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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
「ムチャぶりする経営トップ」と「負担を強いられる現場メンバー」の間に立つ中間管理職はどう立ち回ればよいのか……というお悩みです。
Aさん
トップダウン型の組織での「中間管理職」のあり方について悩んでいます。
私が勤務する会社では、社長の思いつきからいろいろな指令が下りてきて、社員が翻弄されることがあります。先日は、社長が海外イベントのスポンサーになることを決めました。その際に負担を強いられることになったのが同僚のBさんでした。
Bさんは「投資対効果が低すぎる」と強く反対しました。でも直属の上司は「そうだよね」と言いつつ、社長の意向に黙って従い、Bさんを担当にアサインしました。語学力の面でも人脈の面でもBさん以外に担当できる社員はいなかったためです。
Bさんは引き受けざるを得ず、任務を全うしましたが、結果は予想通りの大失敗でした。しかし上司は振り返りミーティングで「これもある意味いい経験だった」と悪びれるふうもなく、何事もなかったかのように終了してしまいました。その後Bさんは、「思いつきで施策を打ち、誰も責任をとらない」というゆるい組織風土に嫌気がさして退職してしまいました。誰が見ても優秀な人だったので、同じ部署の人たちはかなり落胆しています。
あの時、上司がどのように立ち回っていれば、Bさんは退職を踏みとどまっただろう……と今も時々考えます。私は将来的にもう少し責任ある立場になってみたいという希望があり、森本さんにご意見をお聞きしてみたいです。
(Aさん/30代後半/女性/マーケティング職)
特にオーナー企業などでは「あるある」なケースですね。
私は転職エージェントとして「会社を辞めたい人」のお話を聞く機会が多いのですが、経営者や上司の理不尽さに辟易している人はたくさんいます。人間関係や上司への不信が転職理由になっているケースが散見されます。
さて、Bさんは上司に不信感を抱いたとのことですが、この状況では上司もどうしようもなかったのかな、と想像します。
人事権を社長が握っているかぎり、大切な部下のためであっても楯突くことはなかなかできるものではありません。守るべき家族を持つ方であればなおさらでしょう。
このケースでも、社長の言いなりになってしまった上司を責めるのは酷のように思います。
とはいえ、上司の立ち回り方次第では、Bさんも納得し、退職までには至らなかったかもしれません。
この状況で上司がとるべきアクションとはどのようなものでしょうか。私はフェーズごとに以下のポイントが重要だと考えます。
1. 社長へ提言する
メンバーから反対意見が出ていること、そして自身も反対意見を持っていることを社長に伝えます。
とはいえ、社長が「聞く耳を持つ人かどうか」を見極める必要があるでしょう。言っても聞かないタイプの社長であれば、自身の立場を危うくするリスクをとってまで食い下がるのは得策とはいえません。
その場合、社長の決定に従わざるを得ない前提で、中間管理職として最大限できることをしましょう。その場合のポイントを以下でお話ししますね。
2. 社長との話し合いをフィードバックする
社長への提言を行った結果、意見を却下されたのであれば、その経緯をちゃんとメンバーにフィードバックしましょう。「上司はまったく動いてくれなかった」と思われないようにしたいものです。
また、社長にその施策に関する真意や目的を聞けた場合は、可能な範囲でメンバーにも伝えてください。この時、社長の言葉を右から左へそのまま伝達するのではなく、自身の中で一度咀嚼し、自身の言葉で「これをやる意義・価値」を伝えるようにしましょう。
3. 指示を遂行するメンバーを最大限サポートする
現場のメンバーとしては、不満や疑問を抱きながら取り組む業務は、大きな負担感や苦痛を感じるものです。上司はメンバーに丸投げせず、できるかぎりのサポートを行う姿勢を見せましょう。
実質、上司自身が手足を動かしてできる業務がないとしても、「ちゃんと見ている」「いつでも助ける」というスタンスを示しておくことが大切です。
4. 労い、評価する
今回のご相談のケースのように、プロジェクトが大失敗に終わった場合、担当したメンバーには徒労感が残ります。
上司としてはしっかりと労い、結果は失敗だったとしても「プロセス」を褒めましょう。
メンバーとしては承認欲求が満たされることで、ポジティブな気持ちになれるのではないでしょうか。
上司は「評価」という権限を持っているのですから、それをもってメンバーの報酬や昇格につながるようにするべきだと考えます。それが、上司にできる「責任の取り方」なのではないでしょうか。
もしBさんが、このイレギュラーな業務で発揮したスキルをきっちりと評価され、次はご自身が希望するプロジェクトにアサインされたり、やりたいチャレンジの支援をしてもらえたりしていれば、退職にまでは至らなかったのかもしれません。
それでも会社への不満が収まらないのであれば、そもそも経営思想や組織体質が合わないのだと思います。社長の思いつきではなく、論理的に戦略を立て、結果をしっかり検証するような企業に移ったほうが、いきいきと働けるのではないでしょうか。
その場合は、メンバーが退職を決意しても無理に引き留めず、その人にマッチする新たな職場での活躍を応援してあげるべきだと思います。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。