スノーピークが運営するキャンプ場が岩手県・陸前高田市にオープンした。東日本大震災後は、仮設住宅を設置していたキャンプ場をリニューアルした。
撮影:横山耕太郎
「前日の夜9時半に千葉を出て、ゆっくりドライブして朝の7時に陸前高田に着きました。
スノーピークのテントはすでにいくつも持っているんですが、今日のために新しいテントも買ってきました」(千葉県在住、52歳の会社員男性)
キャンプ用品大手・スノーピークは、岩手県陸前高田市に新しいキャンプ場「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」をオープンさせた。
オープン初日の9月23日には、受け付け開始の午前9時の前から、宿泊予約者の車が列を作っていた。
オープンの直後、キャンプ場の入り口では岩手県内外の車が列を作っていた(写真の一部を加工しています)。
撮影:横山耕太郎
ナンバープレートを見てみると、地元の「岩手」「平泉」「盛岡」に加え、「川口」「熊谷」「柏」「袖ケ浦」など関東ナンバーも多かった。
盛岡市や仙台市からは車で約2時間だが、東京の中心部からは車で約6時間もかかる立地。それでもオープン初日はキャンプサイトのほとんどが予約で埋まり、昼過ぎにはスノーピーク製のテントが続々と立ち並んだ。
スノーピーク広報によると、今後の予約についても「週末に関しては2〜3カ月先まで予約が順調に入っている」という。
東日本大震災後には仮設住宅を設置
愛犬も一緒に宿泊できる区画も新しく整備された。
撮影:横山耕太郎
スノーピーク陸前高田キャンプフィールドは、スノーピークとしては全国9拠点目の直営キャンプ場だ。
東北地方では2023年7月にオープンした福島県・白河高原に続き2番目だが、テントサイト数は145で、新潟県にあるスノーピーク本社併設のキャンプ場(フリーサイト数は250)に次ぐ規模という。
もともと「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」は、1999年に岩手県が開設した「陸前高田オートキャンプ場モビリア」をリニューアルしたものだ。
東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市。復興の象徴として知られる「奇跡の一本松」から、キャンプ場までは車でわずか15分ほどの距離だ。
撮影:横山耕太郎
モビリアは2011年の東日本大震災の後、仮設住宅168戸が設置されていたが、2022年に仮設住宅を撤去。
その後、岩手県が6億円を投じてキャンプ場を再整備し、2022年5月にはキャンプ場の指定管理者としてスノーピークが選ばれた。スノーピークが新キャンプ場整備に拠出した額は公開していない。
新たなキャンプ場には、スノーピーク製品を販売する東北初の直営ショップが併設されているほか、犬連れでキャンプができるドックランサイト、スノーピークが開発したモバイルハウス「住箱」などが新設された。
47都道府県にキャンプ場設置を目指す
スノーピーク地方創生コンサルティング社長で、スノーピーク専務の村瀬亮氏。
撮影:横山耕太郎
スノーピークはコロナ禍の2021年6月、全国47都道府県でキャンプ場を運営する目標を掲げ、2023年から3年間の中期経営計画では「25年までに合計1000サイトを追加する」と明記。国内のキャンプ場開拓に本腰を入れている。
高品質・高価格のキャンプ用品メーカーとして知られるスノーピークはなぜ、キャンプ場を作るのか?
「スノーピークはキャンプギアをまず作る会社ですが、ギアを買ってもらって終わりじゃない。その先に体験で繋がってもらう、その流れをちゃんと設計しないといけない。
私達にとってキャンプ場は、キャンプギアの事業と別にあるわけではなく、ストーリーとしてつながっている」
キャンプ場新設事業などを手掛ける子会社・スノーピーク地方創生コンサルティング社長で、スノーピーク専務の村瀬亮氏はそう話す。
キャンプ場でイベント開催、ファンと交流
高台に位置する「スノーピーク陸前高田キャンプフィールド」。広田湾も見渡せる。
撮影:横山耕太郎
村瀬氏が強調するのは、各キャンプ場でファン向けのイベントを開催し「スノーピークのスタッフやキャンプ仲間同士が繋がれる仕組みを作る」ことの大切さだ。
スノーピークでは、1泊2日で焚き火を囲むトークなどを楽しむイベント「スノーピークウェイ」を、全国のスノーピークのキャンプ場や提携キャンプ場で年間約20回開催している。
また自社商品の購入ポイントが多いヘビーユーザーを対象に、2泊3日のキャンプイベントなども企画している。
「イベントに参加したユーザーの購買単価は、参加しなかったユーザーに比べると大きく変わってくる」(村瀬氏)
スノーピークにとっては、新設したキャンプ場でも次々とイベントを開催し、継続的な商品購入に繋げたい狙いがある。
「これまではイベントに参加したくても、東北のユーザーは遠くてなかなか参加できなかった。陸前高田には気軽に来てもらえるはずだ」(村瀬氏)
岩手県知事も注目する「スノピの知見」
オープン初日のセレモニーには、岩手県の達増拓也知事も出席した。
撮影:横山耕太郎
スノーピークのブランド力やキャンプ場運営のノウハウは、地方にとっても魅力に映る。
陸前高田の新キャンプ場のオープンセレモニーには、岩手県の達増拓也知事も出席。達増知事は「将来に渡って持続可能な収益性の高い施設にするため、設計・施工・管理・運営を一体的に行うこととし、スノーピークの知見を活かしながら魅力ある施設にした」とあいさつし、スノーピークへの期待を隠さなかった。
日本オートキャンプ協会の『オートキャンプ白書2023』によると、キャンプ場の平均稼働率は20.7%。詳細は明かしていないが、スノーピークの既存のキャンプ場では、平均的な稼働率を上回る高い稼働率を維持しているという。
前出のスノーピーク・村瀬氏は「大自然や眺望など、その場所に何らかの魅力があれば、我々の80万人以上の会員さんの来場を促すようなキャンプ場を作れる」と自信を見せる。
スノーピークによると、スノーピークの「ポイント会員」は84万5000人(2023年6月時点)に上っている。
ただ不安要素もある。将来的に全国47都道府県にキャンプ場を作るとなれば、「スノーピークのキャンプ場」の希少性は薄れ、キャンプ場の同士で需要を食い合うことも予想される。
また競合との競争が激化する可能性もある。三菱地所は2023年9月15日、山梨県の山中湖村に約3万坪の大型キャンプ施設を同社として初めて開設するなど、大企業もキャンプ場事業に参入している。
キャンプ用品の不調で大幅な下方修正
オープン初日のキャンプ場だったが、昼過ぎには多くのテントが並んだ。
撮影:横山耕太郎
国内のキャンプ場を拡大するスノーピークだが、足元の業績を見ると減速が鮮明だ。
2023年12月期の業績予想では、連結純利益の予想を28億4900万円から6億1500万円に下方修正。22億円を超える大幅な修正となった。下方修正の理由についてスノーピークは「アウトドア需要を見誤った」と説明する。
売上高の7割程度を占める「アウトドア事業」が減速するなかで、「アパレル事業」に加えて、キャンプ場運営を含めた「その他の事業」は売り上げを伸ばしている。
期待のかかるキャンプ場事業は、果たして“スノーピーク復活”への突破口になれるのか? 真価が問われる状況が続いている。
(取材協力:スノーピーク)