米ビックテックの勢力図が、少しずつながらも、着実に変化している。
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- 米ビックテックの代名詞といえば、少し前ならGAFA(ガーファ)だった。それが、いまはMATANA(マタナ)へ移ったと言われている。
- MATANAが市場の時価総額に占める比率は非常に大きく、すでに株式市場を大きく動かすような存在だ。
- MATANA企業の特徴とGAFAからの変化、そして投資家がMATANAに対して取るべき姿勢について解説。
米ビックテックの代名詞といえば、少し前ならGAFA(ガーファ)です。それが、いまはMATANA(マタナ)へ移ったと言われています。
それは、つまり米ビックテックの勢力図が、少しずつながらも、着実に変化していることを意味します。その原動力は、やはりAI(人工知能)でした。
MATANAとは何か? GAFAからMATANAへと移った経緯とは? 米ビックテックの移ろいについて、 Q&A形式で解説します。
Q. 最近よく聞く、MATANAとは何ですか?
MATANAとは、マイクロソフト(Microsoft)、アマゾン(Amazon)、テスラ(Tesla)、アルファベット(Alphabet:グーグルの親会社)、エヌビディア(NVIDIA)、アップル(Apple)の頭文字をとった造語。2023年9月現在、アメリカのみならず世界を牽引するビッグテック企業のことを表します。テック企業を調査するコンステレーション・リサーチ(Constellation Research)社の創業者、レイ・ワン氏が初めて提唱しました。
マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグル)、アップルについては、もはや説明は不要でしょう。ちなみに、テスラは電気自動車(EV)の世界的企業であり、最近では日本でもテスラ車を見かけるようになりました。エヌビディアは一般消費者の間で認知度は高くありませんが、PCが綺麗な映像を表現するために必要とされるGPU(画像処理装置)のメーカーとして知られています。
2010年代後半は、GAFAと表現されていた米ビックテック。最近では、それからMATANAへと移行したと言われています。
Q. そもそもGAFAとは何ですか? 同様にFANGなどもよく聞きます。
GAFAとはグーグル、アップル、フェイスブック(Facebook:現メタ[Meta])、アマゾンの4社を表したもの。ビッグテックを表す単語として2012年頃から使われるようになりました。いずれも2010年代に著しく成長した企業ですが、古くから続くマイクロソフトを加えて、GAFAM(ガーファム)と呼ぶ場合もあります。
似たような造語で、巨大ネット企業を表すFANG(ファング)もあり、こちらはフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス(Netflix)、グーグルから構成されています。FANGにアップルを追加し、FAANG(ファング)などと呼ばれることも。
GAFA、FANGに続く、米ビックテックの最新ラインナップがMATANAということになります。
Q. フェイスブック、ネットフリックスはなぜ、MATANAから外されてしまったのですか?
MATANAからフェイスブックが外れたのは、その成長性が低いと思われたからです。端的に言えば、同社の主幹ビジネスはメディア事業。フェイスブックやインスタグラムに掲載する広告が主な収益源です。しかし、2021年から成長は減速しており、Z世代や若年層のユーザーも掴めていません。
最高責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、その打開策として経営の主軸をメタバース事業に移行する方針を掲げ、社名もフェイスブックからメタに変更しました。しかしコロナ禍で謳われていたようなメタバースの普及は消費者の間で本格化せず、同社の業績も悪化しています。そのため、将来性が危ぶまれ、時代を牽引するビッグテックとして、ふさわしくないと判断されたのでしょう。
ネットフリックスも動画配信大手として注目されていましたが、サービスが単調なこともあり、利用者数の増加ペースが鈍化しています。そのため、近年ではあまり注目されなくなった印象があります。
Q. テスラって、そんなにすごい企業なのですか?
確かに現状はガソリン車が主流であり、まだEVを見かけることは少ないかもしれません。しかしテスラは高級EV車ブランドとして知られており、特に欧米や中国の富裕層がテスラ車を購入しています。EVにおけるテスラの世界シェアは、中国BYDに続き、2位の規模です。
国内ではステイタスとしてメルセデスベンツやBMW、レクサスなどが選ばれていましたが、近年ではテスラのブランド力も高まっています。そして2030年代までに新車販売に対するEVの比率は50%を超えると予想されており、テスラは長期でも成長を期待できる企業です。
とはいえEVだけであれば、ビッグテック企業として注目されなかったかもしれません。テスラがテック企業として認識されているのは、自動運転技術の開発でも先手を打っているためです。
YouTubeでも実証動画が多数公開されていますが、仮想空間上でも開発に向け、膨大な数の試験を行っています。最近では自動運転車の訓練を目的としたAIスパコン「Dojo(ドージョー)」が注目され、株価が大きく伸びました。
Q. エヌビディアといえばゲームPC用のGPUとして知られています。なぜ近年、注目されているのでしょうか?
GPUは、もともとコンピュータの「画像処理」を担う演算処理装置として開発されました。PCの演算装置としてはCPUが一般的ですが、ここでCPUとGPUの違いをごく簡単に説明しておきましょう。CPUが得意とするのは少数のコアで高パフォーマンスの計算をすること、GPUが得意とするのは小さな計算を”並列的”に計算することです。そして、1993年に設立されたエヌビディアは、GPUのトップ企業として認識されてきました。
近年ではAIの開発が盛んですが、AIは膨大な数の並列計算を行う必要があります。そこで並列計算を得意とするGPUが活用されるようになり、エヌビディアも同時に注目されるようになったのです。
AIの開発現場では現在、エヌビディアのGPUが引っ張りだこの状態。ちなみに2019年末ごろに60ドル(約8900円)を下回っていたエヌビディアの株価はコロナ禍で著しく伸び、2023年9月現在で400ドル(約5万9000円)台を推移しています。
Q. やはりAI事業がMATANA企業の要になっているのでしょうか?
そうかもしれません。AIに投資しているのは、テスラやエヌビディアなど新興だけではないのです。マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、アップルなどの古参も、既存事業に甘んじることなく、膨大な資金力をもとに技術開発を進めています。
少し前にChatGPTが注目されましたが、ChatGPTの開発企業であるOpenAI社に対してマイクロソフトは、2019年に10億ドル(約1490億円)を出資していました。そして2023年1月、マイクロソフトはさらに100億ドル(約1兆4900億円)もの追加投資を同社に行っています。検索エンジンである「Microsoft Bing」には、ChatGPTがすでに搭載されています。
グーグルも生成AIを開発するアンスロピック(Anthropic)に3億ドル(約448億円)以上出資。2023年3月からChatGPT同様のチャット会話型AI「Bard」を提供しています。
AIに関しては、マイクロソフト、グーグルが抜きん出ていますが、アップル、アマゾンもそれに追随しようと、新たなAI事業に着手。最終的にどこが覇権を握るかは、まだまだ判断がつきにくいところでしょう。
Q. MATANAに投資すべきでしょうか?
どんなに大きなシェアや先進的な技術を誇っていた企業でも廃れてしまうことはあります。特に技術革新のスピードが早い現代では、企業の将来を予想するのは不可能に近いでしょう。可能性は低いとはいえ、新興国から世界的ビッグテックが現れることも否定できません。
とはいえMATANAが市場の時価総額に占める比率は非常に大きく、すでに株式市場を大きく動かすような存在となっています。アメリカは先進国で珍しく人口増加が期待される国でもあり、国内の需要も十分です。米ビッグテックの流れに乗りたいのであれば個別株を直接購入するか、MATANA比率の高い投資信託を選ぶと良いでしょう。
Q. MATANAの株を買うにはどうすればいいですか?
投資未経験の方は証券会社の口座を開設する必要があります。すでに国内株などに投資している方は、取引している証券会社のサイトから米国株取引を選びましょう。MATANAの個別株を購入する場合、通常は(1)円から米ドルへの両替、(2)MATANA株の選択という流れになるかと思います。
投資信託の場合、残念ながら「MATANAファンド」のような商品はありません。ただし、FANGに特化した「iFreeNEXT FANG+インデックス」などのファンドには構成銘柄としてMATANAがすでに含まれています。同ファンドは大和アセットマネジメントが運用する商品で、国内の証券会社から購入することが可能です。
そして実は、S&P500の時価総額上位はMATANAで構成されています。リスク分散という観点からS&P500連動型のインデックスファンドを選ぶのも良いかと思います。
Q. ずばり、MATANAの中で個別株を選ぶとしたらどの企業が良いですか?
安定性で選ぶとしたらマイクロソフトではないでしょうか。OSで盤石な地位を築いたWindowsに加え、売上のメインであるOfficeソフトも右に出るものはいません。また近年ではTeams(チームズ)やAzure(アジュール)などのクラウド事業も急成長を遂げています。ハード、ソフト、バックエンドなど、ここまで収益を多様化できているビックテックはほかにありません。
一方、将来性で選ぶとしたらテスラであると、筆者は考えています。ブランド力と技術力の両方を兼ね備えており、EV市場全体が伸びる中で上位を維持し続けるのではないでしょうか。
まとめ
以上、MATANA企業の特徴とGAFAからの変化、そして投資家がMATANAに対して取るべき姿勢について解説しました。すでに時価総額上位ということもあり新興企業のようなテンバガーは期待できませんが、世界を牽引するMATANAの流れには乗っておきたいものです。