「UBSグローバル不動産バブル指数」2023年版でトップ入りした東京。
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世界中の住宅市場が金利上昇で大きなダメージを被っている。
米連邦準備制度理事会(FRB)に欧州中央銀行(ECB)、インド準備銀行(RBI)、イングランド銀行……。主要国・地域の中央銀行がこの1〜2年、インフレ鎮圧を最優先して政策金利の引き上げ(利上げ)に取り組んできた。
長期にわたる低金利政策の恩恵を受けてきた住宅ローンも利上げの影響で金利が上昇し、一部の大都市圏では住宅アフォーダビリティ(融資を利用して住宅を購入できる可能性)が劇的に低下したため、住宅価格の下落が進んでいる。
スイス金融大手UBSグローバル不動産部門のクラウディオ・サプテッリ最高投資責任者(CIO)と国内不動産責任者のマティアス・ホルツヘイ氏は、9月20日付の顧客向けメールで次のように指摘した。
「過去1年、インフレ調整後の全都市平均住宅価格は、2008年の世界金融危機以降で最も急激な下落を記録しています」
サプテッリ氏とホルツヘイ氏によれば、世界的な利上げラッシュは終わりに近づいているように見えるものの、世界の複数の大都市では引き続き、住宅価格の調整(下落)リスクが高止まりを続けているという。
両氏は同顧客向けメールで、同社が毎年発表している「UBSグローバル不動産バブル指数」の最新版を紹介している。
同指数は、世界主要都市の住宅市場について、
(1)価格年収倍率(2)価格賃料倍率(3)当該都市の住宅価格に対する国全体の住宅価格の比率(4)建設額のGDP(国内総生産)比の変化(5)住宅ローン額のGDP比の変化、という5つの補助指数の加重平均を算出したもの。
世界主要都市の中でバブル指数が最も高かったのは、チューリッヒ(スイス)と東京(日本)だった。
スイス最大の都市、チューリヒ。「UBSグローバル不動産バブル指数」2023年版ではトップランキング。
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同指数の標準偏差から少なくとも1.5標準偏差(チューリッヒは1.71、東京は1.65)以上離れており、「バブルのリスク」が高いと評価された。両都市とも、5つの補助指数のうち少なくとも3つが過去の標準値から大きく逸脱していた。
例えば、チューリッヒの各補助指数の推移は以下のようになっている【図表1】。
【図表1】チューリッヒの「UBSグローバル不動産バブル指数」補助指数スコア(標準化)の推移。中央の太線が標準偏差ゼロ、下ほど割安、上ほど割高で、スコア1.5を上回ると「バブルのリスク」が高いと評価される。
UBS
チューリヒと東京の他に15都市が、指数スコアで0.5~1.5の範囲に分布し「割高」領域と評価された。以下に「UBSグローバル不動産バブル指数」総合指数のスコアが大きい順に並べる。
- チューリヒ(1.71)スイス
- 東京(1.65)日本
- マイアミ(1.38)アメリカ
- ミュンヘン(1.35)ドイツ
- フランクフルト(1.27)ドイツ
- 香港(1.24)中国
- トロント(1.21)カナダ
- ジュネーブ(1.13)スイス
- ロサンゼルス(1.03)アメリカ
- ロンドン(0.98)イギリス
- テルアビブ(0.93)イスラエル
- バンクーバー(0.81)カナダ
- アムステルダム(0.80)オランダ
- ストックホルム(0.74)スウェーデン
- パリ(0.73)フランス
- シドニー(0.67)オーストラリア
2000年代半ばのサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)危機を引き起こした住宅バブルの水準と比較できるよう、以下に当時のアメリカの主要都市の指数スコアの推移も紹介しておこう。
当時、マイアミとロサンゼルスの指数スコアは1.5を超えていた。現在の両都市はその水準に近づきつつあるものの、まだ「バブルのリスク」領域には達していない【図表2】。
【図表2】アメリカ主要都市の「UBSグローバル不動産バブル指数」総合指数スコアの推移。ロサンゼルス・サンフランシスコ(左)およびニューヨーク・ボストン・マイアミ(右)。
UBS
「割高」もしくは「バブルのリスク」領域と評価された上記17都市には、いずれも価格急落リスクがあると考えられる。
ただし、サプテッリ氏とホルツヘイ氏によれば、テルアビブ、ミュンヘン、香港、チューリッヒ、ジュネーブ、フランクフルトなどには、足元で他の都市より高いリスクが存在するという。
価格賃料倍率(マンションの年間賃料に対する、同じ広さのマンションの価格の倍率)が上昇し過ぎて、投資家にとって(物件を購入して賃貸に出す)魅力が低下しているというのがその理由だ。
下の【図表3】は、調査対象の主要都市でマンションを購入し、賃貸に出した場合、資金回収までに必要な年数(すなわち価格賃料倍率)を示したものだ。
【図表3】マンションを購入し、賃貸に出した場合、資金回収までに必要な年数。東京は30〜35年程度、チューリッヒは40年前後となっており、投資家を躊躇(ちゅうちょ)させる水準と言える。
UBS
「こうした価格賃料倍率の高さは、これまでの低金利によって過度に住宅価格が上昇したことに起因しています。それらの都市の住宅価格はいずれも、金利が上昇して高止まりが続いた場合、急落する可能性があります」
ただし、ミュンヘンやテルアビブ、チューリッヒのように、賃料の値上げを規制する法律や条例が存在する国もある。そうした国では価格賃料倍率はどうしても高くなりがちだ。
「投資家は、極めて低い賃貸利回りも最終的にはキャピタルゲイン(売却益)を得ることで報われると期待して資金を投じています。したがって、そうした期待が実現せず後退した場合、価格賃料倍率が高い市場の住宅所有者は大きなキャピタルロスを被る可能性があります」
(編集部注:本記事の翻訳に際しては、専門用語の正確性を期するため、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントが発表している過去のレポートを参照、可能な限りその記載に準じた表現を使用しています)