完全無人のスマート本屋が溜池山王駅にオープン。取次大手の日販、書店運営のニューノーマル目指す

店舗外観

「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」。店外からも書籍のラインナップや入店客の様子が分かるよう、透明なガラス張りとした。

撮影:土屋咲花

近い将来、本屋は無人営業が当たり前になるかもしれないー。

東京メトロ溜池山王駅の構内に9月26日、無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」がオープンした。

運営するのは、本の流通を担う出版取次大手の日本出版販売(日販)だ。

全国の書店数は、この20年でおよそ半減した。こうした中、無人書店は人件費の高騰や後継者不足といった書店経営の課題を解決する持続可能なモデルとしての確立を目指す。

まずは「利益の出る」という月商500万円程度の売り上げを目標に掲げる。

「駅ナカの採算性合わない問題」に挑戦

books

ライト層をターゲットに、書籍は「雑誌」「ビジネス書」といったカテゴリで分けずに陳列した。

撮影:土屋咲花

「(駅前は)人通りが多くて、ビジネスマンや学生など本屋に対するニーズを持っているであろう生活者が多いエリア。にも関わらず、賃料や人件費が影響して閉店となってしまう例が多数見受けられます。

無人書店という形でコスト削減を実現し、 普段あまり書店に来ない人も、駅を利用したついでにふらっと立ち寄れる書店にしたい」

日販の担当者は、駅ナカに出店する無人書店の狙いをこう説明した。

「ほんたす ためいけ」は、51.32平方メートルのこぢんまりとした敷地に、本や漫画、雑誌が約300種類・4500冊、文具は約50種類を販売する。

特徴は完全無人であること。平日午前7時から午後10時、土日祝日午前10時から午後8時の営業時間中、書店員は店内にいない。本の入れ替えやメンテナンスは毎日行うが、開店前の時間帯に実施する。

日販マーケティング推進部の南光太郎さんは、こう話す。

「書店員が奪われている大きな時間は、お客様のお問い合わせに対しての対応や、緊急事態の対応です。その時間をなくすことによって、本来書店員が得意な商品の仕入れ、バイヤーとしてのノウハウを生かす時間に費やしてもらおうと思っています」

支払いはキャッシュレス、レジ袋はなし

会員証

入店するにはLINEで会員証を発行する必要がある。名前は本名でなく、ニックネームでも良いという。

撮影:土屋咲花

無人書店の仕組みを見ていこう。

利用するにはまず、店舗の壁やほんたすのウェブサイト上にあるQRコードから会員登録をして会員証を発行する。入退店時は、出入り口に設置してある端末に会員証をかざすとドアが開く。これにより、万引き対策などのセキュリティ管理を実現するという。

支払いはキャッシュレス決済のみ。商品のバーコードを読み取り、ディスプレイから決済方法を選んで支払う。ブックカバーやレジ袋などは設置しておらず、オペレーションを最小限に留めた。

店内には四つの監視カメラを設置し、日販本社からリアルタイムで監視する。カメラのうち一つは客層も判別できるため、人流や客層を判別して店舗づくりに生かすという。

店内で困ったことがあった場合は、レジに設置されているQRコードからスマートフォンを通じて担当者とビデオ通話ができる。また、火災などの緊急時には店内に3カ所に設置した「SOSボタン」から警備会社に知らせる。

日販によると、ターゲットは溜池山王駅を利用するビジネスパーソンという。通行量調査の結果、20代から30代の男女の利用を見込む。

「ビジネス書や話題になっている書籍を中心に置いています。コンセプトとして、ライトユーザーでも気軽に本と出会えるというお店作りを意識しています」(南さん)

レジ

セルフレジは二つ。バーコードを読み込んで、電子マネーなどのキャッシュレス方法で決済する。

撮影:土屋咲花

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発売したばかりの書籍が並ぶコーナー。指名買いを想定し、レジに近い場所に設けた。

撮影:土屋咲花

進む本屋の無人化

棚

書棚は防犯面から通常の書店と比較して低めにしている。

撮影:土屋咲花

全国の書店は減少している。特に都心の駅ナカ・駅前は賃料も高く、日販の調査では、2016~2021年の全国駅立地の書店は出店が約60店に対し、退店は約120店に上った。

書店の無人化は各地で進む。取次大手トーハングループの山下書店世田谷店では、夜間のみ無人営業し、売り上げを10%伸ばした。好調を受けて、11月には2店舗目の展開も決まっている。古書店などでも、無人対応の試みが進む。

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