都内1000カ所に無料で出力150kWを中心とした急速充電器を設置していく。
撮影:三ツ村崇志
電気自動車(EV)の充電器などを展開するテラモーターズが9月26日、出力150kWをベースとした急速充電器を東京都内1000カ所に限定してデベロッパーの負担なしで導入すると発表した。
EV後進国と言われる日本では、長らく充電器の不足がEV普及の障壁になっていると指摘されていた。中でも短時間で充電を実現できる大出力の急速充電器の拡充は、喫緊の課題だ。
急速充電「圧倒的に足りない」日本
テラモーターズ徳重徹会長。
撮影:三ツ村崇志
テラモーターズの徳重徹会長は、
「日本はEVの普及が遅い国だと言われています。我々の今回のプランが実現すれば、世界に対しても最先端のソリューションをやってきたな、あとは自動車メーカーに車を出してもらうだけ……という風になると思っています」
と、今回のサービスについて狙いを語る。
通常、EVの充電器を不動産に設置するには、充電器の設置費用(1500〜2500万円)や保守費用(数十万円)に加え、実際に充電に利用された場合の電気代も年間で100万円程度かかると試算される。今回、テラモーターズは都内1000カ所限定でこの費用を負担する。
設置する充電器については、出力150kWを基本に、デベロッパーの希望があれば90kWにも対応するとしている。
1000カ所への導入に際して必要な資金は概算でも3桁億円を上回る。その一部には政府からの補助金を活用する方針ではあるものの、テラモーターズも一定程度負担することになる。
EV保有者は、テラモーターズが提供するアプリを介して充電が可能。料金形態は充電した電力量の分だけ課金が必要になる「従量制」だ(料金の詳細については未確定)。充電器の設置に伴う電気の引き込みなどはテラモーターズが担い、ユーザーからの料金もテラモーターズが受け取ることになる。
デベロッパーからすると充電設備を設置するだけでメリットが薄いようにも思えるが、日本の現状を考えると、EV利用者から「急速充電ができる施設」と認識されることが来店機会の創出などにつながるという。
日本の充電インフラ、3つの課題
車種ごとの充電能力の比較。高出力の充電に耐えられるEVも増えてきている。
撮影:三ツ村崇志
世界的なEV需要の高まりに伴い、日本でも充電インフラの重要性は高まり続けている。ただ、徳重会長は日本の充電インフラに大きく3つの課題が存在していると指摘する。
1つは充電スピードの問題だ。
日本では、EVの「普通充電」の設備こそ増えてきたものの、出力は3kWや6kW程度。ガソリンスタンドで給油するような短時間でEVを充電することはできなかった。
こういった充電設備に対する「不安」が、日本におけるEVの普及を妨げる要因になっていると、徳重会長は指摘する。150kWの急速充電設備であれば、約6分の充電で100キロメートル程度の距離の走行が可能だ。都内1000カ所という今回テラモーターズが掲げた目標は、都内に存在するガソリンスタンドの数を上回る。
「ガソリンスタンドよりも多く、ガソリンスタンドと同じぐらいの感覚で充電して走れるようになれば、(充電環境に対する不安は)相当改善するのではないかと思っています」(徳重会長)
9月25日には日産自動車が2030年までに欧州で販売する全新車を100%EVにすることを発表するなど、今後もEVの流れが加速していくことはほぼ間違いない。技術開発によって電池が大型化し、高出力の充電にも耐えられるようになってきていることからも、今後高出力の急速充電器の施設拡充は必須だ。
また、2つ目の問題として、既存の充電方式が「時間課金制」であるという点も充電設備の普及を妨げる要因になっていると徳重会長は指摘する。
ガソリンスタンドでガソリンを入れる場合、普通は給油したガソリンの量によって料金が決まる。一方、日本のEVの充電インフラでは「充電時間」で料金を支払う方式が主流になっている。
これでは、デベロッパーが急速充電の設備を導入するメリットがない。だからこそ今回、テラモーターズが導入するサービスでは、従量課金制を導入し使用者が充電した分だけ料金を支払うガソリンと同様の仕組みを取り入れた。
加えて徳重会長が指摘する3つ目の課題が、都心部を中心に多い機械式駐車場で導入が進みにくいという課題だ。実は、マンションやビルの中にある機械式駐車場には、EVの充電器を導入することが技術的に難しい。
マンションなどの近くに急速充電ができるスポットが誕生していけば、都心部でもよりEVを手に取りやすい環境整備が進んでいくことが期待できるというわけだ。
テラモーターズとしては今後、今回発表した急速充電サービスをガソリンスタンド、コンビニ、商業施設などへ導入を進めていくとしている。