小売業の中で、ドラッグストアが存在感を強めている。
撮影:土屋咲花
ドラッグストアが勢いを増している。
ダイヤモンド・チェーンストアが発表した小売業の売り上げランキングでは、トップ10に4社がランクイン。なかでも勢いが目立つのは、マツキヨココカラ&カンパニー(マツキヨココカラ)だ。2023年3月期の売上高は9512億4700万円(前年比130.3%)、営業利益が622億7600万円(同151.6%)、純利益405億4500万円(同117.9%)と大幅な増益を達成した。
2021年10月にマツモトキヨシホールディングスと、ココカラファインが経営統合してから約2年。躍進の要因の一つは、自社で独自に企画・開発するプライベートブランド(PB)でヒットを連発していることがある。
なぜマツキヨココカラは、“当たるPB”を投下し続けることができるのか?
そこには延べ1億3000万人を超える圧倒的な顧客接点に基づいた、細かすぎる分析があった。
パーソナライズ型PBが好調
パーソナライズラインの「MQURE for U」の仕組み。
マツキヨココカラ&カンパニー提供
マツキヨはすでに1980年代からPB開発を始めており、その数は現在1817SKU(品目数)にのぼり、売上高では12.7%を占める。
2023年4月には、シャンプーとトリートメントのPB新商品「MQURE(エムキュア)」を発売。担当者によると「計画を30%上回る売り上げ」だといい、ヒット商品の仲間入りを果たした。
ヘアケアのPBは「ARGELAN(アルジェラン)」や「matsukiyo」ブランドをすでに展開しているが、エムキュアは店頭販売の「MQURE in Store」と、オンラインで注文するパーソナライズライン「MQURE for U」の2軸で販売する点が特徴だ。「for U」はウェブサイトで髪の毛の悩みや好みの香りなど14の質問に答えると、自分に合った1本が届く。
価格は店頭販売が税込み各1980円、パーソナライズラインはシャンプーとトリートメントがセットで税込み6600円。ドラッグストアのPBとしては高価格だが、この高級シャンプーのヒットを支えたのが、緻密な商品設計だった。
細かすぎる顧客分析
MCCマネジメント商品統括本部の櫻井壱典氏。
撮影:土屋咲花
「新しい商品を出した時にどういうお客さんが買ってくれるのかという見込み客数を、顧客データをもとに特定することできる」
マツキヨココカラグループの中で、商品企画を手掛けるMCCマネジメント商品統括本部の櫻井壱典氏は、グループの強みについてそう語る。
2021年の経営統合によって、マツキヨココカラの店舗は全国に3409店となり業界1位に躍り出た。店舗でのリアルな接点を起点に、現在はアプリやLINE、カードなどの会員で延べ約1億3300万人の顧客接点を持つ。
マツキヨは10年以上前から顧客データの分析を行っているが、ココカラファインとの統合で、顧客数と顧客データ量は増加した。
実際には顧客データをどう使っているのだろうか?
力を入れているのが、「商品DNA」と呼ぶ独自の分析の手法だ。膨大な項目によるスコアリングで、それぞれの商品の顧客像を浮かび上がらせる。
櫻井氏は「お客さんが買っているものから顧客をセグメンテーション(区分け)し、顧客像を作っている」と明かす。ターゲットを性別や年代で区切るのでなく、「価値観」で見るのがマツキヨ流だ。
美容に対する意識一つを取っても「異性にモテたい」のか「同性受けを良くしたい」のか……。買い物の価値観は「保守的でメジャーブランドを選ぶ」のか、「SNSに反応しやすい」のか…。こうした価値観を意識スコアとして設定し、取り扱う全ての商品に付与しているという。
前出の高級パーソナライズシャンプー・エムキュアの場合、まずは全国に32店舗を構える「マツキヨラボ店」の来店客を分析した。
マツキヨラボは、管理栄養士やスペシャリストによるカウンセリングを行い、サプリや商品を販売する店舗で、パーソナライズシャンプーを好む顧客に近いと予想。パーソナルな接客、商品を好む顧客の特徴を分析することで、エムキュアのターゲットとなる層がどの程度いるかを算出したという。
結果、開発したシャンプーそれぞれが予想した顧客層に刺さり、売り上げも好調に推移した。
「店頭販売の『スカルプケア&モイスト』は、簡単に言うと肌への意識が高い層、『ディープモイスト&リペア』はSNSや流行に敏感な方が買うであろうと設計し、パーソナライズシャンプーに関しては、美容への追求度合いが高く妥協しない方が買うと想定していました。(全ての種類において)実際に買っている顧客とターゲットは相違なかったです」
「NBの売り上げを食わない」重要視
PBのひとつで、敏感肌用のスキンケア商品「レシピオ(RECiPEO)」。「商品DNA」をもとにした商品開発で新規顧客の獲得に成功している。
マツキヨココカラ&カンパニー提供
これほどまで密な分析をしたうえでPBを開発するのは、「(大手ブランドらが作る)ナショナルブランド(NB)とカニバらない(売り上げを奪わない)ようにするため」だという。
マツキヨココカラでは、NB商品を店舗で取り扱うだけでなく、メーカーと共に商品開発もしている。それらの売り上げを奪わずに成長することを重要視する。
「普通PB商品というと、NB商品からスイッチさせるという考え方を持つ人が多いですが、企業が成長する上ではNBも共に成長しなければいけない。
私たちがやるべきは、NBではカバーできない領域に新しいマーケットを作ることです。
PBが売れれば利益は高くなります。ですが、利益が改善しても売り上げ全体が上がらなかったらいい結果じゃない。
PBを投入したら、NBを買っていたお客さんの流入(乗り換え)は少なくて、新しいお客さんが他から増えるというのが理想的な姿です。そのためには、NB商品をどんなお客さんが買っているのかをできるだけ解像度高く分析できないといけないんです」
緻密な顧客分析に力を入れ始めたきっかけは、2011年の東日本大震災だったという。マツキヨココカラ広報室IR戦略専任部長の高橋伸治氏は、こう話す。
「当時、関東以北のライフラインが寸断されて、製造工場などが壊滅的な打撃を受けました。われわれ小売業は商品を確保できないから、チラシ特売ができなかった。
その時に、私たちも営利企業ですから、どうお客様との接点を持てるのかを考えたんです」
広範囲にチラシを撒かなくとも見込み客にダイレクトな訴求ができるよう、東日本大震災後、マツキヨは、店舗だけでなくLINEやアプリなどでの顧客接点を拡大することで、商品開発やプロモーションに生かす方針に転換したという。
データに基づいたPB戦略は、顧客にとっても「価格と品質」の面で還元されている。
「多くのメーカーは、商品コストの中でもマーケティングやプロモーションの費用を膨大にかけています。顧客データを生かせる我々はそこに費用を多くかけない分、処方設計であったり、使う成分であったりに力を注いで作っているんです」(櫻井さん)
実際にSNSなどでは、PBの化粧品について「安価なのにデパコス(百貨店で販売している化粧品ブランド)級」との口コミも少なくない。
PBで売り上げの15%を作る
今後はPB商品が売り上げに占める割合を、2026年3月期に15%まで高めていく計画だ(2023年3月期は12.7%)。国内需要だけでなく、インバウンドや海外での販売にも力を入れることで達成を目指す。
例えばエムキュアは、開発段階から海外での販売を見据えており、海外規格にも対応した成分で製造している。すでに台湾の店舗でも販売しており、店舗での売り上げはヘアケア部門で上位10位以内に入るという。
既存のPB商品も、海外規格に対応したものにリニューアルして輸出を進めるという。インバウンド客を旅行中だけでなく旅行前、帰国後も手放さずヘビーユーザーにする狙いもある。
「インバウンドは戦略的に獲得しなければいけないマーケット。そうなってくるとやはり我々のグループでしか購入のできない商品(PB)があるということが、国内においても海外のお客さまに対しても一番重要な視点になってきます」(櫻井さん)