ソフトバンクはPayPayの還元を強化した新料金プラン「ペイトク」を発表した。
撮影:小林優多郎
ソフトバンクは9月27日、新料金プラン「ペイトク」を発表した。10月3日から受付を開始する。
ペイトクは月間の利用データ容量とスマホ決済「PayPay」の還元率を組み合わせたプランで、より高額で大容量のプランを選択すると、PayPayの還元が多く受けられる仕組みになっている。
ソフトバンクとしてはユーザーあたりの売り上げ(ARPU)とPayPayの決済取扱高(GMV)を向上させる狙いがある。
基本料金は値上げ、無制限プランには速度制限も
ペイトクの料金体系。PayPayカード割やおうち割 光セットなどの各種割引も対象となる。
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ペイトクは3種類の月間利用データ容量が用意されており、それぞれの各種割引を適用する前の基本料金は以下のようになる。
割引適用前の基本料金(いずれも税込)
- ペイトク30……月間30GB、月額7425円
- ペイトク50……月間50GB、月額8525円
- ペイトク無制限……データ無制限(一部制限あり)、月額9625円
30GBと50GBのプランはペイトクで新設された容量帯だが、ソフトバンクではすでに無制限プランとして「メリハリ無制限」を提供している。メリハリ無制限の基本料金は7238円(税込)となるため、基本料金だけ見れば、無制限プランは月間2387円の値上げになる。
なお、ペイトク無制限は「無制限」と表記しているものの、一部制限がある。これはネットワークの公平性の観点から、月間200GBを超えると通信速度が最大4.5Mbpsに下がるというものだ。
今回の「無制限に対する制限」は、ペイトク無制限以外にも、「メリハリ無制限」の後継にあたる「メリハリ無制限+」にも適用される。メリハリ無制限は10月2日を持って受付終了となるが、無制限+への自動移行は実施しない。
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この通信速度について、ソフトバンク専務執行役員の寺尾洋幸氏は「動画ストリーミングやSNSは問題なく使える速度」と表現。現在のソフトバンクのネットワークにおいては0.3%のユーザーが月間200GBを利用しているとし「影響範囲は限定的」(寺尾氏)とソフトバンクは考えている。
なお、ペイトク30、同50はそれぞれの容量を使い切ると、最大300Kbpsまで下がる。300Kbpsまで下がるとSNSの画像を表示するのも困難になるため、そうしたストレスを日々感じたくない人は無制限を選ぶことになる。
PayPayヘビーユーザーであればポイント還元でお得
ペイトクの肝となるのはPayPay決済時の還元が増える「ペイトク特典」だ。
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基本料金だけ見ると、割高になるが、ここに追加されるのが「ペイトク特典」といういわゆる「ポイント還元施策」だ。
PayPayは通常時最大0.5%(200円につき1ポイント)、クレジット(PayPayカード)利用時は最大1%(200円につき2ポイント)の還元を受けられるが、ペイトクの各プランに加入すると以下のように上乗せして還元が得られる。
割引適用前の基本料金(いずれも税込)と還元率・還元上限
- ペイトク30……月額7425円、+1%(最大1000ポイント)
- ペイトク50……月額8525円、+3%(最大2500ポイント)
- ペイトク無制限……月額9625円、+5%(最大4000ポイント)
このポイント還元を「割引」と考えると、ペイトク無制限であれば実質月額5625円まで下がるとも言え、既存プランに比べても割安になる。ただし、還元を受け取るにはPayPayを使う必要がある。
還元上限満額を受けとるには単純計算で、ペイトク30であれば月間10万円、同50であれば月間8万3334円、同無制限であれば月間8万円の対象のPayPay決済が必要だ (ペイトク特典の還元額はPayPayの通常特典と違い、小数点切り捨ての計算で算出される)。
ペイトク無制限利用時の利用・還元イメージ。最大還元を狙うなら通常時月間8万円は使う必要がある。
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ちなみに、対象のPayPay決済とは、基本的にQRなどの2次元コードを使う「実店舗」、ログインなどでも利用できる「ネットサービス」の実店舗での残高払い、クレジット払い(旧:あと払い)が対象となる。
税金や公共料金などを支払える「請求書払い」や、ポイント運用などの入金、鉄道、病院、薬局などの加盟店の支払いはペイトク特典の対象外となるので注意したい。
寺尾氏によるとPayPayの現在の平均月間利用額は3万5000円で、上限まで受け取るにはかなり意識してPayPayで買い物をする必要が出てくる。
そのためソフトバンクは、ペイトクの提供開始に合わせて「ペイしてトクトクキャンペーン」を期間限定で実施する。これは最短2024年2月20日までのPayPay決済を対象に還元上限はそのまま、還元率をそれぞれ3倍にするものだ。
キャンペーン期間中は還元率が3倍になる。
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ソフトバンクとしてはペイトクプランに変更してもらい、キャンペーン期間のお得な間に街中やオンラインのPayPay加盟店を探してもらい、さまざまなシーンでPayPayが利用できることを体験してもらいたい狙いがある。
一定の月間利用額が前提となるペイトクプランが誰にとってメリットが高いかと考えると、「日常でPayPayを使いこなしている人」ということになる。
ちなみに、ソフトバンクのプランに関係なく、PayPayは「PayPayステップ」という還元率アップ施策をしている。これは「200円以上の決済が月30回以上」かつ「月間決済額が10万円以上」であれば、翌月の還元率が+0.5%されるというもの。
PayPayステップの回数と決済額の判定はクレジットカード「PayPayカード」の利用分も含むため単純比較はできないが、すでに2次元コードやオンライン決済でPayPayステップをクリアーしている人であれば、比較的簡単に最大還元を狙えるかもしれない。
PayPayとの狙いは明確だが、10月にはLINEヤフーが控えている
ソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏。
撮影:小林優多郎
寺尾氏は27日に開催した記者向け説明会で、すでに実施しているクーポンなどの施策で「ソフトバンク内のPayPayユーザーは非常に多い」と述べている。それではなぜわざわざソフトバンクブランドでPayPayとの連携プランを始めるのか。
寺尾氏は新プラン提供について「既存の(ソフトバンク)ユーザーについてはPayPayの利用をもっと上げたい」「5800万人というPayPayのユーザー基盤から我々(ソフトバンク)に少しでも振り向いてもらいたい」と、PayPayにとっては既存ユーザーの活性化、ソフトバンクにとっては他社からの乗り換えの双方のメリットを狙っていると話す。
なお、グループ内シナジーという意味では、10月1日にはソフトバンク傘下のZホールディングスとLINE、ヤフーの3社が「LINEヤフー」に統合されるという転機が待ち構えている。
今回の新プラン「ペイトク」はこれからの年末年始の帰省や卒業、新生活などの携帯電話業界にとっての商戦期に合わせたものになるが、寺尾氏はLINEヤフーとの取り組みも「しっかりやっていかないといけない」と語っている。
LINEヤフーとの取り組みの第1弾としては、11月29日から始まる「LYPプレミアム」をソフトバンク、ワイモバイルの料金プランに追加料金なしで利用できることを発表している。
ペイトクを含めソフトバンクとワイモバイルの利用者は「LYPプレミアム」が追加料金なしで使える。
撮影:小林優多郎
現在ソフトバンクやワイモバイルの各プランでは、ヤフーでの買い物時のポイント還元、ヤフオク!のシステム利用料など優遇される「Yahoo!プレミアム」(月額508円)が無料で付帯している。
LYPプレミアムはYahoo!プレミアムの後継のサービスにあたり、ヤフー向けの特典に合わせてスタンプ使い放題やアルバム機能の拡充などLINE向けの特典が追加されている会員制度だ。
ただ、LYPプレミアムを見てもLINEとPayPay、ソフトバンクとLINEのシナジーはまだ薄いように思える。
ヤフーでもらえるポイントとしては一部を除きすでにPayPayポイントになっているため、寺尾氏の言う「サービスとサービスをポイントでつなげる」仕組みになっている。
ソフトバンクは自身と傘下のPayPay、LINE、ヤフーの3ブランドでシナジーを生み出そうとしている。
撮影:小林優多郎
一方、LINE特典は目玉が既存のスタンプの使い放題プランを含めたもので、かつLYPプレミアムの利用には今後LINEヤフー社が開始する「LINE アカウント」と「Yahoo! JAPAN ID」の連携が必須となっている。
寺尾氏は「LINE MUSICなどで少しずつ進めている」と話しているが、「LINEはMUSICやスタンプぐらいで、有料サービスをあまり持っていない」とシナジーの生み出し方に苦労していることを語っている。
ソフトバンクは会員特典以外でも、LINE公式アカウントなどといった広告システムの活用も進めていく方針。
ソフトバンクはユーザーに対して、ソフトバンク、PayPay、ヤフー、LINE。この4つのブランドをどのように組み合わせて利便性やお得さを追求できるか。その内容と実現スピードが昨今盛り上がっている経済圏戦争に勝ち抜くための鍵になっているだろう。