフェの補充」など細かく切り出してマニュアル化。短時間のアルバイトであっても担当できる形にすることで、新たな顧客獲得を進めてきた。
タイミー上のホテル業界の求人募集人数は、2023年7月には前年比6.7倍に増加しており、過去最高を更新。外資系ホテル・ヒルトンなどもタイミーを利用しているという。
「高価格帯の外資系ホテルではホスピタリティが求められるが、例えば清掃やキッチンなどの業務を切り出すこともできる。マルチに全部一人でこなすことは、人手不足で難しくなっており、『他の人にやってもらう』という選択肢が選ばれるようになってきた」(八木氏)
2023年末には「社員1000人規模目指す」
CFOの八木氏は「人手不足の日本で、タイミーによる新しい働き方が一つのスタンダードになっていく」と力を込める。
撮影:横山耕太郎
タイミーの社員数は2022年には546人だったが、2023年8月には800人を突破。2023年末には1000人規模を目指すという。
タイミーは現在、全国に7支社を構え新規の事業者の獲得を進めているが、青森や沖縄など新たな営業拠点の設置も進めている。
急激にサービスと組織を拡大させるタイミーだが、将来的な上場の機会もうかがう。
「今は市況がいいとも言えない。マーケットが改善し、事業にとって一番いいタイミングを考えたい。
現状ではデットファイナンスで十分な額を調達ができており、上場を急ぐ必要性はないので」(八木氏)