過去10年間、目覚ましい成果を上げてきた国際的なファンドマネージャーは、中国以外の株式に強気だ。
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大手ファンドマネージャーのマーク・コスタは、グローバル市場の中でもとりわけ厳しいと言われる海外の中小型株バリューカテゴリーの運用を担当している。
コスタは、アメリカ国外の取引所に上場している7500社以上の中小企業を調査、投資してきた。必ずしも巨額のリターンを得たわけではないが、相対的に見れば、彼のファンドは目覚ましい成功を収めている。過去10年間で、ブランデス・インターナショナル・スモールキャップ・バリュー・ファンド(BISAX:Brandes International Small Cap Value Fund)は、その間の年間リターンが4.8%と控えめであるにもかかわらず、同業他社の91%を上回る運用実績を出している。
コスタがファンドを共同運用してきた11年間で、2023年は最高の結果を出せそうだ。モーニングスター(Morningstar)によれば、コスタが担当するファンドの外国籍小型株バリュー・ファンドの年初来の運用成績は25.3%で同カテゴリーのインデックス(同6%)を上回り、カテゴリー内の上位3%に入っている。
2023年初頭、コスタは自身の投資プロセスについて説明している。それによると、強いバランスシート、安定したキャッシュフロー、銀行との取引が可能な水準の収益と利益の伸びといった項目について正当に評価された銘柄を見つけることで、他社より高いリターンを挙げてきたという。コスタいわく、優良企業こそが巨額のリスク調整後リターンをもたらす鍵なのだ。
2023年9月中旬にInsiderが取材した際には、中国経済の低迷が再燃するなど、世界市場で頭の痛い問題が次々と出てきているにもかかわらず、なぜコスタが機会を見出せているのかと尋ねた。世界的な景気後退への懸念が広がる状況にコスタはいっそう奮起し、投資へと向かうことになった。
「大きな問題の影響を受けていないか、あるいは多少の影響はあるかもしれないが、多くのリスクがすでに価格に織り込み済みの企業を買うことは可能です。われわれに最高の結果をもたらすのは、市場がトップダウン型のマクロ経済の問題に懸念を抱いた時、それを回避し、利用することができた時なのです」
中国の成長はもはや世界の羨望の的ではない
世界第2位の経済大国である中国は2023年夏、GDPと小売の売上成長率が予想を大きく下回り、若者の失業率が急上昇したことから厳しい批判にさらされた。加えて、中国では不動産デベロッパーが巨額の債務返済に苦しんでおり、不動産危機の深刻化にも直面している。
こうした懸念から、中国経済のGDPは、アメリカをはじめとする成熟した経済に比べればまだ高い水準を保ってはいるものの、2024年以降は期待外れに終わるだろう、とストラテジストたちは警告している。
中国の経済指標の低迷ぶりに多くの市場関係者は驚いたが、コスタにとっては驚きではなかった。
「われわれは何年も前から中国について懸念していましたから、市場がようやく追いついてきたのだと思います。そのため、中国そのものだけでなく、中国で起こっている大規模な固定資産投資の伸びに影響を受ける企業や産業へのエクスポージャーを相当抑えてきました」
コスタは、中国が過去30年間享受してきた成長をいつまでも維持することは不可能だと考えている。特に、中国が現在直面している多くの政治的・地政学的不確実性(その多くは自業自得だ)を考慮すればなおさらだ。
「中国が成し遂げてきたことはとても素晴らしいことですが、発展というのは直線を描くように伸びていくわけではありません。中国の景気低迷が深刻化するとは予想していませんでしたが、バランスが崩れたときには、ある種の調整が入ることも分かっていました」
そして、コスタはこう続けた。
「われわれの立ち位置は何かを予測することではなく、むしろ、資本を投じるのにもっといい場所があるはずだという視点を持つことです」
今すべき海外市場での9つの投資
コスタは中国を避けているが、それ以外の小規模市場のいくつかの銘柄や業種に対しては強気だ。
「市場にはかなり多くの上昇機運があります。中国の問題であれ、金利やそれが消費者に与える影響であれ、人々が抱いているマクロ的な懸念がいろいろあるのは理解しています。われわれはそうしたリスクをしっかり認識しながらも、市場をよく見て、慎重に舵取りをしながら進んでいます。ただ、人々が懸念を抱いている時にこそ、多くのチャンスが生まれるものだと思っています」
コスタは、香港を含む中国関連銘柄の中には不当に低く評価されているものがあると考えている。中国が苦境に陥った時に受ける影響について、誤解や過剰反応があるからだ。
例えば、中国へのエクスポージャーが少なく、インドネシアで巨大な存在感を示す持株会社のファースト・パシフィック(First Pacific:FPAFF)や、コスト優位性を持ち、中国国外で多額の収益を上げる靴製造大手のユエユエン(Yue Yuen:YUEIY)などだ。
また、すべての中国企業がハイリスクなわけではない。決済処理機器の大手、パックス・グローバル(PAX Global:PXGYF)は100カ国以上で事業を展開しているため、中国に縛られることはない。同社は素晴らしいバランスシートを持ち、収益を急拡大させているにもかかわらず、株価収益率(PER)が5.2倍とバリュー株のように扱われているとコスタは言う。
「ファンダメンタルズを深く掘り下げることができれば、事業を理解し、リスクを取らずにリスク分の対価を得られるものを買うことができます。ヨーロッパをはじめ、世界にはこのような例がたくさんあります」
コスタのファンドの4分の3近くは日本やイギリスを含む先進国市場の株式に、残りは新興市場に投資されている。
日本企業は2023年に復活を遂げ、配当と自社株買いを増やすなど株主に還元したことで、多くのファンドマネージャーから急速に支持を集めている。コスタは、自身のファンドのポートフォリオの約15%を日本企業に割り当てているという。
コスタは日本株についての見方はこうだ。
「お気に入りの企業をいくつか見つけたので、これまで好調だった銘柄から、より割安な価格で取引されている銘柄へ資金をシフトさせています。本質的価値、つまり私たちの理論に合致する銘柄を売却し、その資金を、私たちが求めている資本増価をもたらす割安な銘柄に振り向けるのが私たち流のやり方です」
日本に関しては、コスタは地方銀行とヘルスケア産業に最高の投資機会を見出している。日本を拠点とする銀行は、実際の簿価に基づいてかなり割安になっているバリュープレイ(買う価値があるもの)だという。
金利が上昇すれば収益性が改善し、金融機関は大きく利益を挙げられる、とコスタは言う。一方、日本のヘルスケア企業は、長期的な人口動態を考慮した投資対象だ。日本は世界でも有数の高齢化社会であり、そのサービスは何年にもわたり需要があるからだ。
ブレグジット前後に政治的混乱でダメージを受けたイギリスの企業も割安感がある、とコスタは見る。コロナのパンデミックから首相の交代、コントロール不能のインフレに至るまで、ここ数年の英国株は一様ではなかった。
イギリスを拠点とする銘柄で目立つのは、イギリスの航空宇宙・防衛企業ロールス・ロイス(RYCEY)とアイルランドの飲料メーカーC&Cグループ(CCGPY)だ、とコスタは言う。
ロールス・ロイスはコスタの長年のお気に入りであり、彼のファンドでは現在2番目に大きなポジションを占める銘柄である。注目の理由は、同社が大型民間航空機業界で圧倒的な地位を占めており、規模も大きく、投下資本に対する利益率も高いからだという。
C&Cグループは、コスタのファンドでは6番目に大きな組み入れ銘柄だ。コスタによれば、同社はバランスシートが健全、かつイギリスのサイダーおよびビール市場において圧倒的なマーケットシェアを占めていることから、この銘柄は正当に評価されていると語った。